ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
おかげ様で読者の皆さまから、ご質問やお問合せをいただくことが多くなりました。
うれしい、たのしい限りです(´ー`)
この活動で日々思うのは、
インターネットがこれだけ発達しても自分が本当に必要な情報というのは、なかなか探せないものなんだということ。
私は検索するのが下手なので、知りたい情報まで辿り着くことがなかなかできません💧
なので、
2022年から始動した劣化シリーズでは、
このブログに寄せられたこれらの疑問やお悩みを ”この場” を介して、あなたの本当な必要な情報となるよう発信していきたいと思います!
※質問者の方々からは了承をいただいております。
※内容についても一部改編し、質問者の情報が特定されてないよう努めています(事前確認済み)。
このブログの記事が、
橋梁メンテナンスに携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。
ではさっそく、いってみましょう!
※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。
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目次
【再劣化case11:塩害を受け続けたポステンT桁の内部事例】
■質問:塩害を受け続けたポステンT桁について
『先日みた日経コンストラクションの記事のなかで、塩害を受けたポステンT桁(健全度Ⅳ)について取り上げられていました。
塩害によって下フランジに指が入ってしまいそうな大きなひびわれが入ってしまった橋梁をわたしも調査したことがあります。
このようなひびわれが入るとすぐ健全度Ⅳにしなければいけないのでしょうか?』
このようなご質問を先日いただきました。
そうですね。
”すぐにの場合もあり” ますし、”それ以外の場合もあり”ます。
健全度Ⅳにするということは、その橋梁構造の安全性が脅かされているということです。
すぐにの場合 → 緊急性があり、<ただちに>補修や補強要す → 健全度Ⅳ
それ以外の場合 → 緊急性はないが、<5年以内>の補修要す → 健全度Ⅲ
つまり、
緊急性があるか、ないか、
これです。
今回ご質問いただいた事例である、
健全度Ⅳと評価されていた日経コンストラクションのポステンT桁の事例、ひどかったですね。
わたしも健全度Ⅳにすると思います。
健全度Ⅲにするか迷うところですが、斫ったあとの内部の腐食状況を見れば確信に変わります。
ただですね・・・
健全度評価は一概に
”絶対これが正しい評価”
と言い切れないことがあります。
なぜなら
同じように見える損傷でも健全度は違う
からです。
一見同じように見える損傷でも、その劣化程度や緊急性はさまざまで、ここまでの補修が果たして必要だったのか?と補修しながら反省することも。
このようなことから、損傷状態やそれが及ぼす橋梁への影響をよく理解したうえで健全度評価する必要があります。
これまで、
このブログでは健全度について触れてきませんでしたが、そんな一見同じように見える塩害を受けたT桁橋の実例を交えながら書いていきたいと思います!
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■なぜひび割れが入るのか?
『そんなことわかってるよ~(´-`)』
まあ、そう言わずに。
橋梁点検で頻出するポステンT桁に入るひびわれには、
・シース管に沿ったひびわれ
・PC定着部近くに入る応力に関連したひびわれ
・下フランジに入る橋軸方向のひびわれ
など
こんな特徴をもったひびわれがあります。
今回の質問のあった事例でいうと最後に挙げた「下フランジに入る橋軸方向のひびわれ」ですね。
では、
このひびわれを深堀していくとしましょう。
塩害を受けると、どうなるか?
そうですね。
当然、内部の鉄筋や鋼材が腐食します。
そして、
腐食膨張の影響をうけてその周りのコンクリートが割れます。
これがひび割れとなって表面に現れるんですね。
ここまでは普通のひびわれ発生メカニズムです。
ポステンT桁であろうと発生メカニズムに違いはありません。
では、
ポステンT桁のひびわれに対する健全度評価で大事なところはというと、
・ひびわれの位置
・ひびわれの方向
・内部の腐食状況
・これに関連する周囲部材の損傷状態
です。
この点については日経コンストラクションでも診断のポイントになっていました。
さて、今回の質問に戻りましょう。
”このようなひびわれが入るとすぐ健全度Ⅳにしなければいけないのでしょうか?”
健全度Ⅳにするか?
健全度Ⅲにするか?
この判断をするには、以下の点を整理しておく必要があります。
■ひびわれの位置と方向
主にひびわれが発生している位置は、下フランジです。
そして今回の健全度評価を確実にしたのは、
支間中央付近に入った橋軸直角方向のひびわれでした。
では、
この位置に入るとなぜ健全度Ⅳになるのか?
