再+劣化事例

再劣化case12:鋼床版箱桁で発生した滝のような漏水

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。

おかげ様で読者の皆さまから、ご質問やお問合せをいただくことが多くなりました。
うれしい、たのしい限りです(´ー`)

この活動で日々思うのは、

インターネットがこれだけ発達しても自分が本当に必要な情報というのは、なかなか探せないものなんだということ。

私は検索するのが下手なので、知りたい情報まで辿り着くことがなかなかできません💧


なので、

2022年から始動した劣化シリーズでは、
このブログに寄せられたこれらの疑問やお悩みを ”この場” を介して、あなたの本当な必要な情報となるよう発信していきたいと思います! 

※質問者の方々からは了承をいただいております。
※内容についても一部改編し、質問者の情報が特定されてないよう努めています(事前確認済み)。


このブログの記事が、
橋梁メンテナンスに携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。

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目次

【再劣化case12:鋼床版箱桁で発生した滝のような漏水】


■質問:鋼床版箱桁端部での漏水について

『雨が降ると、桁の端部から漏水が必ず発生します。
 伸縮装置から漏水しているのではなく、鋼床版デッキプレートと伸縮装置境界部から漏水しているようです。
 止水目的で伸縮装置周りの床版防水を行ったのですが漏水は止まりませんでした。
 なにかよい補修方法はないのでしょうか?』


今回、共有する事例(質問)は、鋼床版の漏水に対する対処法です。

漏水ってほんと困りますよね💧
橋梁の健全度を低下させるそのほとんどが漏水が起因していると言ってもいいでしょう。

漏水を制すは、橋梁点検を制す・・・

なんて名言があってもいいくらいです。

さて、
今回いただいた質問にある鋼床版の漏水ですが、残念ながらよくあるんです。

ある道路管理団体では、
独自の対応をとっているところもあり。

なぜ、漏水してしまうのか?
また、その対処方法は?

これらについて健全度評価の視点も交えながら書いていきたいと思います!

これがわかると対処方法についても見えてきます(゜-゜)

タネがわかると必然です。
点検ではしっておきたいポイントになると思います!

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■伸縮装置の設置に問題があるの?

まずは伸縮装置周りの部材構成をしっておくといいですね。

基本的には、
この図のとおり、主桁(デッキプレート)の上に伸縮装置がのっています。

設計図面でもこんな断面図になっていると思います。

※基本的な伸縮装置近くの断面図

密着している(ように見える)ので、どこから水が入ってしまうのか想像できませんね。
よもや滝のようになるとは設計者は予想していないでしょう(^-^;

断面を確認できたところで、つぎは水の浸入経路を考えてみましょう。

雨が降ると、桁の端部から漏水が必ず発生します。伸縮装置から漏水しているのではなく、鋼床版デッキプレートと伸縮装置境界部から漏水しているようです。
 止水目的で伸縮装置周りの床版防水を行ったのですが漏水は止まりませんでした。
 なにかよい補修方法はないのでしょうか?

鋼床版デッキプレートと伸縮装置境界部からの漏水しているということなので、こんな状況でしょう。

※漏水経路


この図に描いていませんが、
鋼床版の場合は、基本的に床版防水としてデッキプレートの上に ”グースアスファルト”という舗装材を施工します。

このグースアスファルトは、アスファルト舗装の基層にあたります。
そして、これが防水層の役割も果たします。
硬化すると、アスファルト舗装と見た目が変わりませが、施工時はドロドロの羊羹に似ています。

さて、
グースアスファルトの話も面白いのでこれについても触れたいのですが、今回はもっと面白いところを!!!!!( `ー´)ノ

漏水の原因について話を戻しましょう。

原因はいくつかあるのですが、今回は伸縮装置の構成部材に注目してみたいと思います。


それには、おおまかな施工順序も知っておく必要がありますので以下をご覧下さい。

1.支承設置
2.主桁架設
3.伸縮装置設置
4.床版防水(グースアスファルト等)
5.アスファルト舗装の施工

こんな感じです。

今回の最重要ポイント

このなかに、設計図面に図示されない部材・作業が入っているのです。

もう一度、

先ほどの作業工程に追加した箇所を見てください。
これが漏水原因です。

1.支承設置
2.主桁架設
3.伸縮装置設置(隠れ高さ調整材の挿入)
4.床版防水(グースアスファルト等)
5.アスファルト舗装の施工

隠れ? 高さ調整材の挿入??

