再+劣化事例

再劣化case07:塩害を受けたRC床版

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。

劣化シリーズでは、
読者の皆さまから頂いた質問を改編し、ケーススタディ形式でお届けしています。

「こんな損傷あるんだ」
「だから再劣化するんだ」
「こういう考えもあるんだ」

このブログの記事が、
橋梁メンテナンスに携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。

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目次

【再劣化Case07:塩害を受けたRC床版】


■質問:塩害を受けたRC床版について

『海沿いにある鈑桁橋なんですが、
 数年前からRC床版下面のうきや剥離が広がってきたので断面修復しています。

 でも、点検するたび補修箇所は再劣化するし、劣化箇所は増えるしで困っていて・・・。
 アスファルト舗装も傷んできたのでこれから調査する予定です。
 このままずっと補修し続けなければいけないのでしょうか?』

海や川に架かる橋って絵になりますよね。
素敵です。

ドラマやアニメ、MVなど様々シーンで登場しますよね。

海、空、橋。
その空間を走り抜ける🚙
間違いないです。

ただ、
橋にとっては過酷な環境でして。

特に「海」は・・・

なぜなら、
飛来塩分の影響は凄まじいのです。

そして、
1度損傷が始まってしまえば、それは全く別のメンテナンスをする段階に来たと言えます。


今回のケースは鈑桁橋(鋼橋)ですが、
コンクリート橋も同じです。

補修後の再劣化が止まらないとのこと。
また、舗装も傷んできていると。

今回は、
塩害を受けた橋梁の補修方法というより、RC床版ならではの劣化ポイントや今後の損傷拡大予想を踏まえて考察していきたいと思います!

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■Case Study: 一緒に考えてみましょう!

 ■質問
『海沿いにある鈑桁橋なんですが、
 数年前からRC床版下面のうきや剥離が広がってきたので断面修復しています。
 でも、点検するたび補修箇所は再劣化するし、劣化箇所は増えるしで困っていて・・・。
 アスファルト舗装も傷んできたのでこれから調査する予定です。
 このままずっと補修し続けなければいけないのでしょうか?』 


補修が終わらない原因をわたしは下記のように考えました(゜-゜)

⇩ ⇩ ⇩ ⇩ ⇩  

今回の損傷の要点は5つ。

1.海沿いにある鈑桁橋
2.RC床版下面のうきや剥離が広がっていた
3.補修箇所が再劣化している
4.劣化箇所が拡大している
5.アスファルト舗装も傷んできた


1.海沿いにある鈑桁橋

供用年数はわからないけど、塩害による再劣化が始まっているということは・・・

内部の鉄筋を腐食させるくらいの塩分が床版に相当入っていて、さらにそのくらいの年数がたっているということ。

塩分が浸入=鉄筋が腐食 ではないから。


次に橋梁構造だけど、箱桁ではなく鈑桁か。
海沿いにある鈑桁のRC床版となると、やはり床版にとっても条件が悪い。

補修設計での調査では、床版の塩分量を確認したのかな?

あとは・・・

RC床版への塩害の影響を考えるときのポイントを整理しよう。
・架橋地域
・海からの距離
・架橋されている高さ(桁下と地盤との関係)
・周りの遮蔽物
・橋梁構造
・桁の枚数
・かぶり厚

などの情報が大切だよね。

橋体も塗り替えしてるかもしれない。
腐食状況も気になる。


2.RC床版下面のうきや剥離が広がっていた

飛来塩分の影響があるのであれば、当然の結果。

床版下面は主桁の間にあるので、海から風が直接当たることは少ないので、塩分の影響は少ないように思いがちだけど。

たしかに、
直接当たることは少ないけどね。
これが落とし穴。

風にのった飛来する小さな塩分たちは浮遊し、主桁の間に巻き込むように入っていく

そして、
外側は雨が塩分を洗い流してくれるのに対し、床版下面に付着した塩分は雨が当たらないから洗い流されることがない

付着したままの塩分はどんどん溜まっていくばかり。

風の流れは複雑・・・


3.補修箇所が再劣化している

どんな断面修復をしたのかな?
塩害対策用の補修材は使ったのだろうか?

補修部が再劣化しているのだから、補修方法を確認して改善点をまず探さないと。
それから補修するのか、しないのか、だな。

補修するとしたら、まずは塩分除去が原則。
塩分を無効化する材料や電気的に制御する方法もある
けど。

塩害対策用の補修材はたくさん開発されているけど、どれも本当の効果については検証段階。

だと思う。

開発時の試験結果や性能は、やはり実物での検証してみて時間をかけないとわからないから。


4.劣化箇所が拡大している

でしょうね・・・

塩害を受ける過酷な環境だし。

塩害を受けた橋梁は、”受けるべくして受けた” ことが多い。

例えば、
かぶり不足が過去の補修部であったとすれば、その床版は全体的にかぶり不足の傾向があると言っていい。

なぜかというと、その施工者(会社、大工、監督等)のクセがでるので。

その構造物をみて、

「これをつくった人は、ここが得意なんだな。」
「スペーサーの配置がこうだってことは、ほかも足りないな」
「この塗装ムラがあるということは、この塗装会社はこういう塗り方をするんだな」

