ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
再劣化シリーズでは、
読者の皆さまから頂いた質問を改編し、ケーススタディ形式でお届けしています。
「こんな損傷あるんだ」
「だから再劣化するんだ」
「こういう考えもあるんだ」
このブログの記事が、
橋梁メンテナンスに携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。
ではさっそく、いってみましょう!
※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。
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目次
【再劣化case03:鋼製EXPの上下動】
■質問: 鋼製EXPの上下動 について
『数年前の補修工事で伸縮装置の交換しました。
この伸縮装置のうえを車両が通過するたびに、僅かですが上下に振動します。
このまま放置しておいてもいいのでしょうか?
伸縮装置は波形構造で、伸縮装置メーカーの製品物です。』
伸縮装置の損傷で多いのは、断トツで「漏水」ですが、
この「上下動」も最近多くなってきているように感じます。
H26年度に橋梁の定期点検が法令化されて以降、
橋梁点検に対する世の中の注目度と共に、点検の精度や品質も向上し、これまで検出できなった等の損傷なども点検できるようになりました。
それと同時に、
老朽化の全貌が明らかになり、数々の損傷に対する ”補修工事” の需要が急速に増えています。
ただ、この “補修工事”。
とても難易度が高い工事なのです。
お医者さんなら、すべての病気や分野に精通しているわけではないですよね?
得意な専門分野ってあるじゃないですか?
橋屋さんも同じです。※橋梁技術者=はしや
新設工事ができる=補修工事もできる、とは限らないんですね。
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■Case Study: 一緒に考えてみましょう!
■質問 『数年前の補修工事で伸縮装置の交換しました。 この伸縮装置のうえを車両が通過するたびに、僅かですが上下に振動します。 このまま放置しておいてもいいのでしょうか? 伸縮装置は波形構造で、伸縮装置メーカーの製品物です。』
わたしは下記のように推定していきました(゜-゜)
⇩ ⇩ ⇩ ⇩ ⇩
今回の質問の要点を整理してみよう。
1.伸縮装置は波形構造で、メーカー製品もの
2.数年前に交換
3.車両通過時に僅かに上下動する
損傷状態は、この「上下動」。
そして、
『このまま放置しておいてもいいのでしょうか? 』
ということは、上下動の補修要否が問題になるわけで。
まずは、
上下動している原因をまずは推定しなければ・・・
上下動が発生する要因は2つ。
・伸縮装置のフェースプレートとウェブ等溶接部が破断している
・伸縮装置本体、あるいは新旧コンクリートの打ち継ぎ部の付着不良
上記2つをそれぞれ考察してみよう。
・伸縮装置のフェースプレートとウェブ等溶接部が破断している
~溶接部で破断しやすいのは、橋梁メーカー等が鋼板を組合せて製作する伸縮装置。
今回の伸縮装置は製品物だから、これは該当しないはず。
・伸縮装置本体、あるいは新旧コンクリートの打ち継ぎ部の付着不良
~製品物かつ車両通過時に上下動しているということは、部材本体には損傷はない。
部材本体ではないということは、その周囲で損傷が起きている。
つまり、部材ごと上下動しているのでは?
モジュラーでもフィンガー構造でもなく、波形構造ということは伸縮量は少ない。
小型あるいは軽量の製品と考えられるから、施工範囲は狭まい可能性がある。
おそらく既存の伸縮装置を上下分割し上部を製品物と交換したんだろう。
であれば、交換時の打ち継ぎ処理面が適切でなかった可能性が。
あるいは、固定用のアンカーに問題があるかも。
伸縮装置の交換方法が知りたいところ。
これらから考えられるのは・・・・・(゜-゜)
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■回答: 鋼製EXPの補修要否について
損傷原因や補修方法をさらに絞り込むには、
伸縮装置の写真や製品名、補修方法、施工写真の情報がほしいところですが、質問いただいた内容から可能な限り推定しました。
・伸縮装置本体、あるいは新旧コンクリートの打ち継ぎ部の付着不良 ~製品物かつ車両通過時に上下動しているということは、部材本体には損傷はない。 部材本体ではないということは、その周囲で損傷が起きている。 つまり、部材ごと上下動しているのでは? モジュラーでもフィンガー構造でもなく、波形構造ということは大きな伸縮量はないということ。 小型あるいは軽量の製品と考えられるから、施工範囲は狭まい可能性がある。 おそらく既存の伸縮装置を上下分割し上部を製品物と交換したんだろう。 であれば、交換時の打ち継ぎ処理面が適切でなかった可能性が。 あるいは、固定用のアンカーに問題があるかも。 伸縮装置の交換方法が知りたいところ。
