ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
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ではさっそく!
※渋沢栄一:近代日本資本主義の父。明治~昭和にかけた活躍した実業家。
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目次
【点検要領の解釈:⑪床版ひびわれ】
⑪床版ひびわれも頻出の損傷です。
いま、あなたは床版下面に移動し点検を始めようとしています。
そして床版を見上げると、2方向の床版ひびわれが発生し、漏水もおびただしい。
大型車両が通過するたびに上下に振動し、いつ床版がぬけてもいいくらい劣化している...
こんな誰が見ても危険な状況であれば、点検はある意味簡単です。
悪いものは悪いものとして、しっかりとありのままを記録します。
しかし、
橋梁の健全度というのは、外観とは逆のことがたくさんあり、ほとんどの技術者が健全という状態でも時に自分を信じ、逆の判断を迫られることもあります。
それを判断するには、たくさんの知識を吸収し、経験をつむ必要があり、これで満足ということはありません。
特に床版の損傷は、車両が直接のっている部材ですから、とても重要な部材であると言えます。
そして、頻出の損傷だけに、床版のひびわれを確実に記録できないといけません。
さて、
そんな⑪床版ひびわれについて、今回も点検要領に書かれている内容をもとに、バラつきが出ない記録の仕方と健全度評価する際にはどこが重要になっているのかについても触れていきたいと思います!
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<点検要領の付録-1>
⑪床版ひびわれについて、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
上図の着色した下線で示したように、⑪床版ひびわれが対象となる部材は大きく3つに分けられます。
では上図の着色下線を順番に解説していきますね。
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1.鋼橋の床版ひびわれ
赤線:鋼橋のコンクリート床版を対象としたひびわれ
これが基本となります。
鋼橋の床版でひびわれが発生していたら、この損傷種類の選択でOKです。
ちなみに、
これまでS63年度に策定された要領(以下、63要領)から、H16→H26→H31の3回に点検要領の改訂が行われています。
16要領まで”この行のみ”の記載でした。当初の点検要領では“床版=鋼橋の床版”としていたようです。※青線や緑線の部分はH26の改訂時に追記
2.コンクリート橋の床版ひびわれ
青線:T桁橋のウェブ間(間詰め部を含む。),箱桁橋の箱桁内上面,中空床版橋及び箱桁橋の張り出し部のひびわれも対象である。
H26要領の要領に追加された部分です。
これは何かというと、コンクリート橋にも床版があるので、鋼橋同様に記録してねってこと。
では、H26年度に追記されたこの部分でいう、コンクリート橋の床版とは、具体的にどれが該当するのでしょうか?
下図をご覧ください。
◆T桁橋のウェブ間(間詰め部を含む。)
T桁橋の主桁と主桁のあいだにある部材のことを指しています。
ここで注意が必要なのは、工場製作桁でのウェブ間のとき。
ウェブ間の間にひびわれがあれば、⑪床版ひびわれで記録します。
ただし、工場製作桁のときは、上図のように部材が2種類になることに注意してくださいね。
以下2点のように考えるとわかりやすいと思います。
・工場製作桁であれば、主桁Mg⑪床版ひびわれと、床版Ds⑪床版ひびわれの2種類。
・現場製作桁であれば、 床版Ds⑪床版ひびわれの1種類。
補足>
パッと見、T桁橋は同じように見えますが、
工場製作か、現場製作かの見分け方はハンチの形を見るといいですよ^-^
◆箱桁橋の箱桁内上面
コンクリート橋箱桁の上床版を指しています。
◆中空床版橋及び箱桁橋の張り出し部
コンクリート橋の張り出し床版を指しています。
3.溝橋の頂版の床版ひびわれ
緑線:必要であれば床版ひびわれ
溝橋の頂版は主桁として扱いますので、本来であればひびわれが生じている場合、⑥ひびわれで記録します。
ただ、この要領で記載されている内容というのは、床版特有の損傷とみなせるときは⑥ひびわれではなく、⑪床版ひびわれで記録してねってこと。
溝橋といっても土被りが少ない場合、輪荷重の影響を受けますので、そのひびわれが2方向なのか、水の影響は受けているのかを表現できた方が適切であるという考えなのでしょうね。
これは要領で触れていませんが、
この解釈をするとラーメン橋台の頂版も同様ですので、損傷の状態を踏まえて点検してみるのもいいと思いますよ。
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<点検要領の付録-2>
下図は損傷程度の基準ですが、たくさんあって迷ってしまいますね。
H26年度の改訂時に“状態a“の追加とそれまでの”状態b~e“が大きく変わりました。
ここの要点は、ひびわれの方向、漏水有無、ひびわれ幅です。
これに注意しておけば、現場で迷うことはないでしょう。
床版への水分の浸入が劣化に対して影響が大きいことから、より漏水に厳しく記録できるように改訂したのでしょうね。
◆ひびわれは1方向か、2方向か?