こんな風にメンテナンスをするときは、クセを見つけることも大切だったりします。


5.アスファルト舗装も傷んできた

これは気を付けないと・・・
床版下面のみならず、床版上面も塩害を受けているかも

舗装に関しては、外観上全く問題ないように見えても実際の損傷が違うことはよくある話。

そして、
表面の傷みは大したことなくても、塩害地域なら少し注意が必要。

もし、
床版上面も塩害を受けているのであれば、早く舗装をはがし調査しないと。
塩分の浸透状況や鉄筋の腐食状況を確認して、塩分との関係性についてはっきりさせた方がいい。

できれば、舗装打ち替え時の状況も知りたいところ。

舗装打ち替えでは、舗装を長期間にわたりはがしている状態になる。
そのときに水分や塩分が入り込んでしまって、今まで問題なかった床版が一気に劣化してしまう場合が結構ある。

舗装打替え前からも舗装が劣化すれば塩分は浸透する


と、いうことは・・・・・(゜-゜)

ーーーーーーーーーーーーーーー

■回答: 今後の調査ポイントと維持管理方針について

海沿いにある橋梁に対する補修部の再劣化と、拡大が止まらない劣化

今回のケースは

塩害を受けた橋梁」

であることは、まず間違いないでしょう。

では、

このような塩害を受けた橋梁、RC床版にはどのような維持管理をしていかなければならないのか?

その前に、これまでの仮定を整理してみます。

<仮定>
・飛来塩分により大量の塩分が床版下面に浸透している。
・RC床版下面全体がかぶり不足である可能性が高い。
・塩害対策用の材料であれば、期待した補修材の効果が発揮されていない。
・床版上面も塩害が発生している可能性がある。
・主桁等の鋼部材も塩害を受けている可能性がある。


こんな感じでしょうか?

そして、今回のケースで大事な点は、

『このままずっと補修し続けなければいけないのでしょうか?』

そうですよね。

補修しているのに劣化が止まらない橋に対してどこまで手を加えていいのか?

『費用も限られ、時間も限られ、損傷している橋はほかにもたくさんある。
 しかも橋梁は特に専門的な知識が必要で分からないことばかり。』

このような話を色々な方々からよく聞きます。

本当にそうですよね。
しかもメンテナンスの分野は新設の知識と全く違います。

メンテナンスの知識はその劣化から学ぶ必要があるので、おのずと時間と経験が重要です。


さて、本題に戻りましょう。
今回のケースに限った話ではありませんが、特に塩害を受けた橋梁については注意が必要です。

なぜなら、
塩害の程度にもよりますが、もう健康体には戻れないことが多いからです。

塩害は「がん」のようなものです。
癌(塩害)が小さいうちに、手術(工事)で切除(斫って)できれば全回復も可能です。

なので、1つの結論として、
塩害を受け再劣化が止まらない橋に対しては、維持管理方針を

「長寿命化」→「延命化」

にかえる必要があります。

長寿と延命は違いますよね?

ただ、
全回復できないからといって、すぐ橋を架け替えしなければならないというのではありません。

損傷状態や橋梁構造にもよりますが、架け替えまでの期間がかなりあるものです。

例えば、
塩害を受けたRC床版の全回復が難しいのであれば、RC床版をPC床版に交換を念頭に、それまでの数十年間を最低限の費用で補修し続けていく。

今行っている補修というのは、
回復レベルを健全度Ⅰに設定し、設計や補修しているはずです。

こういう「延命化」することに整理した橋梁については、
この回復レベルを健全度Ⅱや健全度Ⅲに設定するということです。

健全度Ⅲは橋梁構造に支障があるだけで、橋がただちに落ちることではありません。

健全度Ⅲが健全度Ⅳにならないように各重要な部材や損傷に対して追跡調査を行い、適切な補修時期に費用をかけて補修や補強する・・・


塩害対策を目的とした補修材や電気的な防錆措置も有効です。
でも、防錆はうまくいっても漏水や凍害といったほかの要因も影響することがあるので、総合的な補修効果を検討しなければなりません。

何度かお伝えしていますが、
老朽化、高齢化した橋梁というのは、補修に耐えるだけの体力がないことがよくあります。

メンテナンスって難しいですよね。

橋にとっての安心できる治療であるはずが、私たち人間が一時的に安心できる(責任から解放される)補修となることがあります。

その橋の寿命は、メンテナンスするわたし達が実は決めてしまっていることを忘れてはいけませんね。


あなたはどう考えますか?(´-`*)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【さいごに】

塩害を受けて再劣化する事例はたくさんあります。

再劣化事例を見ていて思うことは、
「やはり設計側と補修側との意思疎通がうまくいっていないな。」
です。

ボタンの掛け違いに似た感じです。
双方のメンテナンスにかける情熱を1つにできる情報共有ができるといいのになって。

さて!
次回のケーススタディの事例は今週に続き塩害編です。

ボックスカルバートもある条件では橋梁(溝橋)として点検しています。

ボックスカルバートもあなどれません。
塩害対策をしたのに漏水を伴うひびわれが発生してしまったそうです。

「再劣化case08:塩害を受けているようなBOXカルバート」

について書いていきたいと思います!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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