ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
このブログが橋梁メンテナンスに携わる皆さまのお力になれたら嬉しいです。
ではさっそく、いってみましょう!
※坂本龍馬:土佐藩郷士、幕末の志士
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目次
【点検要領の解釈:㉓変形・欠損】
ある日の点検。
橋の下に移動し、橋台や主桁端部の点検を行っていたところ点検メンバーから
🐢:すみませ~ん。この下フランジちょっとだけ変形してません?
🐂:おっ。変形してるね。
🐢:なんで変形してるんですか? 見たところ近くの支承も沈下していないし、塗装もきれいだし。
🐂:これはね。ジャッキでやっつけたのかもね。
🐢:ジャッキ?
🐂:そう。油圧ジャッキ。沓座モルタルの再施工と主桁の再塗装を行った形跡があるから、この支承は以前に沈下して、その補修工事でつかったジャッキが原因じゃないかな。
🐢:沈下しているのと、ジャッキって何が関係しているんですか?
🐂:沈下している支承を補修する時は、基本的に支承を元の位置に戻すんだけどね。
🐢:支点調整ってやつですよね?
🐂:そう。そのときにジャッキをつかうんだけど、ジャッキをかける位置には必ず補強する必要があるんだ。
🐢:ほかの現場でもアングル材が残っている、あれですね。
🐂:それそれ。現場では色々あるからさ、たまに補強しないままジャッキをかけて突いてしまうことがあるらしくて。でも、そういうことしちゃうと下フランジを曲げてしまうのね。
🐢:いろいろあったんですね。ここは・・・
と、
点検をしているとホントいろいろあります。
点検技術って推理が必要なんですよね。
「あーかな?、こーかな?、ここは?、あれは?」
「ほら、次の現場いきますよー」
「もう少しっ!」
って感じで、もう夢中。そこが面白いところ(´-`*)
今回は点検要領の解釈に加えて、ちょっと変な変形・欠損事例について紹介していきたいと思います!
※今日は、かめさん🐢とTaurusこと私🐂でした。
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<点検要領の付録-1>
㉓変形・欠損については、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
上図の点検要領の説明の通り、㉓変形・欠損とは
“原因にかかわらず、部材が局部的な変形を生じている状態、またはその一部が欠損している状態をいう。”です。
変形や欠損について辞書で調べると、
変形:形や状態が変わること。
欠損:物の一部が欠けてなくなること。
変形も欠損も、言葉としては馴染みがありますし、点検でもあまり困らずにすみそうな感じがします。
このような状態が橋にあれば点検で記録しましょうってことですね。
しかし!
意外にもあるんですね。注意点が。
わたしだけでしょうか?
結構、㉓変形・欠損あるある なことがあると思いますよ?
そこで注意点として3点あげてみました!
◆注意その1:原因にかかわらず
車の衝突や施工時の当てきず,地震の影響など,その原因にかかわらず,部材が局部的な変形を生じている状態,又はその一部が欠損している状態をいう。
㉓変形・欠損で記録される例としては、車両の衝突による防護柵や主桁の変形がよくあります。
また、桁下高さの低い跨道橋や横断歩道橋の下を無理やり?重機を積載した大型トレーラが通過しようとして衝突するニュースが度々報道されます。
かなり大きな衝撃音とともに、これまた大きな変形が発生しますし、さらには亀裂や破断なんてことも。
このように㉓変形・欠損の原因としては、「衝突」がだいたいと占めるのではないでしょうか?
あて傷がしっかり残っているので、その場合は損傷原因で迷うことは少ないですよね。
ただし、
一方で、㉓変形・欠損の困るところは、損傷原因がよくわからないというパターンがあるところ・・・
「衝突」だけではないんですよね。
「衝突」がわかりやすいだけに、ほかの損傷原因がかすんでしまいそうです。
「施工時のあてきず」や「地震の影響」などとあり、「衝突」以外でも変形や欠損に至ることがあるので、原因に関わらず漏れなく記録することが大切です!
◆注意その2:「剥離・鉄筋露出」としても扱う。
変形・欠損以外に,コンクリート部材で剥離・鉄筋露出が生じているものは,別途,「剥離・鉄筋露出」としても扱う。
㉓変形・欠損のページに⑦剝離・鉄筋露出としても扱う注意書きが。
コンクリート部材が劣化すると、この2つの損傷種類のどちらで記録するべきか迷うことが多いからなんでしょうね。
コンクリート部材がなんらかの原因で鉄筋が見えている、あるいは部材の一部がなくなっているときには注意が必要です。
例えば、コンクリート主桁端部等の部材が衝突や凍害で損傷している場合、
「これは剥離?、それとも欠損?」
「剥離といえば、剥離だし・・・、欠損といえなくもないし・・・」
「剥離して鉄筋が露出しているから⑦剝離・鉄筋露出!」
点検ではこんなことありますよね?
おさらいですが、
⑦剝離・鉄筋露出とは、
・コンクリート部材の表面が剥離している状態
・それが進行して鉄筋が見えている状態
㉓変形・欠損とは、
・原因にかかわらず,部材が局部的な変形を生じている状態
・一部が欠損している状態
このように文章でみると簡単なのですが、いざ損傷したコンクリート部材をみると、やはりどちらで?
