再+劣化事例

劣化case06:壁高欄の損傷範囲拡大

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。

劣化シリーズでは、
読者の皆さまから頂いた質問を改編し、ケーススタディ形式でお届けしています。

「こんな損傷あるんだ」
「だから再劣化するんだ」
「こういう考えもあるんだ」

このブログの記事が、
橋梁メンテナンスに携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。

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目次

【劣化Case06:壁高欄の損傷範囲拡大】


■質問:壁高欄の損傷範囲拡大について

『壁高欄の内側一体にうきや剥離が発生していたので断面修復しました。
 調査結果では、凍結防止剤散布の影響による塩害と推定されています。
 断面修復した箇所は今のところ再劣化していないのですが、
 点検するたびに同じような損傷が見つかるので補修が終わりません。
 何かよい補修方法はありませんか?』

今回のお問合せは再劣化ではなくて、

止まらない劣化

でした(^-^;


壁高欄の内側の広範囲でうきや剥離、鉄筋が露出している事例は結構ありますよね。

あなたの地域でもありませんか?
内側に限らず、外側でも広範囲にわたるこんな事例が。

さて、

今回の損傷については、
補修前の調査結果で塩分が入っていることが確認されています。


なので、

「じゃ、塩害で決まり!( `ー´)ノ」

というわけにはいかないんですね。

たしかに、
塩害の影響はあるのは確かだと思いますが、それだけじゃないのです。

・壁高欄を作るとき
・壁高欄を調査するとき
・壁高欄を補修するとき

このとき、
何が起きているのでしょう?
何が悪いのでしょう?


補修をやってもやっても終わらない・・・

補修の無限ループ・・・

今日のケーススタディでは、そのヒントを見つけていこうと思います!

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■Case Study: 一緒に考えてみましょう!

 ■質問
『壁高欄の内側一体にうきや剥離が発生していたので断面修復しました。
 調査結果では、凍結防止剤散布の影響による塩害と推定されています。
 断面修復した箇所は今のところ再劣化していないのですが、
 点検するたびに同じような損傷が見つかるので補修が終わりません。
 何かよい補修方法はありませんか?』 


補修が終わらない原因をわたしは下記のように考えました(゜-゜)

⇩ ⇩ ⇩ ⇩ ⇩  

今回の損傷の要点は4つ。

1.内側一体にうきや剥離が発生していた
2.凍結防止剤散布の影響による塩害と推定されている。
3.断面修復部の再劣化は今はない。
4.同じような損傷が発生する


1.内側一体にうきや剥離が発生していた

”内側一体” にということは、損傷の発生条件が同じ。
その可能性があるということ。

損傷の発生条件とは、なにか・・・

この理由は、
さっきあげた他の3つの要点と関連付けて考えていこう。

ただ、
補修の仕方によっては、今後の損傷の発生条件は変わるかもしれない。


2.凍結防止剤散布の影響による塩害と推定されている。

凍結防止剤を散布する地域だったのだから、塩カルがコンクリート内部に浸透し鉄筋を腐食させたのは間違いないんだろう。

この影響は当然あるだろうな。

ただ、
損傷原因を確定するときに注意しなければいけないのは、

”根本原因はなにか?”

今回の場合でいうと、

塩害が根本原因だったのか?
塩害は損傷を加速する要因だったのか?

塩化物含有量だけをみて、塩害を主原因としているとしたら・・・

塩害を主原因とした論理。
補修計画はどうなっているのかな。

かぶりは?
腐食程度は?
劣化範囲やその傾向は?


3.断面修復部の再劣化は今はない。

補修してから、どのくらい経過しているのはわからないけど、とりあえず目立った再劣化がなくてよかった。

今回の情報だけでは、それが適切な補修だったのかまでは言及できないけど、再劣化がないことが一番。

さて、
気になるのは、今は再劣化していない補修部の周辺。
それも、ほんとすぐ近くの。

斫り作業のときにはかなり衝撃が加わりますから( ゚Д゚)

よくあるんですよね。
補修時に余計壊してしまうことが。

補修する前というのは、
土俵際でなんとか持ちこたえる状態って感じで、満身創痍の状態のときもあります。

そのなんとか持ちこたえているときに、補修するときに衝撃を加えると・・・


想像つきますね。

『押すな押すな』

と言っているのに、一気に「ドーン」と。


少し余談が過ぎてしまいましたが、

損傷箇所を斫って除去さえすれば、損傷がなくなる

のではなく、

斫った後の状態を確認し、損傷箇所を広げていないか?

が大切なんです。


4.同じような損傷が発生する

内側一体に損傷があって、同じような損傷が点検のたびに見つかる・・・

繰り返しになるけど、
”内側一体” にということは、損傷の発生条件が同じ。
その可能性があるということ。

補修前の調査で、
塩害が原因と推定できるほどの塩分の浸入を確認しているわけだし。

ただ、
塩分だけではないはず。

これは、今後もモグラたたきのように次から次へと損傷範囲が広がっていくだろうな。

今回のように同じような損傷がほかの箇所にも発生してきて、補修要否に迷っているということは、当時の調査結果や補修方針に不具合があるということ。

事実を確認して、また新たな補修方針を決めていかないと。


これらから考えられるのは・・・・・(゜-゜)

ーーーーーーーーーーーーーーー

■回答: 損傷原因と補修範囲設定の注意点について

壁高欄の損傷は他人事には思えません。

なぜかというと壁高欄(製作・補修)では色々と思い出がありまして・・・(-_-)


