㉑異常な音・振動

損傷種類㉑:異常な音・振動とは?!-どこへ行きたいのかわからなければ、目的地に着いても気づかない。byエルヒヴィス・プレスリー

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
このブログが橋梁メンテナンスに携わる皆さまのお力になれたら嬉しいです!
ではさっそく!

※エルヒヴィス・アーロン・プレスリー:アメリカのミュージシャン。キングオブロックンロール。

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目次

【点検要領の解釈:㉑異常な音・振動】

『ガーーーン、ガーーーン!』
『ガキン!、ガッキン!』

橋(鋼)を架け始めた新人のとき、どこからともなくすっごい音が。
いったいどこから?
何かぶつかったのかと思わせるような衝突音のような音が聞こえてきます。

「桁が鳴いている…」


先輩の口からでこの言葉がとても印象的でした。
鋼橋の現場では、この”橋が鳴いている現象”をけっこう簡単に体験できます。

これはですね。
鋼材で造られた橋の桁等がお日様に照らされると、あたたかくなって鋼材が膨張します。
すると、主桁や横構等の鋼部材同士の結合部がずれたりして音がなるらしいのです。

それを先輩は”鳴いている”といったのでしょう。
よくその先輩は
”橋は生き物だから〇〇しなきゃいけない”
と口癖のように教えてくれました。

さて、
今回㉑異常な音・振動ですが、目に見えない音や振動を相手に点検しなくてはなりません。
いま聞こえている音や振動の発生源がわからないまま、ただ闇雲に耳をそばだてても目的地(発生源)にたどり着くことはできません。

要領の解説とともに、音や振動の発生機構についても書いていきたいと思います!

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<点検要領の付録-1>

㉑異常な音・振動については、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


上図の赤枠ですが、

通常では発生することのないような異常な音・振動が生じている状態をいう。

点検要領ではこう記載されています。

⑬遊間の異常や⑮舗装の異常、⑱定着部の異常、㉒異常なたわみ・・・
といったように「異常」という言葉がでてきます。

そもそも「異常」ってなんでしょう?( ゚Д゚)

「異常」とは「正常ではないこと、普通と違っていること」です。

・・・


例えば、風邪をひいたとき。

鼻水、くしゃみ、咳、熱、倦怠感というような症状が出ます。
これが異常な状態です。
正常ではなく、普通と違っていますよね?

風邪をひいていない正常(健康)なときの状態をしっているので、すぐ気づきます。

橋も基本は同じです。
正常(健康)のときの橋の状態を知っていれば、

「あれ?なんかおかしいな?」

というように橋の異常な音・振動を見つけることができます。

正常な状態がわかるから、異常な状態がわかる。
その通り。

ただ、これが難しいんですよね。

ある程度経験を積めば、
普段体験しない音や振動をなんとなく「おかしいな?異常かな?」と気づくことができると思います。
風邪と一緒ですよね。
風邪をしっているからわかります。

では経験が少なかったら?
残念ながら何が異常な音なのか、異常な振動なのかわかりません。

しかし!
経験がなくても大丈夫。
経験すればいいんですから。橋は逃げていきませんし。

点検でよく発生する事例をすこし挙げてみました。
この事例を参考にどんどん現場で経験してみてください!

現場でこんな状態に遭遇したことありませんか?

◆異常その1:伸縮装置

伸縮装置は輪荷重を直接受ける部材ですし、気温の変化でいつも伸び縮みしています。そして、雨や雪の影響も受けるので、腐食しやすい部材です。
では、どんなときに異常な音や振動が発生するのでしょうか?
まずは一例を。

<ウェブとフェースプレートの破断>
伸縮装置を構成する部材が破断すると、異常な音や振動が発生します。破断までの一例はこんな感じです。

フェースプレートの下に充填されているコンクリートが脆弱化したり、もともとの空洞部に水がたまります。

フェースプレートとウェブや補剛材の溶接部が腐食し破断に至ります。
破断の影響で振動や音が発生し始めます。

破断すると上下に動いたり、“首振り”といってフェースプレートが回転したりします。

破断の範囲が広がっていき、上下動や回転が大きくなり、より音や振動も大きくなります。

ついには、フェースプレートが完全に外れ、飛散します。

この一例のように破断すると上下動(振動)や変な音がしてきます。
ただ、初期の段階ではではわかりにくいことがほとんどです。
まずわかりません・・・
完全に外れてしまえばわかりやすいのですが、そうなるとかなり危険ですからね。

ではどうするか?

実際の点検で私がしていることを紹介します。

・異常が生じているかもしれないので、フェースプレートを点検ハンマーで叩いてみる。
 ※このとき大事なことは、ウェブ位置をねらって打音すること。
・大型車両が通過するときに手で触って、揺れを感じることです。足でもOK。
 その場合、揺れが細かく伝わっているのを感じること。ビビリ音のようなものですよ。

細かい揺れがわからない方は、
”新しい橋” あるいは ”壊れていないと思われる伸縮装置” を実際に打音してみるといいでしょう。
これが健全(正常)な状態なんだと認識することが大切です。

ちなみに、あまり車道にでないようにしてくださいね。
安全確保を忘れずに!

