㉖洗掘

損傷種類㉖:洗掘とは?! – 人生は学校である。そこでは幸福より不幸の方が良い教師である。Byフリーチェ

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
このブログが橋梁メンテナンスに携わる皆さまのお力になれたら嬉しいです。
ではさっそく、いってみましょう!

※ウラディミールフリーチェ:ロシア・ソ連の文芸学者、モスクワ大学部長

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目次

【点検要領の解釈:㉖ 洗掘

橋梁点検は、市街地、森林、川、海といった色々な場所で行います。

そして、
季節を問わないので、四季折々の風景のなかで活動できる贅沢な仕事だなと思っています。
山菜の時期になると、夕飯の食材があちこちに。

磯の匂いただよう海岸での橋梁点検。
透き通った川のせせらぎの中での橋梁点検。
いいですよね~(´-`*)

ただ、

いつも流れが穏やかな川でも、ひとたび雨がふれば豹変してしまうこともしばしば。
普段は長靴で渡ることができる川でも安心できません。
河床が岩盤だと一瞬で荒々しい川に変貌してしまうこともあります💧


前職のことですが、
橋を架けるのに工事用道路が必要だったので、小川に橋台をつくり仮橋を架けました。

その小川は水深も浅く、本当に静かで小さな川だったのです。
お盆を過ぎたころの時期に大雨が数日続き、いつもは静かなその小川が大氾濫しました。

日に日に濁流のすごさが増してくるので、
さすがに怖くなってきた頃、雨がやっと上がり良い天気を迎えた翌朝のこと。

「大雨の影響で道路が寸断し現場に到着できません!」

現場までは車1台通るのがやっとの山林をぬけていくルートでした。
そのルートが寸断されてしまい・・・

別ルートを駆使して何とか現場に辿り着くと、
仮橋を含めた辺り一帯のヤードが洗掘され、橋台もろとも流されていました。

そのときの河床が岩盤だったんですね。
小川だったんです・・・

ほんと油断できません。
岩盤だと水を吸ってくれないので、降った雨がそのまま流れてくるのでした。

工事は当然ストップ。
自分の現場以外にも甚大な被害がでて大変な思いをしました。
そのときの経験が、まさかその後に携わることになる橋梁点検で役に立つとは思いもしませんでした。

不幸のほうが良い教師とはよく言ったものです。

と、いうことで
今回の点検ノートでは、点検要領の解釈と併せて、洗掘の点検方法や点検の注意点について事例を交えながら書いていきたいと思います!
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<点検要領の付録-1>

㉖洗掘については、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課

◆洗掘の状態

洗掘とは、“基礎本体や基礎周辺の土砂が流水により、削られ消失した状態”のことを言います。

㉖洗掘の対象となる部材は、「基礎」です。
「橋台」や「橋脚」ではありません。

具体的な状態はというと、
・空中や水中問わず、橋台や橋脚の基礎のまわりの土砂が崩れている、なくなっている。
・上記が進行し、基礎と地盤に隙間が空いている。
こういう状態のときに、㉖洗堀で記録します。

基礎の安定は、底面の地盤状態に左右されるので周囲の土砂がなくなると、基礎が不安定になるので橋が傾いたり沈んだりしてしまいます。

そのため、基礎周囲の土砂の状態を点検ではしっかりと確認することがとても大切なんですね。

◆点検方法あれこれ

地盤状態を点検で見つけることの重要性はわかりました。

ただ、
この点検で見つけるのが大変なんです。

だって、橋台や橋脚は水中にもあるんですから。
しかも、浅瀬で透き通っている川ならまだ目視できても、水深が深いと?濁っていたら?

ここまでくると特別な点検方法でなければ手に負えません。

そんな難しそうな㉖洗堀に対する点検ですが、だいたいは簡易な方法で行っています。
簡易な方法で難しい場合には、橋梁点検ではなく詳細調査の業務のなかで“特別な点検方法”を用いて行います。

これらも含めて㉖洗堀を確認する手段はいくつかありますので、代表的な点検方法を下記で紹介しますね。

1.目視で確認
これが最も一般的かつ簡易な方法です。水中でなければ土砂の消失具合を目視で確認できるので、巻き尺等を使用して規模を記録します。

2.水中に測量用スタッフ等をたてて確認
橋台や橋脚基礎の近くまで近寄れることができるのであれば、水中にスタッフやポールを立てて(いれて)深さを確認します。
膝くらいまで水深であれば川の中に入っていって、スタッフ等をたてて目盛をよめばそれで完了です。
それ以上の深い場合は、露出した基礎天端の上にたって、スタッフを垂直に沈めていきます。
ちなみにスタッフの長さは長くても5mまでなので、頑張ってもこれが限界です。ただ、水流があるなかで5mの長い棒を入れるわけですから、実際には5mも入れられないのです。

その時は、点検調書のメモ欄に注記しておきましょう。
“5mスタッフにて計測。水深3.5mまで確認したが流水のため計測困難”など、評価する方へきちんと情報伝達する必要があります。


3.潜水士による目視確認
水深が深くて、測量用スタッフでは対応できない場合の点検方法として、「潜水士による目視点検」があります。潜水のプロに水中に潜ってもらい直接確認してもらいます。現段階では、これが一番信頼性の高い方法かもしれません。