壁高欄を製作から劣化まで見てきた中で思うのは、

「壁高欄を満足のいくように補修するのは難しい」

の一点に尽きます。


その理由が、今回の原因にもあります。

おそらく今回の主な損傷原因は

かぶり不足

です。


<凍結防止剤、うき、剥離、ひびわれ、広範囲>

こんなキーワードがでてくると、だいたい損傷状態と原因の想像がつきます。


『かぶり不足部への塩分浸透で塩害が起きている。
 補修しきれるのかな?(゜-゜) 』

かぶり不足とは、
その名の通り、「かぶり(鉄筋表面からコンクリート表面までの厚さ)」の不足です。

かぶりの存在意義の1つとしては、内部鉄筋の防食です。
このかぶりが不足するということは、内部鉄筋の防食低下を意味します。

コンクリート構造物にとって、”かぶり” はとても重要な役割をもっています。 

そのため、
かぶり不足がないように細心の注意を払って建造するわけです。

設計時の問題もありますが、やはり最後は現場での施工がカギを握っています。

現場ではかぶり不足とならないように、壁高欄も橋台や床版と同じようにスペーサーの数を増やしたり、鉄筋組立の配筋検査で位置や間隔を確認したりします。

しかし、
壁高欄の場合はこれだけでは足りないのです・・・

なぜなら、
ほかのコンクリート構造物に比べて断面が薄いから。

では、
薄いとなぜ ”かぶり不足” となるのか?

簡単にいうと、誤差を吸収できないからなんです。


鉄筋を加工するとき、
鉄筋を組み立てるとき、
型枠を組み立てるとき、
型枠組立後の出来形調整をするとき、
コンクリートを打設するとき、

このすべての工程で誤差が発生します。

ほかのコンクリート構造物なら断面が厚いので、ひとつひとつの工程で許容値を満足していれば、誤差が重なっても問題になりません。

というか、問題として現れません。

例えば、
橋台の建造時に1cmかぶりが取れていない箇所があったとします。

となれば、1cmずらすじゃないですか。

橋台のような大きな断面を持つ部材の場合、ずらしても反対側のかぶりが1cm不足することはありません。

これはこれでまずいけど、
断面の薄い壁高欄では話が変わります。

1cmずれせば、反対側の1cmがそのまま反映されます。

しかも、

壁高欄の鉄筋は結構、密です。
その密に組み上げられた鉄筋に型枠を組み立てるとホント狭い空間です。

そのうえ、
道路上にある壁高欄の特性上、幅員をおかすことはできないので、結構な精度が要求されます。

「ちょっと、通りが悪いから」
「前後の線形に合わせて」

なんて考え、調整しすぎるとたいてい失敗します。

それが、今回のかぶり不足になってしまうこともあるんです。

ようは、
内側一体がかぶり不足ということは、逆に外側のかぶりは満足しているという傾向があります。

これだけではないんですけど、
よくある損傷パターンの1つとして参考いただければ。

けっこう、大変なんですよ。この調整が・・・


最後に、
補修時に何より注意しなければならないのは、

真の損傷範囲

です。

調査・設計時には、その当時の損傷状態を確認します。

しかし、
補修が実際行われるのはその数年後・・・ですね?
ということは損傷は調査・設計時が行われた当時以上に進行しているものです。

現場で補修する時に、
調査・設計した技術者と工事技術者が補修直前に損傷の進行有無や補修目的を確認しあえばいいのですが、まだまだその活動は活発ではありません。

設計技術者がわからなかった損傷も、工事技術者がわかるときもありますし、その逆もあります。

損傷を見つけるのは熟練の技術が必要ですから。

どっちの技術力が上というのは、ありません。
その技術者によりますからね。

こんな感じで色々な事情が重なると、実際の補修すべき範囲からもれてしまう損傷も発生してしまうのです。

さらに、

斫る前の補修範囲の設定が適切だったとしても、斫ったあとに補修範囲を再確認はほとんどしません。

斫ったあとの状態を真剣に確認したことはありますか?

斫って構造物を壊すようなことがあっては、工事業者の責任になりますからね。
本来はありません。

ただ、
これが満身創痍の構造物だったとしたらどうでしょう?

人間でいうところの

『この大手術に耐えられる体力を持ち合わせているのか?( ゚Д゚)』


斫る衝撃というのは、そんな満身創痍の構造物たちには結構深刻な衝撃です。

斫った後に、損傷範囲が広がる可能性も十分考えらます。
その周りは?
その裏は?
その天端は?

一度確認してみると新たな発見があるかもしれませんよ?


あなたはどう考えますか?(´-`*)

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【さいごに】

かぶり不足は建造時に確定されてしまうので、いざ劣化してしまうと増厚するしかありません。
建造時には十分気を付けなければなりませんね。

それと、
劣化がはじまった構造物は、満身創痍の状態であるかどうかも補修方法を選定するときに重要です。

優れた材料や工法でも、
その構造物にも適用できるかどうかをきちんと見極めなければなりません。

人間と一緒なんです。

強い薬も、手術も、それに耐えうる体力が必要です。

今気づいたんですけど、
実は前回予告していた内容と違っていました。すみません。

ということで次回こそは、

「再劣化case07:塩害を受けたRC床版」

について書いていきたいと思います!

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