それとも両方?というように、適切な記録の仕方で迷ってしまいます💧
前述の点検要領の記載内容から解釈するに判断基準は
“コンクリート部材の残り具合“
だと思います。
残り具合とした理由は下記の2つ。
1.⑦剝離・鉄筋露出が“コンクリート表面で剥離し、それの進行による鉄筋の露出“であるのなら、まだ部材として形がのこっている。
2.一方、㉓変形・欠損が“一部が欠損している状態”であるのなら、部材として形が残っていない(部分的に)。
さらに適用できる記録方法としては下記の3つ。
1.⑦剝離・鉄筋露出のみ
2.㉓変形・欠損のみ
3.⑦剝離・鉄筋露出と㉓変形・欠損の両方
<補足>
これについては、2021.08.21に本ブログにUPしている「⑦剝離・鉄筋露出とは?!」にも触れているので、今回の点検ノートと併せて確認してもらえると、私の説明不足が補ってもらえると思います。
◆注意その3:それぞれの項目でも扱う。
鋼部材における亀裂や破断などが同時に生じている場合には,それぞれの項目でも扱う。
前述の「◆注意その2」では、コンクリート部材が対象でしたが、これについては鋼部材が対象です。
さきほど例として書きましたが、大型トレーラの積載物が狭い桁下を通過しようとして接触してしまったとき、大きな変形とともに必ずといっていいほど、②亀裂や④破断が生じます。
そのため、点検要領でも改めて注意喚起をしているのだと思います。
ただ、破断は見た目でわかりやすいのですが、亀裂については目視ではわからないことがほとんどですので、超音波探傷試験での確認をお勧めします。
ほかにも下記のような損傷事例があり、㉓変形・欠損と併せて①腐食や④破断等があれば、これについても忘れずに記録しましょう!
地震の影響:トラス等の弦材や近接する部材の移動による鋼材の変形、コンクリート部材の変形
車両の衝突:道路上の部材(車両や重機の接触)の変形・欠損
支承の沈下:主桁端部や端対傾構等の変形
施工上の影響:架設時のあて傷、養生不足、補修の不備(ジャッキ位置、座屈)の変形・欠損
環境の影響:凍害、塩害の影響による沓座モルタルや主桁等の欠損
漏水の影響:排水管等の腐食進行による欠損
などなど。
<点検要領の付録-2>
変形や欠損があるか?ないか?の2択ではなく、㉓変形・欠損では“c”があります。
部材が局部的に変形(欠損)している場合は“c”
部材が局部的に著しく変形(欠損)している場合は“e”
この両者の違いは<著しい>にあります。
困りますよね?どこから著しいとしていいのでしょう?
判断基準としては、その部材の機能や性能に注目してみてはどうでしょうか?
例えば、沓座モルタルの欠損。
沓座モルタルの機能とはなんでしょうか?
支承は、
上部工の荷重支持や下部工に伝達等する機能をもっています。その機能を発揮するには健全な沓座モルタルがあってこそ。
とすれば、
どの程度まで沓座モルタルが残っていれば荷重伝達等を行えるのか・・・
言い換えると、
どの程度まで沓座モルタルが残っていれば著しい欠損とならないのか?
機能低下の閾値については道路管理者や技術者の見解がありますので、そこはある程度の範囲があってもいいと思います。
そのため、点検前にはこの“閾値”を決定しておくのが基本となります。
一例としては、
下沓の周囲程度の欠損なら“c”とする。
下沓の下面まで欠損範囲が進んでいれば“e”とする。
などの閾値が必要です。
繰り返しになりますが各道路管理者の方針があると思いますので、点検前の打合せが大切です。
今後の管理や点検会社の違いによる差が生じることを防ぐこともできますね。
点検要領ではこのように、点検のみならず一部評価を行うことになっています。
点検の目的とは、客観的な事実をもとに適切に漏れなく記録することですので、ここで評価を加えると少しその目的からそれてしまうような気がしますが、点検と評価(診断)は2つで1つということを考えると少し曖昧なところがあってもいいかもしれませんね。
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【今回のまとめ】
・㉓変形・欠損は、⑦剝離・鉄筋露出と混同しやすいが、部材の残り具合が判断指標となりえる。
・㉓変形・欠損あるところ、①腐食や②亀裂、④破断等も併せて確認する。
・㉓変形・欠損の損傷程度は、機能や性能を閾値にすることができる。
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【次回のノート】
今回の㉓変形・欠損に書いた内容は、これまで師から教わり、そして私やその仲間たちが悩んだり、話し合ってきた内容でした。
懐かしい・・・(´ー`)
点検要領でははっきりと明言されていないところがあるので、その記載内容については責任をもって解釈する必要があります。
橋を利用する国民や発注者への説明責任がありますからね。
昭和63年の点検要領(案)以降の内容をわたしが解釈し、橋梁点検ノート(このブログ)を作成しているので、もしかしたら作成した方々の思いとは違う部分があるかもしれません。
ただ、実務で点検・評価(診断)をこれまで行ってきた中での見解や解釈ですので、一定の信頼性はあると思いますが、お気づきのところがあれば教えてください!
このブログがキッカケとなり、橋梁点検の品質や認知向上に少しでも力になれたらと思っています。
さて、
次回の点検ノートは㉔土砂詰まりです!
土砂詰まりの色々な事例を多く掲載していきたいと考えています。
ではまた来週~~~!
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