ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
このブログが橋梁メンテナンスに携わる皆さまのお力になれたら嬉しいです!
ではさっそく!
※フランシズ・ベーコン:イギリスの哲学者。「知識は力なり」「イドラ論」
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目次
【点検要領の解釈:㉒異常なたわみ】
🐇:なにやってるの?
🐂:高欄の“とおり”をみてるんだよ。
🐇:“とおり”ってなに?
🐂:高欄とか桁とかの“まっすぐの状態”のことで、鼻のとおりっていうじゃない?あれと一緒。
🐇:とおりって、点検でも大事なの?
🐂:大事だよ。橋の状態を知るにはこれをやらないとね。
🐇:橋の状態ってなに?高欄を見るとわかるの?
🐂:橋の上に高欄ってついているでしょ?
ということは高欄(のとおり)に異常があれば、その下の橋も異常があるとは思わない?
🐇:なるほど。
🐂:いいかい、うさぎさんちょっと見てて。
例えば高欄のトップレールの高さと目を同じ高さにして、遠くを、高欄全体を見渡す。本当はキレイに弧を描くはずのレールがときどき、ズレていたり弧を描いていなかったりするんだよね。ってことは、その橋が設計通りに架設されていない、つまり“異常なたわみ”が発生しているってこと。
🐇:でもさ、“異常なたわみ”って言われても、感覚的なものって感じでちょっとわかりにくいよ。
なにが“異常“なのかわからないもん。
🐂:ですよね・・・おっしゃる通り・・・
こんな仲良し組2人のやり取りですが、思い出しますね、あの時の現場のことを。
同じようなやり取りが、橋を架け始めたころの新人のわたしもありました。
大変だったなあのころ(゜-゜)
いまならわかりますが、急に”とおり”と言われましても・・・
おかげさまで、今では”とおり”が気になってしまうように。
人生には遠回りと思っていても、後になって振り返ってみると一番の近道だったのかな?と思えることがよくあります。先々のことは本当にわかりませんね。
さて!
これまでのブログで取り上げてきた“異常シリーズ”ですが、異常って正常がわからないと意味不明ですよね。
そんな点検での異常シリーズの最終章㉒異常なたわみについて、今回は要領の解説と併せてどうして異常なたわみが発生したのか?の事例を交えながら書いていきたいと思います!
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<点検要領の付録-1>
㉒異常なたわみについては、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
上図の抜粋ですが、ここが重要です。
通常では発生することのないような異常なたわみが生じている状態をいう。
定期点検で判断可能な「異常なたわみ」として対象としているのは、死荷重による垂れ下がりであり、活荷重による一時的なたわみは異常として評価できないため、対象としない。
死荷重も活荷重も想定した上で橋梁は設計されているので、異常にたわむこと自体がないはずなのですが、そういかないのが現実というわけで。
ちなみに、異常なたわみについて補足すると、構造物の出来形管理を超えた状態のことを示していると思います。
どんなに大きな橋梁でも数mmの許容値で出来形管理することになっています。超精密な構造物ですので、つくるときもそれ相応の技術力が要求されます。
ではなぜ異常なたわみが発生するのか?
それは想定外のことが起きていると言えるでしょう。
よくありますよね?
設計と現場、工場と現場、会議室と現場。
相反するこの2つの間のお互いの想定外のことが起きています。
橋梁点検でも同じことが今起きています。
点検→診断→調査→工事といった4つの分野がそれぞれ行っているメンテナンスでは、お互いが情報共有し、メンテナンスサイクルがうまく回していかなければなりません。
しかし、この4つの分野で想定外のことが重なっていて、このメンテナンスサイクルがうまく回らず、いっこうに補修が減らない、健全度が向上しない事態になっています。
本題に戻りますね。
異常なたわみはそんなに事例がありませんが、以下に事例を挙げてみました。
こんなことが現場でおきるんだなって気づきがあるかもしれません!
◆異常case1:主桁の異常なわたみ(架設工法編)
橋の架設工法に注目しよう!
主桁を架設する代表的な工法として、ベント+クレーン架設工法というものがあります。
これはベントという仮の支保工で橋を下から支えながら架設する工法で、架設工法としてはとても一般的な工法です。架設実績も多く、あまり失敗しない安全安心安定な工法と言えます。
ただ、この安定の架設工法といえど、失敗(異常なたわみ)してしまうことが。
例えば、ベント+クレーン架設工法が採用されていても、現地条件により部分的に別の架設工法を採用する場合があります。
その1つが、張り出し架設工法です。
張り出し架設工法とは、ベントが設置できない場合に主桁だけを延ばしていく工法です。
ベントを設置できない場合というのは、例えば川があるとか、渓谷だとかですね。
張り出し長さが短い場合は、
「ここでベントを設置して仮受けしたかったけど、設置できないから主桁1ブロック分だし、ここは張り出しで」
なんて感じで採用されます。
ただ、張り出し長さが長くなるとそうはいきません。
なぜなら、
ベントで受けずに主桁を張り出していくと、わずかながらその主桁の先端がすこ~しずつ下がっていくのです。
高力ボルトで本締めしても下がります。
そして、張り出し長さも量の違いはありますが関係なく下がります。
これが、
すこ~し計画より下がった状態でも架設は可能です。
しかも許容値にも入ります。
これがほとんど。
下がった状態でも少しくらいならどうってことありません。
設計の想定内で架設はできます。
ただ、
橋屋(施工者)としては100%満足(きれいなキャンバー)とはいかず・・・
しかし、これには落とし穴が。
設計時からこの”下がり量”を想定して設計や製作したり、張り出している時間を少しでも短くするために、架設作業を早めたりするわけですが、この下がり量(たわみ量)が想定を超えて大きくなってしまうことがあるのです。
これが、㉒異常なたわみとなります(なることがある)。
張り出し架設工法自体は問題ありません。
ただ、経験の1つとして、現場では設計時に想定しなかったこんな場合もあるよってことで。
◆異常case2:主桁の異常なわたみ(床版撤去編)
床版の取り替え履歴に注目しよう!