◆漏水があるか?ないか? →あればd以上確定。
◆ひびわれ幅は0.2mm以上か? →0.2mm以上が主であればe確定
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【健全度評価への影響】
◆床版の劣化メカニズムはまだまだ未知。
◆ひびわれ幅が0.1mmも1.0mmも損傷図では見た目変わらない。
床版には大小たくさんのひびわれが入ります。
まったく品質に影響のないひびわれも含め損傷図をそのままかくと、あたかも床版がボロボロに見えてしまうほどです。
橋梁点検では客観的事実を記録することが目的ですので、記録はしなければなりません。
ただ、いまのメンテナンス業界の現状から、まったく健全性に影響のないひびわれを1本も残らず、限られた労力や費用のなかで点検することの費用対効果、そしてそれが実行可能か...
悩ましい所です。
特に地方自治体の方々はたくさんの橋梁の点検をし、補修要否まで決めないといけないのですから、メリハリのある点検ができればそれが最適だと思います。
しかし、それには相当の技術力が必要です。
今は、それを補完するドローンやレーダー等の最新技術によって全ての損傷を記録したうえで、メリハリのある評価ができる技術者の育成を急ぐ必要があります。
さて、本題に。
一般的な床版のひびわれメカニズムはここで割愛しますが、この付録-2で示している損傷状態(図)は、一般的な床版の劣化メカニズムです。
床版が破壊するまでの大まかな順序としては、
1方向のひびわれ→2方向ひびわれへ進展→ひびわれ幅の増大、漏水発生格子形成→密度の増加→角欠け→破壊という流れですよね?
なので、この要領では方向やひびわれ幅、漏水有無について点検で記録できるようになっています。
これまでは床版の破壊は疲労や輪荷重の影響、構造的な要因を主として考えられてきました。
しかし、最近ではこのようなひびわれ幅や密度、漏水有無に関係なく、床版が破壊する事例が増えてきているのです。
例えば、
2方向ひびわれもなく、ほとんど損傷が見えない床版下面であるのに、床版内部はボロボロ。
ほかには前回点検では漏水もなかったのに、5年経過しないうちに床版に穴があいた等、みなさんも講習会やテキストで見た覚えはありませんか?
そのため、健全度評価するときには、従来の損傷メカニズムに固執すると重大な診断ミス(医療ミス)をしてしまうかもしれません。
そう考えると、1方向のひびわれで漏水もないので、⑪床版ひびわれbとなった損傷でも、実は健全度がⅡ、Ⅲ以上になる可能性が大いにあるわけです。
単純に、損傷状態がb,cだから健全・安全とはなりません。
また、同じように、前回点検で健全度Ⅰだから橋として安全・健全ともなりません。
なぜなら、このような考えで点検・診断した評価と比べれば、おのずとその健全度評価の信頼性も変わってしまうからです。
【今回のまとめ】
・床版ひびわれは、鋼橋もコンクリート橋も存在する。
・コンクリート橋の床版は工場製作か現場製作かで範囲が変わる。
・健全度評価は外観上で判断できないことがある。
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【次回のノート】
次回は「⑫うき」について書きたいと思います。
近年では、うきを確認するためにドローンにその検査機能を搭載できないかとか、レーダーで判断できないか等、新たな方法が開発されてきているようです。
ただ、まだまだ人間も負けていられませんし、うきを見つける打音技術もいまのうちに習得しておけば、機械化されても評価できる人間として重宝されるでしょう。
次回は、うきの説明のほかに、うきを現場で見るけるポイントも書けたらいいなと思っています。よろしくお願いいたします!
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