健全性の診断事例

健全度case01:橋梁の健全度評価とは?

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。


この活動で日々思うのは、

インターネットがこれだけ発達しても自分が本当に必要な情報というのは、なかなか探せないものなんだということ。

専門性の高い分野ともなると、難しい言葉で書かれた論文が多くなり、それが自分の知りたい情報だったのかすらわからなくなるときが多々あります。

『道路橋定期点検要領ってなに?』
『この補修方法であっているのかな?』

私は検索するのが下手なので、知りたい情報まで辿り着くことがなかなかできません💧


このブログの記事が、
橋梁点検、橋梁補修に携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちで読んでいただけると助かります。

ーーーーーーーーーーーーーーー

目次

【橋梁の健全度評価について】


■定期点検の義務化

健康診断。

会社にお勤めの方は年に一度は必ず発生するイベントですよね(´ー`)

橋だって健康診断を行います。
それが定期点検。

この定期点検は法律で5年に1度行うことがH26年に決まりました。

法律で決まったのは、ほんと最近でそれまでは各道路管理者が点検の頻度や実施の有無を決めていました。

それが、インフラの老朽化やそれに伴う事故も発生するようになったことが契機となり、H26年度に急遽、法令化(法律で義務化)したわけです。

なぜ、義務化?

簡単に言うと ”全ての橋を点検” するためです。

前述のとおり、H26年度の法令化まで各道路管理者に点検の頻度や実施の有無を任せていたので、なかには橋を点検したことない、なんてこともありました。

老朽化している橋が少ない、
点検できる人材がいない、
お金がない、

などの理由はいろいろありますが、老朽化によりそうも言ってられなくなったというわけですね。

と、いうことで、

新しい橋であろうと、
交通量が少ない橋であろうと、
壊れているようには見えない橋であろうと、

とにかく全ての橋を5年に1度、必ず点検することになりました。


■健全度の評価

義務化された定期点検ですが、主に以下の3点を行います。
1.損傷している箇所を見つけ、記録する。
2.損傷箇所の評価を行う。
3.保存する。

点検して、損傷している箇所を見つけて ”終わり” というわけにいきませんよね。

健康診断と同じです。
悪い所が見つかったら治療するか、決める必要があります。

それが上記2番の

”損傷箇所の評価” 

です。


今回のブログで一番お伝えしたいポイントになります。

この損傷箇所の評価では、
点検で見つかった各損傷を評価しそれを踏まえて、

橋ごと(あるいは部材ごと)の健康状態を4段階でランク付け

を行います。


橋の健康状態を4段階でランク付けをすることを、

健全度評価あるいは健全性の診断

と言っています。


定期点検要領では、健全性の診断で行う判定区分を下図のように定義しています。
この判定区分に応じて橋に発生している損傷がⅠからⅣ段階のどれにあたるかを決めるわけです。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


■健全度の評価方法

健全度のランクに応じて「補修する」か、「補修しない」か決まるので、点検する技術者にとっても、それを管理する道路管理者にとっても、このランク付けが最も重要と言えます。

基本的に健全度Ⅱ以上(Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)が補修対象となります。

特に、
健全度Ⅲは早期に、健全度Ⅳは緊急に、というように措置の時期まで定義されています。

ただ、
この最も重要、注目度の高い健全度の評価ですが、唯一、前述の定期点検要領で示されている判定区分の定義があるのみです。

Ⅰ健全:
道路橋の機能に支障が生じていない状態。

Ⅱ予防保全段階
道路橋の機能に支障が生じていないが,予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態。

Ⅲ早期措置段階
道路橋の機能に支障が生じる可能性があり,早期に措置を講ずべき状態。

Ⅳ緊急措置段階
道路橋の機能に支障が生じている,又は生じる可能性が著しく高く,緊急に措置を講ずべき状態。



(・_・D フムフム

で、どうするの?!( ゚Д゚)

橋の機能に支障が生ずる状態とは?

その可能性をどんな状態で判断と??

緊急を要す措置を講ずべき状態とは???


なんのことやら・・・ですよね💧
定量的な要素が全くありません。

『鉄筋の腐食量やコンクリートの欠損量等で評価するんじゃないの?』

いいえ。
違います。

定期点検で行う健全度評価は、基本的に外観目視で行います。

現地での点検も、それを踏まえた健全度評価も、外観の劣化状態から推定されます。

外観から評価したあと、橋梁構造の安全性等の観点から補修や詳細調査の要否を判断します。

ただし、
定期点検時に非破壊検査やその他の調査を行って評価しても構いませんし、き裂に関してはそれを推奨してします。※定期点検要領参照

定期点検に携わる技術者は、”橋に相当、精通している” ということが前提なので、外観だけでも健全度評価が可能としているのでしょうね。

さて、
外観から健全度の評価(判定区分の決定)を行うということですが、

その判定区分を行う際のポイントは、大きく以下の2つです。

1.橋の機能(現時点とその可能性)
2.緊急性

この2つに留意しながら評価するわけです。

例えば、

主桁が腐食して孔があいた、破断した。
支承が傾いて、橋体を支えられなくなった。

これらの損傷が発生したときは、どう評価したらいいのでしょう?