今回の上下動は、
上記の考察からも「打ち継ぎ不良」ではないかと考えました。
・[事実]部材毎に上下動している
・[推定]上下分割し上部を交換
・[推定]交換時の打ち継ぎ処理面不良
・[推定]アンカーの固定不良
これらの事実と推定を整理すると、
・既存の伸縮装置上部をガス切断等で分割し、製品物の伸縮装置を設置しているはず。
・固定方法は差し筋アンカー等を既存床版にうち、伸縮装置の補強筋と固定しているはず。
ただ、固定アンカーの削孔深さや径が適切でなければガタつきが生じやすい。
主原因にはなりにくいが、打ち継ぎ面が脆弱化していくと、劣化速度が上がる要因にはなる。
・打ち継ぎ処理面は、既存のコンクリートを斫ったあと浮いた骨材等をきれいに除去してから、コンクリートを打設しているはず。
この最後の行に記載した
” 斫ったあと浮いた骨材等をきれいに除去 ”
これが交換工事ではとても、とても重要な工程なんです。
しかし、これが一番大変( ゚Д゚)
なぜかというと、
伸縮装置の交換はとにかく忙しいのです。
車線規制をしながら工事を行うので、時間がありません。
全面通行止め等できません。
そのなかで、
出来形管理でとても重要な遊間量、高さも許容値にいれなければならない。
開放時間も決められている・・・
しかも!
伸縮装置を据え付けた後の状態というのは、補強鉄筋や固定アンカーが密に入っているので、とても狭隘な作業空間です。
手なんて入れたくないけど、狭いから素手で小石を1つ1つ取り除いて・・・( ノД`)シクシク…
この状況の中で打ち継ぎ面の清掃を行うのがどれほど大変なことか。
本当に大変な工事です。
こんな過酷な交換工事ですが、
交換後数年で部材本体が上下動していることから、打ち継ぎ部の清掃が十分に行えておらず、その打ち継ぎ部のコンクリートに隙間が生じ始めていることが考えられます。
また、
車両通過時の荷重や衝撃の影響、その部位への橋面水浸入により、その隙間は今後拡大していくと思います。
以上のことから、
上下動の最大の原因は、
「打ち継ぎ処理不良」
である。
そして、
忘れてならないのは、このまま調査や工事をせずに放置してよいのか?
それは、
「追跡調査」
をお勧めします。
なぜなら、
今後、打ち継ぎ不良部のコンクリートの脆弱化は進んでいくものの、現時点では僅かな上下動だからです。
上下動だけですので、橋にとっての安全性というより第三者被害を気にするべきです。
具体的な措置としては、
対策①:
交通に影響が生じることが懸念された時点で補修できるように、道路パトロールの巡回時に確認する。
対策②:
定期点検で観察することをカルテや調書に記録する。
この2つが有効だと思います。
補修のタイミングとしては、
タイミング①:
上下動が大きくなり伸縮装置の沈下やバタつく。
タイミング②:
段差が生じ歩行、車両の交通障害が懸念される。
タイミング③:
打ち継ぎ部の隙間が大きくなり、水が浸入していく。
このような症状になる、あるいはこの状態になるまで時間が少ないとなったときですね。
あなたはどう考えますか?(´-`*)
※上記の考察に加え、
・直下の床版から固定用アンカーは突き抜けていないか?
・同じく床版に剥離やひびわれ等の関連が懸念される損傷はないのか?
・部材は長尺で現場での接合はあるか?また接合方法は?
・積雪寒冷地かどうか?
・フェースプレートに接触痕はあるか?
この5つも判断材料となるのですが、これはまた次の機会に。
現場でこのような損傷があれば注意が必要です。
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【さいごに】
伸縮装置は常に過酷な条件で使用されています。
舗装や床版同様、車両の衝撃や荷重の影響を常に受け、積雪寒冷地では積雪や凍結融解、除雪グレーダーからの衝撃の影響にも耐える必要があります。
定期点検で補修対象にまず一番にあがるのも当然かもしれません。
補修工事は
新設だけの知識のほかに、当然ですが劣化の知識、補修の知識が必要となる難易度が高い分野です。
今後、この難易度の高い工事がますます増えることが予想されます。
補修工事を適切に行い、再劣化させない(長持ちさせる)ことがメンテナンス業界の最大の課題となると感じています。
次回は、鋼製支承の再劣化(沈下)について書いていきたいと思います!
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