⑳漏水・滞水

【新解説】損傷種類⑳:漏水・滞水(ろうすい・たいすい)

橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の神宮 皐(かみや さつき)です。

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あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。

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目次

【⑳漏水・滞水とは?】

損傷種類の代表格とも言えるこの⑳漏水・滞水。

この損傷の内容は読んで字のごとくです。

水が漏れていたり、水が溜まっていたり

する状態のこと。


余談ですが、

この漏水や滞水は、厳密にいうと損傷種類ではないとお気づきですか?

実は損傷ではなく損傷を誘発する ”原因” です。
しかし橋梁点検では ”損傷” として扱っています。

ほかにも同じ損傷種類があるので頭の片隅にでも。


話は戻りまして、

どんな状況でこの「⑳漏水・滞水」が記録されるのか?

後述する章でも改めて詳しく説明しますが簡単に言えば、

1.排水管や伸縮装置のような部材から、水漏れしている状態

2.漏水や排水あるいは降雨によって、構造物に水たまりしている状態

このような状態があれば記録します。

出典 道路橋定期点検要領平成31年2月 国土交通省 道路局 P92


ここまではそれほど、難しい内容ではありませんよね?

水漏れと滞水なんですから。

点検初心者だったころ私もこの損傷は、感覚でなんとなくわかりました(´ー`)

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【点検要領の解説(解釈)】

さて、

26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。

ただ、

この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。

それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。


そこでここからは、

(僭越ながら)わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。

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<点検要領の付録-1>

「付録-1」では、以下のように⑳漏水・滞水について解説されています。

赤枠を見てください。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


◆漏水とは

「伸縮装置、排水施設等から雨水などが本来の排水機構によらず漏出している状態のこと。


ここで大事な一文があります。

“本来の排水機構によらず“

です。

つまり、”排水があってはならないところからの排水”ということになります。


具体例を排水構造の有無で挙げてみます。


■排水型伸縮装置の場合

排水型の伸縮装置の目的は、橋面の雨水を伸縮装置に流入させて橋面下へ排水することです。

昔の伸縮装置はこれのタイプがほとんどでした。
伸縮装置や地覆の隙間から排水させることを推奨していた時代です。

さて、
この場合の排水機構によらない場合とは、

樋が土砂等の堆積物で水分を受けることができない場合
樋と排水管の接続部が破断し設計された位置まで導水できない場合

などが考えられますね。

なお、本来の機能に見合った排水については、この点検要領の解説の通りに解釈すると対象外となりますよね?

ただし、

本来の機能としての排水であったとしても、排水によって周囲の腐食や凍害等の損傷を誘発している場合は対象となりますので、⑳漏水・滞水として記録してOKです。


■非排水型伸縮装置の場合

非排水型ですから、基本的には止水材の不具合や樋の土砂詰まり等がなければ排水されることはありません。

よって、
本来の排水機構によらない場合とは、

下図のような排水機能が低下(損失)した場合ということになります。

「本来の排水機構」によらない事例


ここで、

大事な補足が1つあります。

それは、

“一時的な現象で、構造物に支障が生じないことが明らかな場合には、損傷として扱わない。”

です。


樋は水を受けるための装置ですが、さすがに一時的な大雨(現象)を処理できないこともあるので、それは損傷から除外してよいことになっています。

屋外であることを前提に建造された構造物ですから、一時的に水がかかったからと言って構造物への支障は生じませんよね?


◆滞水とは

「桁内部、梁天端、支承部などに雨水などが浸入し滞留している状態のこと。」


滞水があれば記録しますが、これも前述の「漏水」と同様に注意が必要です。

それは、

“一時的な現象”の場合”

です。


滞水でいうところの、一時的な現象とはなんでしょう?

当然雨が降れば構造物は濡れ、滞水することもあります。

ただ、
雨が降った日に舗装の点検したらどうなるでしょう?

点検調書は⑳漏水・滞水、一色ですね( ゚Д゚)


そのため重要なのは、

その滞水が構造物に支障があるかどうか?

滞水したからといって、構造物にすべて支障が生じるわけではありません。

滞水すると何がいけないのか?それを考える必要があります。


橋座面に滞水した場合の事例を考えてみましょう。

「橋座面に水勾配がなく滞水しやすい。一時的に流入してきた水だけど腐食環境が維持されやすいな。」

「滞水によって、橋座面にある土砂が湿潤してしまい。いつも桁端部が湿ってしまうな。」

「冬季になればこの水はどのように凍るのかな。雪はどのように積もるのかな?」

などがありますね。

これらの滞水は構造物に支障を及ぼす損傷として記録すべきでしょう。

ひと口に“滞水”、“一時的な現象”といっても、橋それぞれに滞水しやすい構造や雨がかりの条件もありますので、点検要領を十分に理解する心がけをしつつも、橋の健康に目を向けることを忘れてはいけませんよね。

「⑧漏水・遊離石灰とは?!」参照
「⑰その他とは?!」参照 :土砂の堆積があると常に湿潤環境となりやすい
「⑰その他とは?!」参照:⑰その他(水抜きパイプの導水不良)と⑳漏水・滞水(橋座面滞水)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<点検要領の付録-2>

損傷程度の評価区分で難しいことはありません。

漏水や滞水があれば “区分e” を記録します。


ここで大事なことは赤枠の部分です。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課
当該損傷との関連が疑われる排水管の損傷などが確認できる場合には,それらも併せて記録する。

漏水があった→ “e” で記録。

これに加えて、橋梁診断つまり健全度評価では周囲の損傷を誘発していないか?の評価がとても重要となっているのです。

漏水であれば、それが及ぼす影響範囲。
滞水であれば、水の浸入経路。

これに目を向ける、思いをはせることが大切です!


健全度評価では、

水の有無や量を重要視しているのではなく、その水が構造物に与える影響を評価している

からです。

勾配には要注意

漏水や滞水しているところの正確な位置や鮮明な写真は、あくまでも橋の健全度評価をするうえでの判断材料の1つであるということを忘れてはいけません。

大量の滞水や滝のような漏水があったしても、構造物に影響がないなら処置のしようもないですし、橋の健全度にも影響しません。

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この水ってどこから来たの?

雨が降れば、橋は濡れます。
雨が降れば、水も漏れます。

屋外に建造されている橋において、水に濡れることは避けられません。

そして、
いくら止水したり導水したりしても、形あるものいつかは壊れます・・・

橋梁点検では伸縮措置、排水管からの水漏れがよくあります。


水の影響で健全度ⅡやⅢの腐食や凍害等を誘発している可能性があれば、この原因を解明しない限り、仮に塗装や断面修復しても再劣化してしまいます。

そのため、この原因究明にかなりの時間をかけることがあるのです。


ただ・・・

困ったことに、

「この水ってどこから来たの?( ゚Д゚)」

ってことがあります。


漏水や滞水している位置や写真を記録するのですが、たまにその水がどこから流入してきたのか?

どうして水が漏れているのか?


点検調書からの情報がここが抜けているときがあり、とても困ることがあるのです。

健全度評価が確定できないからです。


点検品質の向上、業務の評価点向上等のためには、ここが大切です。

ぜひ現地では、よ~~~く漏水や滞水を観察し、健全度評価を根拠となる情報を見つけるようにするといいですよ。

水は想定外のところから流れてくるので難易度が高い作業となりますが、想像力を働かせて1つ1つ、その答えに近づいていく作業が必要です!( `ー´)ノ

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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。

これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。

「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」

などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。

わたしはこの解決策が、

信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。

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