4.ロープ&錘での確認
水深測量の古典的な方法といったら、この方法ですが、橋梁点検ではあまり使われていないようです。

5.船に搭載したソナー(音波)による確認
水深測量の代表格といったらこれもあります。船に搭載したレーダーをつかって水中の状態を画像化する方法です。橋梁点検の業務というより、そこで洗堀の疑いが懸念され詳細な調査を行うための方法となります。

6.ドローンに搭載したレーダー(電波)による確認
ソナーは音波を利用しますが、レーダーは電波を利用します。近年、このレーダーを活用した測量技術が発展してきて、ドローンから水中と空中問わず同時に測量できる技術も開発されています。
簡単に水中の基礎と地盤を確認できるのであれば、橋梁点検業務の中で活用される日も近いかもしれませんね。

◆計測位置

昨今の異常気象に伴う増水で、橋が傾いたり、橋脚が沈んだりする事例が増えてきましたね。
今後、ますます橋梁点検のニーズが高まってくると同時に、この㉖ 洗掘 もとても重要な点検項目になっていくと思います。

さて、
計測位置は、流水の影響を最も受けやすい代表的な位置で行うことが基本です。

例えば、
水深がそれほど深くなく測量用スタッフを使用して河床位置を確認する場合。

河川の中にある橋台や橋脚でいえば、だいたいは上流側(水が構造物にあたる側)で計測しているのではないでしょうか?
あとは、流れの速さや流路、流水の構造物へのぶつかり具合で判断して計測すると思います。

基本的にはこれで十分です。

が、

土砂の堆積状況は日々変わっているのを忘れてはいけません。
「前回点検で記録された㉖ 洗掘 が今回はない」
「前回点検と計測値が違う。」
こんなことありませんでしたか?

土砂は流水の力によって堆積と流出を繰り返しているので、前回点検で流出していた土砂が5年後の点検までに新たに供給されることがよくあります。

この状態は、洗掘していない状態ではなく、 洗掘 していた状態です。
健全ではない可能性もあるので、健全度評価するときはこの事実も忘れずに。

あと大事なことは、
特に大雨がふったりして河川が増水すると、一気に河床位置が変わってしまうので、影響がなかったかどうかを含めて点検するといいでしょう。

最後に、
中長期的には流路について考えておくことも大切です。
例えば、複数の橋脚が河川にある場合。
過去に一番洗堀していた橋脚でも、流路が変わればその結果は別物になってしまいます。
その橋脚の 洗掘 の進行は停滞し、代わりに隣の橋脚が一番 洗掘 していることもありますので。

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<点検要領の付録-2>

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課

『洗堀かな?』
と思ったら “c” か “e” になります。

が、

ここでも出てきましたね。悩ましい表現が(^-^;

区分c:基礎が流水のため洗堀されている。
区分e:基礎が流水のため著しく洗堀されている。

この両者の違いは<著しい>にあります。
“著しく”とはどこからが著しいと評価していいのでしょうか?

悩みますよね?

点検要領では、この悩ましい“著しい”という表現がたまに出てきます。
それについては、これまでの点検ノートでも何度か触れてきました。

「2021.11.27UP損傷種類㉓:変形・欠損とは?!」

それと同じ考えでいうと、「基礎の安定性」に着目してみてはいかがでしょうか?
基礎の安定性に着目した場合の“c”と“e”の境界や目安ですが、これについては技術者の判断が入るところです。

例えば、直接基礎。

基礎底面と地盤に隙間がなければ“c”でいいのか?
隙間がなくても基礎側面が完全に露出していれば“e”なのか?
地盤が土砂であれば“e”だけど、岩盤であれば“c”でいいのか?

それぞれの技術者での見解の相違が出てきてしまうのは仕方ないのですが、そうはいっても何かの指標は欲しい所ですよね。

そこで、いい資料があります。
国土交通省国土技術政策総合研究所
道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)
―橋梁損傷事例写真集―

http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748.htm

ここには、評価基準の事例がいくつか写真入りで掲載されているので、これを参考に各道路管理者と協議して点検を進めていくのも有効だと思います。

ただ、注意が必要なのは、
ここで紹介されている評価基準の事例は参考資料です。
維持管理するうえでの判断指標の参考ということで。

◆損傷区分eだから補修ではない

どの損傷種類にも言えますが、「区分eだから補修を必ずしなければいけない」ということではありません。

 “区分e”と点検で評価しても、それはあくまでも外観上や簡易な確認方法での評価です。
“特別な詳細調査”を行っていない評価ですし、実際に詳細調査や補修が必要なのかは別問題です。
「“区分e”だから、健全度Ⅲ」ではありませんよね?
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【今回のまとめ】

・対象部材は「基礎」
・点検方法は色々あるが、測量用スタッフやポールが基本
・ 洗掘 が著しいとは、基礎の安定性に着目

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【次回のノート】

今回の点検ノート「㉖ 洗掘 とは?!」で、今年の目標としていた全ての損傷種類の記事を書きあげました。
約半年、週末更新を続けることができたのも、これを読んでくださった方々からの温かい応援のおかげです。

ありがとうございました(*^^)v

さて、
次回の点検ノートですが、いったん橋梁点検要領から離れ、再劣化事例をご紹介していきたいと思います。
これも点検や補修設計、補修工事の実務で役立つ情報ではないかと思っています。

1度の人生で経験できる分野はそう多くはありません。
わたしの施工と維持管理などの経験を少しでも多くの方に伝え、
この業界に関わる方々の力になれればこれ以上の幸せはありません。


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