橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちでご一読くださいませ。 ※橋梁点検人材育成プロジェクト【Linxxx(リンクス)】を運営(非営利)しています。 ご質問・ご依頼につきましては、こちらからどうぞ(´-`) Linxxx – 橋梁メンテナンス人材育成プロジェクト│Linxxx(リンクス)
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目次
【⑬遊間の異常とは?】
まず、
”遊間”とはなんでしょう?(゜-゜)
言葉だけ聞けば
「隙間」のことかな?なんて想像つきそうです。
ただ、
あの大きくて頑丈そうな橋に隙間なんてどこにあるの?
ってことですが、橋には至るところに隙間があります。
あえて隙間をつくっています。
なぜなら、
隙間がないと橋が壊れてしまうからです。
橋は常に温度で伸びたり縮んだり、回転したりしているので、これらの動きを隙間によって吸収する必要があるんですね。
遊間(隙間)は橋梁構造にとって大事な役目を果たしています。
しかし、
想定外の設計要因や施工要因、地震災害等の様々な理由から遊間が異常に狭くなったり、異常に広くなったりしてしまうことがあり、本来の役目を果たせなくなることがしばしばあるのです。
この異常な状態を橋梁点検では、「⑬遊間の異常」という損傷で記録することになっています。
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【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこでここからは、
(僭越ながら)わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
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<点検要領の付録-1>
■⑬遊間の異常を記録すべき部材
点検要領の付録-1では、⑬遊間の異常について下図のように解説されています。
上図の赤枠に、基本的な内容が記載されています。
【一般的性状・損傷の特徴】 桁同士の間隔に異常が生じている状態をいう。桁と桁,桁と橋台の遊間が異常に広いか,遊間がなく接触しているなどで確認できる他,支承の異常な変形,伸縮装置やパラペットの損傷などで確認できる場合がある。
上記の一文が示す ”桁同士の間隔に異常がある状態” とは、
つまり
”桁と桁の隙間に異常がある状態”
のことです。
この一文が示す、「桁と桁(桁同士)の遊間異常」は桁と桁ですから、文をそのまま読めば以下のような状態ですね。
ただ、ここで疑問が・・・
『桁と桁だけでいいの?(゜-゜)』
はい。
違います。
下図の赤線を見てください。
以下のような記載があります。
高欄や地覆の伸縮部での遊間異常についても、「遊間の異常」として扱う。
この文の通り、他の部材でも「⑬遊間の異常」として記録する必要があるということが想像できます。
では、
具体的にどの部材が対象となるのでしょうか?
その答えは以下の点検要領(赤線)が参考になります。
鋼部材でいえば、
・上部構造 / 主桁、横桁、縦桁、床版・・・
・支承部 / 支承本体
・路上 / 伸縮装置
これが対象部材ということになります。
ここで1つ疑問が・・・
それは、
『高欄や地覆は対象部材じゃないの?』
です。
これらの部材でも遊間異常が発生することがありますが、上記の図では対象外となっています。
しかし、
明らかにこの部材でも遊間の異常が発生していますので、この場合は「⑰その他(遊間の異常)」と記録し、この有益な情報を評価者へ伝達すべきでしょう。
実際の橋梁診断では、これらの情報が点検要領の解釈の誤差を埋めるために現地で確認しているのです。
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<点検要領の付録-2>
■区分cと区分eの違い
次に、
点検要領付録-2についてみていきましょう。
遊間の異常があれば、「c」と「e」で区分することになっていますね。
上図に記載されている以下の ”一般的状況” に記載されている内容をみても、先ほどの章でお伝えした桁以外の部材について説明が記載されていますね。
区分c:左右の遊間が極体に異なる、又は遊間が橋軸直角方向にずれているなどの異常がある。 区分e:遊間が異常に広く伸縮接手の櫛の歯が完全に離れている。又は、桁とパラペットあるいは桁同士が接触している(接触した痕跡がある。)
整理するとこんな感じでしょうか。
・桁と橋台との遊間
・桁と桁との遊間
・支承のサイドブロックやストッパーとの遊間
・伸縮装置のくしとの遊間
さて、
この2つの区分の違いについては、なんとなく区分eのほうが、区分cに比べて「ヒドイ」ということはわかります。
しかし、
●●mmなら区分c・・・というような具体的な数値はありません。
許容誤差はあるものの遊間の設計値はミリ単位ですので、かなり難易度が高い施工者泣かせの工程です。
しかも、
設計における想定外の回転や挙動があったり、施工での据付精度といった理由から、いとも簡単に遊間の異常が発生してしまうのです。
大きな声で言えませんが、よくあります。
そのため、
疑いの目をもって点検に臨めば簡単に区分c程度の遊間の異常は確認できてしまいます。
ただし、
その遊間の異常が構造的に問題あるのかというと「問題にならない」ことがほとんどです。
以上の観点から、
・損傷はあるものの伸縮装置の機能に支障がない → 区分c
・損傷があり、しかも伸縮装置の機能に支障がある → 区分e
このように記録できると思います。
注意しなければならないのは、
伸縮装置の機能に支障がある場合でも、健全度Ⅲになる!ということではありませんのであしからず。
■点検で⑬遊間の異常が大事な理由
様々な部材で発生する遊間異常ですが、
重要なことは「⑬遊間の異常」を見つけることではありません。
「隠れ⑬遊間の異常」
を見つける手がかりとすることです。
なぜなら過去に桁同士や伸縮装置等の異常があったとしても、
・補修工事で伸縮装置を交換したり、
・接触した桁を切断してしまったり、
記録上では⑬遊間の異常が発生していない
つまり、
遊間が隠れてしまうのです。
昔の点検調書をみると、
伸縮装置の遊間が全くなかったのに、補修後は伸縮装置の遊間が見られる橋があります。
しかし、
支承や主桁をみると、しっかりと⑬遊間の異常がある・・・
伸縮装置が新品になり、あたかも健全な橋だと錯覚してしまう事例ですね。
さらに、
伸縮装置を交換すると不思議なことにまた遊間が詰まりだす・・・
なんてこともしばしば。
安易に見た目を優先した補修は危険なんです。
橋梁管理カルテを更新する際は、
現段階で得られる情報をきちんとカルテに記録し管理していく
ことが重要です。
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【伸縮装置の据付難易度】
⑬遊間の異常が発生しやすいのは、断トツで「鋼橋」です。
なぜなら、
コンクリート橋より、鋼橋の方が据付が難しいからです。
鋼橋は製作品の組合せです。
支承や伸縮装置、主桁等の製作品は高い精度で工場製作されています。
そのため、現地での架設精度が直接、伸縮装置の遊間に現れてしまいます。
また、
鈑桁よりも鋼床版桁の方が伸縮装置の据付は難易度が上がります。
さらに、
昔の下部工の施工精度や施工技術の観点からは、沈下や移動、傾斜が発生しやすいので、経年により伸縮装置の遊間に影響していきます。
これらの視点があれば、
高確率でいままで見落とされていた「⑬遊間の異常」を点検で見つけることができますよ(´ー`)
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。
わたしはこの解決策が、
信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。