◆異常その2:支承

支承も色々ありますが、一例としてはローラー沓ですね。
これはどんなときに、どんな音がなるのか?

<ローラー支承の移動障害>
ローラー沓はその転がりによって、橋体の伸縮を吸収しています。

しかし、
年月が経つと腐食したり、粉塵がたまったりして、設置当初のような転がり性能がどうしても失われてしまいます。
そのほかにも、
支承設置時に橋体の伸縮方向と合致しないまま設置してしまうと同じような現状が発生します。
直線桁以外では注意が必要です。(橋の動きは複雑で、設計では想定できない動きをするのです。)


本題に戻りますが、
転がり性能が低下し、橋体の伸縮を吸収できなくとどうなるか?

橋体の伸縮にうまく追随できず、ローラーがブレーキをかけてしまうのです。
ブレーキがかかると『ギシギシ』、『キーキー』のような音が発生します。これが異常な音です。

点検時に異常音が確認され詳細調査を行う場合があるのですが、残念ながら原因究明に至らないことがあります。
目に見えない音についてその原因を探し出すのは困難な場合があるのです。

原因究明に乗り出すときは、最期まであきらめないで調査をやり遂げる覚悟が必要だと思います。
なぜなら、ほとんどの場合それほど橋の性能に影響がないとは思いますが、ごく稀に危険な場合があるからです。


大丈夫だろうと判断した㉑異常な音・振動のなかには、恐ろしい結果につながることも(-_-;)

その結果の1つとしては、上部工を支えているこの支承のローラーが破断したり、折れたりします。
こうなると、
橋にとって危険な状態ですので、橋を通行止め(健全度Ⅳ)することもありえます。

設計、施工、劣化機構などメンテナンスでは色々な知識が要求されますので、この一例を新たに点検の知識と加えていただき、多様な考えをもって原因究明に挑んでほしいと思います!

◆異常その3:手すり

手すりもたくさんあります。
例えば、検査路の手すり、主桁付きの手すりがありますが、これも意外に多いのです。

<検査路の手すり>
Uボルトで支柱と手すりを固定している場合、この締め付けがゆるんでくると『ガタガタガタ』等を短い間隔の音が発生します。

手すりのボルトは工場出荷時に締め付けたり、現地で組み立てたりするので、どこかで締め付け不良が起きてしまうのです。
主桁は高力ボルトなので専用の機械で締め付けますし見た目でもわかることもあるのですが、検査路のような普通ボルトは日曜工具でも締め付けることができるので注意が必要です。

点検をしていると結構ゆるんでいる手すりを発見することが多く驚きます。もし現地で確認できた場合は早急に締めつけたほうがいいですね。
安全確保のための検査路なのに、手すりがゆるんでいるとかなり危険ですから。


<主桁付きの手すり>
よくあるのはボルトオンタイプではなく、孔が空いた主桁付きの金具に管状の手すりを通すタイプです。
金具と管状の手すりに隙間が少しあるので、車両通過時の振動で手すりが揺れて振動します。

その振動音が異常な音として聞こえることがありますが、これは異常な音ではなく、なるべくしてなっていることがありますので、㉑異常な音・振動として記録するかどうかは手すりの構造を確認してみてからがいいですね!

<点検要領の付録-2>

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課

評価区分は、“a”か“e”の2択なので迷うことはあまりありません。

ここで大事なことは、(2)その他の記録です。
音や振動は目に見えないので、点検調書で記録するときに重要なポイントは、現地の臨場感を調書の残すことがとても大事になってきます。

例えば、
「どんな音/振動か?」
「いつ、どんな条件下で音/振動が発生したのか?」
など。

それと、この要領でも記載されているように、原因究明に努めたものの発生箇所を特定できない場合は。「異常を有する(発せ箇所不明)」と記載することも忘れずにお願いします。

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【今回のまとめ】

・「異常」を理解するためには「正常」な状態を日頃から身に着けておく。
・目に見えない音や振動をより詳しく疑似音も含めて点検調書に残す。

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【次回のノート】

異常な音の例としては、事例が少ないので今回は書きませんでしたが斜張橋やランガ―のような吊り材も注意が必要です。
風が強い場所に架橋されている場合は、ある条件下を満たした風の影響でビビリ音が聞こえるときがあります。ケーブルや吊り材の損傷に至ることがあるので点検では要注意。

さて、次回は㉒異常なたわみです!
また出ましたね。異常シリーズ。

たわみも難しいですね。そもそもたわみの異常ってなんでしょうね?あっていいの?なんて声が聞こえてきそうです。

この疑問に答える事例を交えながら、次回の点検ノートを書いていきたいと思います!!


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