この名の通り、高さを調整する部材です。
フィラープレートとも言います。

主桁等の構造部材でもありますよね。
フィラープレート。

あらかじめ必要な調整高さが判明している場合は、工場で製作されたフィラープレートも同時に現場に納品されます。

が・・・

ちょっと、
高さを調整したい。
厚さの違いを調整したい。

こんなときは、別途製作品を現場で用意します。

これなくして、伸縮装置の高さ精度は確保できません。
施工者の願いを叶えてくれる秘密道具的な存在です。

なんかとっても役に立っている部材なのに、一方で漏水の原因にもなっている?
漏水の原因にもなる、このフィラープレートをなぜ使う?

それは以下のような事情があるからなんです。

ーーーーーーーーーーーーーーー

■フィラープレートって必要なの?

それはもう、フィラープレートなしでは無理です。必須です。

何度も助けていただきました(´ー`)

先ほどの作業順序の通り、主桁架設のあと伸縮装置を設置するわけですが、これが大変な作業なんですね。

特に高さは・・・

なぜかというと、

最終的な出来形となる路面高さに関する全ての<誤差>を吸収しなければならないから

です。

当然ですね。
最終工程ですから。
何事も最後(仕上げ)が大事ですよね。

例えば、
支承設置時に2mmの誤差が生じたとします。
支承だけを言えば、2mmの誤差は全く問題ありません。

しかし!
その支承の上に主桁をのせるわけですが、当然、主桁の製作誤差が追加されます。

さらに!!
この上に設置する伸縮装置の製作誤差も追加されます・・・

ごさごさごさ・・・
ざわざわざわ・・・

誤差の積み重ねですね💧

そのため、
最終出来形となる伸縮装置の高さ管理で、困らないように何回もレベルで高さを確認しながら、各工程で出来形管理を行います。

かなり厳密です。
各工程で発生する誤差を吸収しながら、次工程に進んでいくという気苦労の多い作業です。
これに加え、気温によっても影響されるので高難度の作業なんです。ほんとに。

少々話がそれてしまいましたが、

この高難易度の高さ管理を行うために必要なのが、

高さ調整材(フィラープレート)

です。

この高さの管理を、フィラープレートを少しずつデッキプレートと伸縮装置との間に挿入しながら、理想の高さに近づけていくわけですね。

フィラープレートは、センチ単位からミリ単位からありまして、1mm未満の極薄のものまであります。

ーーーーーーーーーーーーーーー

フィラープレートの何がいけないの?

設計された高さとするために、重要な役割を果たすこのフィラープレート。

かなり役立つこのフィラープレートの何がいけないのか?

それはですね。

1.フィラープレートの形状
2.フィラープレートの挿入方法

ただ、
フィラープレートを責めてはいけません( ゚Д゚)

高さ管理を行うには、どうしてもこの形状と挿入方法にしかならない現実があるのです。

※図示されていないフィラープレート


この形にしかならないのも納得ですよね。
くし型じゃないと、伸縮装置をのせた後ではこのフィラープレートは入れられませんから。

漏水の結論を言うと、

フィラープレートを挿入すると隙間できてしまうため、水がここからの浸入してしまう

と、いうことです(^-^;

そもそも、フィラープレートを挿入しなかったとしても主桁と伸縮装置は鋼部材なので、メタルタッチです。
メタルタッチとなっている時点で、目には見えないコンマ●●mmの隙間が生じてしまうことは想像に難しくはありません( ゚Д゚)

ーーーーーーーーーーーーーーー

止水するにはどうすればいいの?

