再+劣化事例

再劣化case05:床版コンクリートの部分打替え

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。

再劣化シリーズでは、
読者の皆さまから頂いた質問を改編し、ケーススタディ形式でお届けしています。

「こんな損傷あるんだ」
「だから再劣化するんだ」
「こういう考えもあるんだ」

このブログの記事が、
橋梁メンテナンスに携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。

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目次

再劣化case05:床版コンクリートの部分打替え


■質問: 床版部分打替えの再劣化 について

数年前にすこし深い土砂化が見つかったので、
 部分的にですが床版を打ち替えました。
 床版防水も全面やり、土砂化範囲もすべて取り除いてから打ち替えました。
 ところが、打ち替えた部分のすぐ近くの床版下面から漏水が見つかってしまい・・・
 補修の仕方が悪かったのでしょうか?』

土砂化(どしゃか)、砂利化(じゃりか)、どちらも同じ意味で使われるこの言葉。

どっちの言葉を使っていますか?

『わたしは土砂化派』
『おれは砂利化派』
『え?なんか違うの?』

なんてことありません?(^-^;


さて本題に。

そもそも ”土砂化” ってなんでしょうね?

コンクリートは、骨材、セメント、水で造る人口岩石のようなものです。

そのコンクリートを構成する材料が分離してしまう現象のことを ”土砂化” といいます。


土砂化といっても、その状態は1つではないんです。

そうですね~
川底にある砂利のようにピカピカの骨材と滞水で現れる時もあるし、
軽石を粉々にしたときのような時もありますし、
砂のようなときもあります。

土砂に見える時もあり、
砂利に見える時もあり・・・

そのためでしょうか。
「土砂化」や「砂利化」のような言葉ができたのは。


その分離現象が、
床版コンクリートでも同じ現象が発生してしまうのですから大問題。

これが進行し続けると、

床版が抜け落ちてしまうことが( ゚Д゚)

抜け落ち=道路に穴があく

この状態では危険なので、補修優先度としては上位です。

こうなってしまう前に、
その前兆である土砂化のときにしっかり補修しておくことがとても大切です。

ただ・・・
今回の質問と同じく、補修してもすぐ再劣化してしまう事例が後を絶ちません・・・


どうです?
経験ありませんか?(゜-゜)

抜け落ちについては、こちらの点検要領解釈編でも紹介しています!
⑨抜け落ちに関する記事一覧 (linxxx.jp)

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■Case Study: 一緒に考えてみましょう!

■質問
『数年前にすこし深い土砂化が見つかったので、
 部分的にですが床版を打ち替えました。
 床版防水も全面やり、土砂化範囲もすべて取り除いてから打ち替えました。
 ところが、打ち替えた部分のすぐ近くの床版下面から漏水が見つかってしまい。
 補修の仕方がわるかったのでしょうか?』 

わたしは下記のように推定していきました(゜-゜)

⇩ ⇩ ⇩ ⇩ ⇩  

今回の再劣化の要点は5つ。

1.数年前に深めの土砂化が見つかった
2.床版の部分打替えを行った
3.土砂化範囲はすべて取り除いてから打ち替えた
4.床版防水は全面再施工
5.打ち替えた部分のすぐ隣の床版下面で漏水発生


まだ早いんですけど、
こういう事例を聞くと、

つい

『これって、土砂化だったのかな?(^-^; 』

って考えしまいます。

まずは、
それぞれについて考えてみましょう!

1.数年前に深めの土砂化が見つかった
  ”深め” ってどのくらいだろう?
  床版厚が200mmだとしたら、100mmでも深いよね。
  その時代によっては、これより薄い140mmとかの床版もあるわけで。

  これに範囲も広かったら相当ひどい土砂化だったんだろうな。
  
  数年前に見つかったってことだけど、土砂化はすぐ発生するわけではないし。
  舗装の下で進行していたか、応急処置を続けていたか。

  それに、
  この地域って積雪寒冷地かな?
  同じ土砂化でも凍害を受ける地域なら別物として考えないと。

  あと、
  大型車交通量はどのくらいかな?
  