床版の損傷がひどくなると、補修せずに床版を取り替える場合があります。
撤去するときにもっとも重要なのは、その橋が合成桁構造か非合成桁構造かどうか。
くわしい話はまたの機会にするとして、床版撤去で注意が必要なのは合成桁構造のとき。
合成桁構造とは主桁と床版が一体となってはじめて橋の構造体として機能する構造のことですが、この合成桁構造の床版をなにも考えずに撤去すると、橋梁構造として機能しないので主桁が座屈してしまいます。
本来であれば、合成桁構造の床版を撤去する場合は、座屈しないように補強したり、ベントで仮受けしたりしないといけません。
ただ、これを省略している場合が稀にあるのです。
結果として落橋はしないで済んだものの、異常なたわみとして主桁が垂れさがったり(逆キャンバー)、主桁下フランジやウェブ等が座屈、変形したりします。
ほかには、中間視点上の支承や伸縮装置の遊間量に異常がある場合もあるので、たわみが点検で見つかった場合は、㉒異常なたわみだけじゃなく、⑬遊間の異常や㉓変形・欠損にも注意してよく確認してみるといいですよ。
今回のブログの冒頭での仲良し2人組のやり取りでもありましたが、たわみを見つけるには“とおり”が重要です。
下フランジの高さに目の高さを合わせて、“とおり”を見てください。
㉒異常なたわみが見つかるかもしれませんよ!
◆異常case3:検査路の異常なわたみ(積雪編)
積雪の影響に注目しよう!
上部工検査路は主桁の間にあることがほとんどなので問題ないのですが、積雪寒冷地では下部工検査に大量の雪が積もります。
その積雪で歩廊を支えるブラケットのアンカーが抜けることがあります。
アンカーが抜けているので、当然、歩廊を支えることができず、異常なたわみが発生します。
この場合、変形まで至っていなかったり、アンカーが抜けきっていなかったり、損傷が目立っていないことがあります。
とても危険な状態なので点検する時には注意してくださいね!
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<点検要領の付録-2>
異常シリーズの評価区分は、“a”か“e”の2択なので迷うことはあまりありません。
ここで大事なことは、(2)その他の記録です。
点検調書の図示では異常なたわみが発生している位置はわかるのですが、
どんなたわみ(形)なのか?
どのくらいのたわみ(量)なのか?
そして、
よほど大きなたわみが生じている場合を除き、写真ではわかりにくいことがほとんどです。
このように
たわみの状態の健全度評価をするための情報としては、図や写真、文字だけでは不足しています。
ただ、
たわみをくわしく計測するのは、点検の域を超えています。
そのため、
点検ではどの程度まで記録するのかを考える必要があります。
一例としては、
全径間も同様である可能性があると注記し、部分的なたわみや座屈箇所の計測することも有効だと思います。
梯子くらいで届く位置ならば、下げ振りやスケール、水平器があれば計測可能ですから。
あと1つ大事なことが。
その㉒異常なたわみは、健全度としては異常なのか?
の視点をもっておくべきだと思います。
なぜなら、
橋梁構造の安全性に影響していない㉒異常なたわみがよくあるからです。
H26要領から近接点検が義務付けされ、これまで確認できていなかった損傷が多く記録されるようになりました。
そこで問題となっているのは、その損傷に対する補修です。
たくさんあるのですべて補修できるわけもないですし、健全度かつ緊急性に応じた補修の優先順位をつけなければいけません。
㉒異常なたわみについても同様で、補修しなければいけない損傷なのかを見極めなければいけません。
しかも、たわみについては現実的に補修できないことがほとんどです。
まずは慌てずに、異常なたわみが生じた原因の特定、管理カルテの整理(架設工法や床版撤去等)、座屈や変形の損傷箇所の記録をするところ始めることが大切です。
そして、健全(健全度Ⅰ)とは言えない状態であり、初めて記録されるような㉒異常なたわみであれば、ある一定の期間において追跡調査(健全度Ⅱ)を行っていくという措置方針も有効だと思います。
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【今回のまとめ】
・異常シリーズでは「正常」な状態をしるために、損傷以外の知識も大切。
・たわみがある所に、座屈や変形が潜んでいる。
・点検調書では、点検の責任範囲において可能な限り、健全度評価のための痕跡(計測)を残す。
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【次回のノート】
わたしが現場から帰ってくると、橋梁点検の面白さを教えてくださった先生がいつも
「現場についていきなり損傷を見に行ってはいけないよ。本格的な橋の点検を始める前に、全体を見ることが大切なんだ。」
そうですよね。
そうなんです。
より広い視野で物事を捉えるためには、情熱をもって点検すると同時に、冷静さを失ってはいけません。
今回の㉒異常なたわみの記事を書くにあたり、橋を架設したり床版を施工したりしたときの、先輩や職人さんとのやり取りをたくさん思い出しました。
「おい!そこからこの“とおり“みてくれ!大丈夫か?」
「この”とおり”、おかしいよな?」
「こんな“とおり”だけど、許容値はいってるか?」
『“とおり“ってなんだよ。』
『そんなのわからないよ』
新人のころ、そう心の中で思っていました。
過ぎてしまえば大事なことなので、いい思い出ですね(´-`*)
次回の点検ノートは㉓変形・欠損です!
⑦剝離・鉄筋露出や今回の㉒異常なたわみでも出てきたこの損傷。
次回はどんなことが書こうかな?
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