橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちでご一読くださいませ。 ※橋梁点検人材育成プロジェクト【Linxxx(リンクス)】を運営(非営利)しています。 ご質問・ご依頼につきましては、こちらからどうぞ(´-`) Linxxx – 橋梁メンテナンス人材育成プロジェクト│Linxxx(リンクス)
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目次
【⑱定着部の異常とは?】
そもそも「定着部」ってなんでしょう?(゜-゜)
定着の意味は、”ある位置や場所にピッタリとつけること” ですので、橋の何かをどこかにピッタリとつけている部位ってことでしょうか。
コンクリート部材にいれる鉄筋も定着させるっていいますよね?
じゃあ、鉄筋の定着が異常をきたすってこと?
・・・
橋梁点検での定着部とは、
PCケーブル部の定着部
のことを指しています。
PCケーブルは、斜張橋や吊り橋に使われています。
高い塔やケーブルがあって、その街のランドマークとしても活躍している 斜張橋や吊り橋 。
横浜ベイブリッジ(1989年開通)やレインボーブリッジ(1993年開通)がそれですね。
これらの橋の特徴は、「支間長」が長いこと。
支間長を長くするには、橋体が垂れさがらないようしなくてはなりません。
橋体が垂れさがらないようにするために、高い塔から張られたPCケーブルによって橋体を吊り下げる必要があります。
そのPCケーブルを橋体をつなぎ、固定(定着)している部位が「定着部」なのです。
斜張橋や吊り橋のような橋はこの定着部があることで初めて構造安全性が確保されます。
橋梁点検ではこの定着部に異常がないか、特に注意して点検する必要があるのです。
しかし・・・
・狭い
・高い
・暗い
・コンクリートで埋まっている
・鋼部材カバーで覆われている
など・・・
とにかく点検しにくい部位なのです。
その結果、
・外観以上に深刻な劣化になっていた
・漏水が損傷原因だとわかっていたけど、浸入経路を特定できない
など
こんな問題が発生してしまう、あるいは発生しても気づけないのです。
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【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこでここからは、
(僭越ながら)わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
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<点検要領の付録-1>
⑮舗装の異常については、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
【一般的性状・損傷の特徴】を見てください。
内容としては、大きく「赤、青、緑、橙」4つに分かれています。
なんか色々書いています。
さっぱりわかりませんよね(゜-゜)
気を取り直して読み解いていきましょう。
◆損傷状態について
赤線:PC鋼材の定着部のコンクリートに生じたひびわれから錆汁が認められる状態,又はPC鋼材の定着部のコンクリートが剥離している状態をいう。 ケーブルの定着部においては,腐食やひびわれなどの損傷が生じている状態をいう。
ここの部分では、
定着部に損傷あるいは、懸念される損傷があれば異常と判断する
ということが記載されています。
さらに、
定着部でひびわれや遊離石灰が生じていたり、
定着部を構成している支圧板などが腐食していたりすれば、
⑱定着部の異常と併せて、
①腐食や⑥ひびわれを記録する必要があるのでご注意を。
◆分類について
青線:斜張橋やエクストラドーズド橋,ニールセン橋,吊橋などのケーブル定着部は,「3その他」の分類とする。
⑱定着部の異常は、”PC鋼材の種類” によって以下の4つの分類にわけて記録する必要があります。
分類1:縦締めPC鋼材の定着部
分類2:横締めPC鋼材の定着部
分類3:その他(斜張橋等のケーブルの定着部)
分類4:外ケーブル定着部又は偏向部
では、
この分類で示されている定着部の概要についてそれぞれ説明していきますね。
大きく3つあります。
1.縦締めや横締めPC鋼材の定着部。
2.斜張橋等のケーブルの定着部。
3.外ケーブル定着部又は偏向部
1つ目は「縦締めや横締めPC鋼材の定着部」
縦締めと言われる橋軸方向のPC鋼材と、横締めと言われる橋軸直角方向のPC鋼材があります。
ほとんどの場合、コンクリート橋が対象となりますが、鋼橋でも床版を横締めしている場合がありますので床版形式に注意が必要です。
PCケーブルを緊張する前は、緊張するために支圧板やケーブルが露出していますが、緊張後はモルタルやコンクリート部材で埋まってしまうので、よほど劣化しない限り外観からは確認できません。
ただ、たまにかぶり不足で支圧板が初めから露出していることがあります。
張り出し床版の下面で長方形に腐食した部材があれば、支圧板の可能性があるので注意しながら点検してみましょう。
2つ目は「斜張橋等のケーブルの定着部」