2.床版の部分打替えを行った
  部分的に打ち替えたということは、断面修復レベルではなかったということ。
  舗装下で長いあいだ土砂化が進行していた?
  
3. 土砂化範囲はすべて取り除いてから打ち替えた
  設計時の調査ではアスファルト舗装がある状態で調査しなければならない。
  舗装をすべてはがした後に確認できる補修工事には敵わない。

  補修工事のときに
  土砂化、劣化範囲を確認する方法は・・・
  
  まず、
  全体的な床版上面の劣化範囲を確認するときは、打音検査。
  濁音範囲(うき)をマーキングして断面修復箇所を決める。
  そして、
  今回のような部分打替えの範囲を確認するときは、打音検査してある程度範囲を想定する。
  そのあと、
  少しずつ劣化部分を斫りながら、健全な部分が現れるまで慎重に斫り続ける。

 『ここまで劣化範囲が除去できれば大丈夫』

  ってところまで確認できたら、斫り作業は終わり。

  それまでの作業は行ったとして。
  この時点では、
  土砂化範囲をすべて取り除き ”健全” な部分しかない。という認識。

4.床版防水は全面再施工
  舗装はすべてはがし、床版防水を再施工したのに再劣化とは・・・残念・・・。
  どこまで調査したかはわからないけど、今回の劣化範囲の状況もこのときに見ている?
  そもそも防水施工に耐えられる床版だったのかな?
  
  うきは?
  塩分は?
  ひびわれは?
  過去の補修跡は?
  土砂化は他にもなかった?
  床版下面の損傷状況との関連性は?

  ・・・(゜-゜)

5. 打ち替えた部分のすぐ隣の床版下面で漏水発生
  床版防水したあとの漏水ということは、どこからか橋面水が浸入してきているということ。
  防水施工直後であれば、施工前に浸入していた水が抜けきっていないこともあるけど。
  数年前に床版防水は終わっているわけだし、別の理由か。
  
  すぐ隣というのは、打継ぎ部かな?
  それともその近くかな?
  どちらにしても、これが起きるってことは劣化範囲はここだけじゃなかったのかも。

これらから考えられるのは・・・・・(゜-゜)

ーーーーーーーーーーーーーーー

■回答: 再劣化原因と今後の維持管理方針について

さて、
今回の「床版部分打替えの再劣化 」についてですが、

「劣化範囲の除去不足」

ではないかと推定しました。

今回の質問の要点は下記でしたよね。

1.数年前に深めの土砂化が見つかった
2.床版の部分打替えを行った
3.土砂化範囲はすべて取り除いてから打ち替えた
4.床版防水は全面再施工
5.打ち替えた部分のすぐ隣の床版下面で漏水発生

結論をいうと、

劣化範囲はまだ残っている可能性があります(>_<)

しかも、
土砂化レベルも含みます・・・

本来であれば、

床版の部分打ち替えの際、
<3.土砂化範囲はすべて取り除いてから打ち替えた>

とのことでしたので健全な床版しかないことになります。

しかし、
数年で漏水しています。

これが起きるということは、
”健全な床版しかない” という前提が崩れてしまいます。

つまり、
補修はしたけれど・・・

土砂化範囲をすべて取り除くことができなかった。

ということに。

劣化範囲が残っている
   ↓
床版防水の効果が急速に低下
あるいは初めから効果が低かった。
   ↓
橋面水が劣化部に浸入していく
   ↓
当然のように漏水が起こる


