再+劣化事例

再劣化case10:積雪寒冷地域で起こる支承アンカーボルトの抜け出し

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。

おかげ様で読者の皆さまから、ご質問やお問合せをいただくことが多くなりました。
うれしい、たのしい限りです(´ー`)

この活動で日々思うのは、

インターネットがこれだけ発達しても自分が本当に必要な情報というのは、なかなか探せないものなんだということ。

私は検索するのが下手なので、知りたい情報まで辿り着くことがなかなかできません💧


なので、

2022年から始動した劣化シリーズでは、
このブログに寄せられたこれらの疑問やお悩みを ”この場” を介して、あなたの本当な必要な情報となるよう発信していきたいと思います! 

※質問者の方々からは了承をいただいております。
※内容についても一部改編し、質問者の情報が特定されてないよう努めています(事前確認済み)。


「こんな損傷あるんだ」
「だから再劣化するんだ」
「こういう考えもあるんだ」

このブログの記事が、
橋梁メンテナンスに携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。

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目次

【再劣化case10:積雪寒冷地域で起こる支承アンカーボルトの抜け出し】


■質問:支承のアンカーボルトの抜け出しについて

『支承アンカーボルトが抜け出すという損傷をよく目たり、
 耳にしたりするのですが、これがどのように発生するのかわかりません。
 ネットで検索しても、社内で聞いても具体的な答えを見つけられずにいます。
 劣化機構についてご存じでしょうか?』


支承のアンカーボルトが、”にょきにょき” と上に伸びているように見える、「抜け出し」という損傷は、たしかにネットで探してもないですよね💧

橋台と支承をつなぐ支承のアンカーボルトがなぜ、抜け出す現象はどうして起こるのでしょうか?!

勝手にアンカーボルトが抜け出すことはなく、それには理由が色々とあります。

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■回答:抜け出しの劣化機構について

 ■質問
『支承アンカーボルトが抜け出すという損傷をよく目たり、
 耳にしたりするのですが、これがどのように発生するのかわかりません。
 ネットで検索しても、社内で聞いても具体的な答えを見つけられずにいます。
 劣化機構についてご存じでしょうか?』 

「アンカーボルトの抜け出し」という損傷は、そもそもどんな損傷かというと。

※外観上のアンカーボルトの抜け出し


はい。
基本的には、この図のような状態ですね。

では、
具体的な状態についてですが、大きく下記の3つがあります。

1.アンカーボルト箱抜き部内での凍結融解作用で、アンカーボルト自体が上に抜けていく。
2.アンカーボルトに地震動が作用し、アンカーボルトを抜けてしまう。
3.アンカーボルトに異常はないが、アンカーボルトが抜け出しているように見える


おそらく、1番上の「凍結融解作用」がよく目たり聞いたりする状態ではないでしょうか?

これは凍結融解がおきる地域、いわゆる積雪寒冷地で多い損傷です。
このご質問をいただいた方も寒い地域にお住まいということですので、間違いないですね。

ーーーーーーーーーーーーーーー

劣化機構1.凍結融解作用でアンカーボルトが上に抜けていく

アンカーボルトの抜け出しと言ったら、この劣化機構ではないでしょうか。

損傷の数や傾向でいえば、

昔よく使われていた線支承や支承板支承で多くみられます。
最近の支承ではあまり見たことがありません。

その理由は、
支承形式自体に問題があるわけではなく、

アンカーボルト箱抜き部のモルタル

に問題があるのです。


いくつかこの問題を引き起こす要因があるのですが、その1つにモルタルの材質があります。

最近は、プレミックスタイプの無収縮モルタルを使用しています。
1袋に対する水や撹拌時間、適用時間が決められていて、その通りに作ればだれでも簡単に高品質なグラウト材を作ることができます。

ホットケーキミックスと同じです。

モルタルの練り混ぜ直後の状態はドロドロで、粘性が低いのでモルタル自重で打設できます。
コンクリートのようにバイブレータをかける必要はない優れものです。

一方、昔はというと・・・

セメントや骨材、水を工事現場で調合し、手練りでつくるモルタルです。
グラウト材といえないもので、ある程度硬さがあります。


手練りでつくる沓座モルタルは見ればわかります。

『これって、コテつかっていないよね?』
『これって、指のあと?手でペタペタ?』

こんな状態になっていれば手練りです(^-^;

さて、話を本題に戻してと、

いまの支承本体は、昔と比べて大型になっていますので、アンカーボルトの箱抜き部もそれに応じて大きくなっていますが、昔の支承は小型なので箱抜きも小さい・・・

狭隘な支承アンカーボルトの箱抜き部へ硬いモルタルを充填しようとするとどうなるのか?


そうです。

充填不良

が起きます。


アンカーボルトの箱抜き部は深さがありますので、その底にまでモルタルが充填されません・・・

モルタルの打設後はまさか充填できていないとは思っていないでしょう。基本的に。


<劣化機構>

沓座モルタルと橋座面の隙間等から水が浸入
   ↓
雨水や積雪、走行車両からの衝撃の影響により劣化促進
   ↓
アンカーボルト箱抜き部が凍結
   ↓
凍結融解を繰り返して少しずつアンカーボルトが持ち上げられていく

※下部に溜まった水がアンカーを少しずつ押し上げていく


これが基本的なアンカーボルトの抜け出しの劣化機構です。

ーーーーーーーーーーーーーーー


劣化機構2.地震動によりアンカーボルトを抜けてしまう

支承の高さが低い線支承などではなく、支承高さが高いピン支承で発生しやすい現象です。

積雪寒冷地域では、さきほどの凍結融解作用パターンとの見分け方がわかりにくいのですが、下記の点を確認しながら消去法で推定していく見分け方があります。

このような状態があればこの ”劣化機構2(地震動)” の可能性がありますよ。

・複数本あるアンカーボルトのうち、局部的(かどの1本だけ等)に抜け出している。
・地震動の影響があったと推定されるトラス材等の変形がある

※他のボルトは抜け出していないように見えるだけかも
※近くの支承にも注意。規則性や方向性を確認

ーーーーーーーーーーーーーーー

劣化機構3.アンカーボルトが抜け出しているように見える

これはですね。
相対的にアンカーボルトが抜けているように見えるだけなんです。

例えば、
支承直下の沓座モルタルが損傷し、支承本体が沈下したとします。

その際、アンカーボルト箱抜き部のモルタルが健全であれば、支承本体だけが下がるので、アンカーボルトの高さはそのままになります。

結果、

アンカーボルトが抜け出しているように見える

ということですね。

ただ、
橋梁点検ではアンカーボルトが抜け出しているように見えると、「抜け出し」で記録されることも(^-^;

※支承本体だけが沈下している

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【さいごに】

今回ご紹介した劣化機構は、あくまで推定の域が出ないものがあります。

なぜかというと、
絶対的な証拠がないからです。

凍結融解や地震動の影響を裏付けるには、その場、その瞬間を確認しなければなりません。

凍結融解作用でアンカーボルトが抜けていく現象を目視するには、極寒の中で長~い時間が必要です。また、アンカーボルトを抜いてしまうような地震動を目視するのも奇跡的と言えます。


だから、推定なのです。

ただ、架橋条件や数ある損傷事例を根拠にしているので、現時点で皆さまと共有できるレベルにはあると思っています(^^)/


さて!
次回は、再劣化を繰り返していた塩害を受けたポステンT桁の解体状況について書いていきたいと思います。

「再劣化case11:塩害を受け続けたポステンT桁の内部事例」

また来週~

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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