コンクリート橋、鋼橋のどちらも対象です。
そして定着部もコンクリート部材と鋼部材の両方あります。上図の分類としては、これが「分類3:その他」に該当します。
3つ目は「外ケーブル定着部又は偏向部」
これは、平成26年度の要領改訂時に追加された部分です。
外ケーブルとは、コンクリート橋新設時の部材厚を薄くするためや、曲げ耐力を回復するための補強工事で橋体の外側にあるケーブルのこと。
ケーブルだけでは補強できないので、ケーブル位置の保持等のために偏向具も併せて工事で設置されています。
◆対象部材について
緑線:定着構造の材質にかかわらず,定着構造に関わる部品(止水カバー,定着ブロック,定着金具,緩衝材など)の損傷の全てを対象として扱う。 なお,ケーブル本体は一般の鋼部材として,耐震連結ケーブルは落橋防止装置として扱う。
定着部とは、定着体周囲の止水カバーや定着金具などすべて対象となります。
あと、ここではもう2つ。
追加ポイント1.⑱定着部の異常では記録しませんが、ケーブル本体についての注意点として記載されています。ケーブルの中身は鋼材なので、「鋼部材」として記録してねってことですね。
追加ポイント2.ケーブルはケーブルでも落橋防止装置のケーブルは用途が違うので、Sf:落橋防止装置で記録してねってことが注記されています。
◆点検時の注意点 について
橙線:ケーブル定着部などがカバー等で覆われている場合は,内部に水が浸入して内部のケーブルが腐食することがあり,注意が必要である。
実際の点検でもケーブルや定着部が注目されがちですが、ゴム製止水カバーのひびわれやケーブル保護管のつなぎ目から雨水が浸入して、内部が劣化するので、大切な点検ポイントだと思います。
内部の劣化は被覆材を除去しないと見えませんが、その兆候として被覆材がはがれたり、亀裂がはいったりするので、よーく確認してみてくださいね!
そして、内部でケーブルの腐食や滞水が確認できたら、どこから浸入したのか?をよく現地で確認してみましょう。病気と同じで根本原因を取り除かないことには再発してしまいますから。
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<点検要領の付録-2>
◆損傷程度の評価
⑱定着部の異常と聞くと、重症のように聞こえますが、必ずしもそうではありません。
軽傷、重症どちらもあります。
外観の状態だけでは本当の損傷状態の評価が難しい損傷です。
なぜなら、
定着部の内部が見えないからです。
とはいえ、
橋梁点検では外観の状態を客観的にを記録する必要があります。
そのため下図のように判断し記録します。
・定着部に小さなひびわれや遊離石灰等の損傷があった場合 → “c” と記録
・著しい損傷があれば → “e” と記録
『ふむふむ。著しい損傷があれば ”e” ね(゜-゜)』
さて、ここで問題が・・・
“著しい”
とは、どのような損傷状態を示すのでしょうか?
コンクリートや鋼材等で覆われた内部が見えない状態で、PC定着部等の著しい損傷を判断したらいいのかは難しいところです。
そこで参考になるのは、
一緒に記録することになる他の損傷程度
です。
例えば、以下の損傷は、錆汁の有無や鋼材の腐食状態等で “c” と ”e” の判断をしています。
・①腐食
・⑦剥離・鉄筋露出
・⑧漏水・遊離石灰
点検要領の全体を通してみると、他の損傷程度が参考にできます。
閾値が見えてきますよね。
◆損傷パターン
これは冒頭でもお伝えしましたが、
⑱定着部の異常では、定着部でひびわれや遊離石灰が生じていた場合、それらについても別途損傷として記録する必要があります。
定着部でひびわれや遊離石灰が生じていたり、
定着部を構成している支圧板などが腐食していたりすれば、
⑱定着部の異常と併せて、①腐食や⑥ひびわれ、⑦剥離・鉄筋露出等
を記録する必要があるってことですね。
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【予測と結果の差をうめる】
⑱定着部の異常だけに限った話ではないのですが、
次なる段階としては、
予想と結果の差を埋めることが大切です。
点検で定着部の異常が確認されれば、その後定着部を斫る等の詳細調査を行う場合があります。
国土交通省管轄の定期点検ではS1判定ですね。
この斫り調査に立ち会うことができれば、点検時の自分が予測した損傷の答え合わせができます。
なかには、コンクリート表面の状態だけでは小さかった損傷でも、内部の定着体が「著しい」と判断すべきだったことがわかるようになってきます。
点検後の調査や工事への立ち会いは、道路管理者等にお願いする必要があるのでハードルが高いように思えますが、点検品質の向上が目的ですからお願いすれば結構認めてもらえますよ。
自分の基準づくりをしていきましょう!
それが難しい場合は他者に聞くのが一番ですが、周囲の情報で不足する場合は、このブログを含めて私に聞いてください。
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。
わたしはこの解決策が、
信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。