冒頭でも言った通り、

『これって、土砂化だったのかな?(^-^; 』

と。

土砂化は確かにしていたんだと思うですが、

もしかしたら、
土砂化を超えて、抜け落ちレベルだったのではないかと。


なぜかというと、

部分打替え=断面修復のレベルではなかった

ということが考えられるからです。

部分打ち替えでは、
床版を部分的にですが全て斫り、新設と同じように型枠をはってコンクリートを打設します。

この時、最も重要な作業が

「劣化部を慎重かつ全て斫りとる作業」

です。

ただ、
”慎重” かつ ”全て” の作業が超難易度が高いのです。

■まず、

慎重に”

ですが、

斫り作業ってどうやってやります?
橋面上での作業ですから当然、交通規制を行っています。

時間の制約があるなかでの斫り作業。

やさしく丁寧に小型のハンマーですこーしずつ・・・ 
なんてことがどこまで、実行できるでしょうか?

これもメリハリですが、
ボロボロのところは、削岩機でガンガン壊します。

これはある程度仕方ありません。

ただ、
最終段階に入ると、すこしずつ少しずつ化石現場での発掘作業のように慎重にやらなければなりません。

「そんなことできるかっ!現場しってるのかっ!」


大変だってこと、もちろん知っています。
現場監督してたので。

しかし、
これをせずに再劣化は避けられません。

■つぎに、

”すべて”

ですが、

これも、かなり難しい(-_-)

なぜなら、
部分打替えを行うくらい劣化が進んだ床版はすでに末期(の可能性大)です。
末期状態の床版で、たまたま顕在化した箇所というだけ。

この末期の床版を斫っていくと現場では何が起きるか・・・

『斫っても斫っても、健全部が出てこないぞ』
『おい、用意している型枠たりるか?』
『監督さん、これどこまでやるの?』

こんな状態になることも。

斫りって念願の健全部がでてくればいいのですが
健全部が出てこない場合はどこかでその補修工事ができる範囲でやめなければなりません。

健全部が出てこないということは、設計した範囲を超えていることになります。

これを超え過ぎていると、工法が変わりますし、そもそもの調査結果を疑わなければなりません。
調査をやり直し、仕切り直しです。

その場合は、
交通解放ができるレベルや補修部の耐久期間を踏まえ、応急的な斫り範囲を決定します。

おそらく他の部分も同じレベルの状態の箇所があるでしょうね。
たまたま、点検で見つかっただけ、と心得るべきです。

あなたの廻りでもありませんか、つぎはぎに打ち替えられている床版が。

わたしのこれまでの経験から、
部分打ち替えはあくまでも応急処置と考えています。

今回のように部分打ち替えを繰り返す、範囲が広がる事例が数多くありました。

恒久対策としては、床版を全て取り替えることになります。
いま、NEXCOさんがやっているリニューアル工事がそれです。
大規模にRC床版からプレキャスト床版に交換していますよね。

ただ、
恒久処置までの猶予期間は、その橋によって様々です。

応急対策を行いながら今後の床版取り換えに向けて維持管理方針を立てていく

これが現実的です。

あなたはどう考えますか?(´-`*)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【さいごに】

相当いたんでしまった構造物というのは、想像以上に満身創痍な状態です。
私たちの安全と生活のために頑張ってくれていたんですから、きちんと治してあげたいところです。

ただ満身創痍な構造物には、

いつもはこの方法で補修すれば大丈夫!と、
いったいつもの補修方法で補修効果が得られないことが多々あります。

人間と同じです。
体力がある若い人なら手術してもすぐ回復できますが、高齢化してくると手術に耐えられるだけの体力があるかも考えなければなりませんよね?

とすれば、

補修しても健全度が必ず回復するわけではない。

という構造物が存在することになります。

老朽化があるレベルに達した構造物に対する補修はやればやるだけ寿命を縮める行為ということも忘れてなりません。

今回の床版もそんな気がします。
再劣化については施工要因も大きく影響しますが、補修工事に耐えられる体力がこの橋(床版)には、なかったのかもしれません。


次回は

「再劣化case06:塩害を受けたコンクリート橋」

お楽しみに!!

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