日経コンストラクションでも解説されていましたが、このひび割れが
「曲げひび割れ」
だからです。
この曲げひび割れが入るということは、このPCポステンT桁橋の命ともいえる内部に挿入された”PC鋼線”の機能(期待しているプレストレス力)が低下している証拠となります。
極端な話、
PC橋の場合は、PC鋼線の健全度で橋の健全度が決まると言ってもいいでしょう。
そのため、
ひびわれが支間中央かつ橋軸直角方向に入ったら、すでに橋梁構造としては末期状態だと思って間違いないです。
■内部の腐食状況
さきほども似たようなことを書きましたが、
PC橋の場合、PC鋼線の健全度が橋の健全度に大きく影響します。
そのため、
同じように見える損傷状態(ひびわれ幅、方向など)でも、PC橋なのか?RC桁なのか?その橋梁構造に注目した評価が必要となります。
『 ひびわれ幅●mmだ! 大変だ! 健全度Ⅳ( ゚Д゚) 』
『 腐食程度●●だから、健全度Ⅲでいいね。補修しよ(´ー`) 』
では、ありませんよね?
同じひび割れ幅でも、PC橋とRC橋ではその重要性は全く違います。
PC橋の話に戻りましょう。
塩害を受けたポステンT桁橋の下フランジには、よく大きなひびわれが入ります。
わたしも指先が入ってしまいそうなひびわれを何度か見てきました。
1cmちかくあるひびわれを見れば、誰だって怖くなります。
ただ、ここで慌てないでください。
そのひびわれの主犯となっているのは、PC鋼線でしょうか?
見た目に惑わさず、まずはその橋にとってのかなめ(PC鋼材の劣化程度)となる状態の確認が必要です。
わたしの経験談ですが、
『 こんな広範囲に下フランジに大きなひびわれが発生している。ひび割れから覗けば内部の鉄筋も黒く腐食しているのが見えるし、PC鋼線も相当ひどい腐食に違いない 』
と意気込んで斫ってみたら、
『 え? まさかのピカピカ・・・( ゚Д゚) 』
PC鋼線やそれを覆うシース管の腐食はそれほどなかった・・・なんてことがありました。
きっと、ものすごい腐食をしているはず。
見た目の派手さに惑わされ、先入観をもってしまった失敗事例です。
そして、
PC鋼材が腐食しておらず、スターラップくらいの腐食だった場合に一番やってはいけないこと。
それは、
その結果に安心してしまうこと・・・
塩害を受けた橋梁に対する安易な補修はそれこそ命取りです。
スターラップを防錆し、塩分対策として断面を斫って、樹脂モル等での断面修復や不適切な表面被覆を行ってしまった結果、数年後にとんでもない再劣化となってしまうケースがたくさんありました。
今回の日経コンストラクションで取り上げられていた桁もそうです。
塩害を悪化させ、取戻しのつかない(架け替え)結果になってしまいました💧
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【健全度評価について】
もし、今回の事例で
「曲げひび割れ」が発生しておらず、内部のPC鋼材も腐食していなかったら、健全度Ⅳになっていなかったでしょう。
健全度Ⅳほどの緊急性がなければ、健全度Ⅲとしつつも、塩分量や腐食状況、残存耐力を調査したうえで健全度ⅡあるいはⅠとなるような補修計画を立てることになったと思います。
健全度評価は難しいですよね(^-^;
評価者の経験や知識、維持管理に対する考え方が入る、いわば主観の世界ではありますが、基準(1つの閾値)は大切です。
一方で、
”この損傷であれば、あと何年まで耐えることができる” というような客観的に判断できる技術は今のところありません。
橋梁メンテナンス業界は、まだまだ歴史の浅い分野です。その当時は当たり前、最適と思っていたことも、今となれば不適切なんてことはザラです。
今回の塩害で再劣化してしまったポステンT桁橋も調査や設計、施工段階での不備はあったかもしませんが、その当時と現在では劣化に対する情報量や質量に差がありますので。
大事なことは、この経験を活かすこと。
この歴史の浅い分野である橋梁点検分野での個々の知識や経験を共有し、より多くの橋梁の健康回復に役立てていくことだと思っています。
さて!
次回は、鋼床版箱桁の端部で発生した滝ついて書いていきたいと思います。
「再劣化case12:鋼床版箱桁で発生した滝のような漏水」
また来週~
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