水はやっかいですよね。

隙間があればそれが水脈になり、どんどん浸入していきます。

そしてその水の量は条件によって様々で、今回のような鋼床版となれば以下のような条件に左右されます。

・フィラープレート同士の隙間
・鋼床版のゆがみ、たわみ
・縦断勾配
・横断勾配

おそらく今回の滝のような漏水も、このいずれかの影響を大きく受けたのでしょうね。


止水方法としてよくあるのは、
エポキシ樹脂材(コーキングガンでシール)や止水効果をうたった舗装材もあります。

ただ、
こういう材料は劣化が早いので、メンテナンスは欠かせません。

より完全を目指すのであれば、あとは溶接しかありません。
これまで調査したなかにそれっぽいのはありましたが、止水目的で構造部材に溶接する無茶な施工ができるわけもなく(^-^;

補足すると、
グースアスファルトの施工ですね。

施工地域や施工面積等の事情から、鋼床版でもグースアスファルトではなく、アスファルト舗装と同じく通常の防水層を施工している場合があるので、止水性の高いグースアスファルト舗装への変更も有効です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【健全度評価について】

漏水に対する健全度評価の決め方について(参考)

と、いっても師匠の受け売りですけどね(^-^;



健全度をⅡ以上にすると、補修の対象となりますよね?
つまり漏水に対して、健全度Ⅱとした時点で伸縮装置の交換を含めた措置をとらなければなりません。

ここで注意しなければならないのは、

漏水発見 ≠ 健全度Ⅱ確定

損傷=補修としないことです( ゚Д゚)


よく、

『健全度のつけ方がわからない。』
『人それぞれ予防保全の基準が違いますが、何を基準に考えればいいんですか?』

などの質問を受けます。

漏水だけに言えることではないのですが、

損傷=補修ではありません。
予防保全=全ての損傷を補修でもありません。

ではどうすれば?

その損傷がその橋に対してどのような影響を及ぼしているのか?

これが大事です。


今回の漏水でいうと、下記のような視点が健全度評価では大事になってきます。

・その漏水によって影響を受けている部材はないか?
・現時点で影響を及ぼしている部材の健全度はどれか?
・放置した場合、影響を受けている部材の健全度はどうなるのか?


例えば、今回の場合、

主桁端部の腐食を誘発していて、次回点検までに主桁の健全度Ⅱ以上になる可能性がある、あるいは現時点で健全度Ⅱ以上になるのであれば、

漏水に対する健全度評価は健全度Ⅱ

でいいと思います。

ここで注意が必要なのは、影響を与えていた部材の健全度がⅡだろうが、Ⅲだろうが、基本的には漏水の健全度はⅡとなることです。

水は予防保全の要素が強いことが理由です。

話すと長くなるので、今回はここまでにしておきますね(´ー`)


いかがでしょう?

漏水=補修ではなく、漏水=橋全体に対する止水効果を考えてみてはいかがでしょうか?

この健全度評価のつけ方は橋梁に関する専門的な知識が要求されるので、画一的な診断方法とならず難しいところがあります。

ただ、この考え方をしないと、すべての損傷部材を高額な費用をかけて補修しないといけなく感じてしまい、結果的に自分の首を絞めてしまうことになるのです。

たいした補修効果もない、伸縮装置の漏水を補修することは、雨と一緒です。

その漏水によってどこにも影響がなく、次回点検まで健全度低下の可能性も低いのであれば、わざざわ高い費用をかけて伸縮装置を交換しなくてもいいのです。

今回の質問者様の損傷事例についても、損傷の規模(滝のような漏水)が大きいと、ついつい補修したくなってしまいます。

ここは焦らずに全体をみた補修効果を考えて見る必要があります。

伸縮装置って高いですしね。
支承の腐食も同じですが、またの機会に。


さて!
次回は、橋梁の健全度評価の仕方について書いていきたいと思います。

「健全度case00:橋梁の健全度評価」

最近、
『健全度評価のつけ方がわからない』
『日経コンストラクションでも同じ橋梁なのに国と地方では健全度評価が全く異なっていたけど?』

というお問合せいただきます。

たしかに・・・

これはどこにも書いていませんからね。
参考値なるものはありますが、『どうしてこう評価するの?』となりますよね?

まずは基本的な健全度の考え方からでも書いてみようと思います!

また来週~

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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