その時に、さきほどの2つの留意点を考えます。

主桁や支承の部材としての機能が、橋の機能として支障がどこまであるのか?
いまは問題ないけど、いつなら橋の機能として支障があるのか?


緊急性に留意した評価の一例ですが、

主桁が腐食し、孔があいたとします。
主桁としての耐力低下は明らかで補修を必要とします。
ただ、
同じ損傷でも、緊急性があればⅣ、なければⅢという評価になります。


■健全度評価の問題

ただ・・・

健全度評価って難しいんですよね(-_-)

かなり専門的じゃないですか。
橋に携わっている技術者なら評価できるというわけではありません。

しかも、
これら評価の最終的な責任は、各道路管理者になります。
コンサルやゼネコン等ではありません。

そして何より、
評価するにしても、具体的かつ定量的な評価基準がないんです・・・

この損傷があれば健全度Ⅱ、
この損傷であれば●年後にこうなるから健全度Ⅲ、

なんてものはなく・・・


この橋梁の老朽化の問題はかなり前から指摘されていたものの、最近やっと注目を浴び始めている分野ですので仕方ないのかもしれません。

最新の学校教育のことはわかりませんが、維持管理については工学系の学校であっても教わりません。

そらに、
現在問題になっている老朽化はまさに「今」起きているので、たくさんのものづくりを経験してきた先輩たちにもわからないことが多いのです。「今」経験しているのです。

こんな未知の評価を管理する責任があるからという理由で道路管理者に委ねられているわけですから、酷な話です💧

そこで問題が発生します。

健全度評価のやり方を教えて(゜-゜)

はい。

大変な問題ですね。

老朽化している橋が急速に増えている「今」現在なのに、健全度を評価するやり方が確立していないのですから・・・

すこし前の記事になりますが、日経コンストラクションでも評価の問題が指摘されています。

同じ損傷でも、評価する人によって大きく変わってしまうのですから、評価できる人材の育成や参考となる基準や指針がはやく確立しなければいけません。

日経クロステックxTECH
無料の範囲でも結構満足できる内容を読めますが、どうしてもその先が(>_<)って何回もなってしまうので、わたしは有料会員に登録しています。でも少しお高めです。記事の内容から(^-^;
大げさな橋の診断が続出、健全度「II」なのに「III」を付ける | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)


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【道路管理者はつらいよ】

橋梁を見上げながら、健全度評価のやり方について道路管理者の方と話していました。

Taurus🐂:主桁全体に点錆がありますね?どうして錆びているのかわかりますか?

Aさん🐧:経年劣化だと思います。

Taurus🐂:そうですね。ではこの場合、健全度はなんでしょう?

Aさん🐧:”道路橋の機能に支障が生じていない状態” は健全度Ⅰですよね?健全度Ⅰだと思います。

Taurus🐂:点錆ですし、錆の進行も遅いと思うので、健全度Ⅰでいいと思います。

Aさん🐧:健全度評価のやけ方について質問があります。

Taurus🐂:どうぞ、どうぞ。

Aさん🐧:このくらいの錆でも以前、健全度Ⅱになってしまい塗装の塗替えをコンサルさんから提案されたことがありました。塗替えしなくてもよかったのですか?

Taurus🐂:その橋をみていないので、それについてはなんとも言えませんが、同じように見える損傷でもコンサルさんの技術的な見解から健全度Ⅱと判断したのでしょうね。

Aさん🐧:たしかにそうだと思うんですけど、見た目はホントこの橋と変わらないんですよね。

Taurus🐂:最終的な補修要否の判断はあくまでも道路管理者となるので、補修不要と判断することもできますよ?

Aさん🐧:コンサルさんに反論できるほど確信もないですし。どうすればいいんでしょう・・・(+_+)


たしかに。

どうすればいいんでしょうね。

コンサルさんが提案してきたものに異を唱えるには、それ以上の何か?(技術や事情など)が必要ですからね。


『ほんとかな?』
『これでいいのかな?』

そう、思ってはみても、根拠を示せないと『そんな気がするので』とは言えませんから💧

専門的な知識の量や質の問題もありますが、なにより道路管理者側に最終的な判断があるというのが少し可哀そうな気がします。

道路管理者なので道路を管理するのは当然の責務となるわけですが、なんでもできるわけではないですし、色々な業務があるわけで・・・

特に最近は、

より安く、
より安全に、
より効果的に、
より責任をもって、
より透明性をもって、

などなど💦

道路管理者はつらいよ

ですね。

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【さいごに】

健全度の評価は、まだまだ確立していません。

いまの評価も、数年後には変わってしまうかもしれません。

わたしも過去に評価した判定が、実際工事してみると少し過大だったのではないか?と反省することがありました。

四六時中、劣化した橋梁を見ている技術者でも評価を試行錯誤している現在なのですから、技術は日進月歩です。


さて!
次回は、具体的な健全度の評価事例を書いていきたいと思います。

1つの見解であることをご了承願いたいのですが、
『このような損傷の場合、どのように健全度を評価したらいいのですか?』
というお問合せが多いので少しでも参考になればと。

次回「健全度case02:主桁端部に孔があいたら?」

また来週~

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