橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
※橋梁点検人材育成プロジェクト【Linxxx(リンクス)】を運営(非営利)しています。 ご質問・ご依頼につきましては、こちらからどうぞ(´-`)
Linxxx – 橋梁メンテナンス人材育成プロジェクト│Linxxx(リンクス)
-------------------
目次
【①腐食とは?】
酸素と水等の化学反応により、金属は腐食します。
腐食。
つまり私たちもよく知っているあの「さび(錆)」のことです。
厳密に言えば少し違うのですが橋梁点検では、
<錆=腐食>
として扱っています。
橋梁点検を全くやったことなくても、錆(腐食)がわからないという方はほとんどいないでしょう。
主桁や露出した鉄筋が錆びていれば、
「①腐食」
として記録します。
簡単そうです。
ただし、
そう簡単にはいかないのが、この「①腐食」。
橋梁点検をやっていると、
こんな疑問をもったことはありませんか?
『この程度の腐食は、①腐食c?』
『この腐食深さは、”大”でいいの?』
『①腐食と⑤防食機能の劣化の区別はどの程度から?』
どうでしょう?
点検要領で解説されてはいるものの、実際に現場で点検してみると結構判断に迷うことがあるのです。
-------------------
【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこで以下からは、
わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<点検要領の付録-1>
■【一般的性状・損傷の特徴】
①腐食については、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
ながっ!!
ほかの損傷と比べて、異様なほど大量の説明文・・・
なぜか①腐食については、基本的な損傷内容の説明のほかに、腐食を点検をするうえでの注意事項がもりだくさん記載されています。
大丈夫です。
恐れることはありません。
整理すれば簡単です。脅かさないでほしいですよね。
ここで注目してほしいのは、上段(赤枠)の4行です。
抽出すると以下の4点です。
さらに大事なところを太文字にします。
1.普通鋼材では集中的に錆が発生している状態
2.錆が極度に進行し板厚減少や断面欠損(以下「板厚減少等」という。)が生じている状態
3.耐候性鋼材の場合には,保護性錆が形成されず異常な錆が生じている場合
4.極度な錆の進行により板厚減少等が著しい状態
※1と2は普通鋼材、3と4は耐候性鋼材です。
腐食を記録するうえで、最も重要となる視点。
それは、
板厚減少の有無
です。
普通鋼材でも、耐候性鋼材でも、
”板厚減少がある、あるいはその可能性がある”
と評価できれば「①腐食」と記録することになります。
では断面減少はどの程度から言えるのか?
これがポイントになるわけですが、次からはこれを踏まえたうえで次の説明に入ります。
■【他の損傷との関】
ここでも前述の ”板厚減少” について示されています。
ここでは、
⑤防食機能の劣化や耐候性鋼材、ボルトとの関係性について記載されています。
損傷種類や鋼材が変わろうと、大事なことは変わりません。
板厚減少等を伴う、あるいはその可能性
がある損傷を「①腐食」で記録するという説明です。
■【その他の留意点】
ここには、
「①腐食」で記録するときは、⑤防食機能の劣化も記録することを忘れずに!
ということが記載されています。
その通りなのですがよくある誤解があります。
補足説明をいかに記載します。
それは、「①腐食」と「⑤防食機能の劣化」はセットではないということです。
下図のように結果的にセットとなることが多いだけで実は違います。
点検要領にも ”一般的には” と記載されていますよね?
あくまでも「①腐食」があるところには、「⑤防食機能の劣化」もあるはず・・・というだけなのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<点検要領の付録-2>
■【損傷程度の評価と記録】
「①腐食」の損傷程度の評価は上図のように、
”損傷の深さ”と”損傷の面積”の大小の組合せ
でa~eの評価を行います。
”損傷の深さ” → 大? 小?
”損傷の面積” → 大? 小?
これを評価できれば、おのずと「①腐食」の損傷程度が決定されます。
■■損傷の深さ
まず、
”損傷の深さ”ですが、
ここのポイントは、
著しい板厚減少の有無
です。
簡単に言えば、
著しい板厚減少あり → 大
著しい板厚減少なし → 小
さて、
ここでややこしい問題が。
著しい板厚減少とはなんでしょう?
「①腐食」の章だけでは情報不足ですが、「⑤防食機能の劣化」をみると”著しい板厚減少”の閾値が判断できます。
「⑤防食機能の劣化e」に、
防食塗膜の劣化範囲が広く、点錆が発生
しているとあります。
ということは
点錆程度では「①腐食」では記録しない、つまり点錆以上が「①腐食」
と判断できるということです。
■■損傷の面積
さいごに、
”損傷の面積”です。
上図の注記の通り、
格点と格点等を1つの単位とした面積の50%が大小の閾値
です。
-------------------
【近いようで遠い存在、腐食】
これまで橋梁点検員の方々から、「①腐食」と「⑤防食機能の劣化」について質問を受けることがたくさんありました。
みなさん苦労されているようです。
わたしも初めはわかりませんでした。
また過去の点検調書を見ても、
①腐食で記録するのが適切だと思うような損傷にも⑤防食機能の劣化で記録されていることを多く見てきました。
さらに最近では、
耐候性鋼材という防食機能的に腐食することが前提の鋼材が増えてきました。
耐候性鋼材の保護性さびは損傷ではないのですが、普通鋼材の腐食と外観は同じです。
これが一層「①腐食」をややこしくする要因となっています。
腐食についてはブログではお伝えしきれないことが多い損傷ですが、このブログを見ていただけた方の知識の補完と明日からの点検にお役に立てれば嬉しいです。
-------------------
■お問い合わせについて■
橋梁点検人材育成プロジェクト【Linxxx(リンクス)】を運営(非営利)しています。ご質問・お問合せにつきましては、下記専用フォーム・TwitterDMからお寄せください(´-`)
CONTACT | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート
橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。
わたしはこの解決策が、
信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。
ーーーーーーーーーーーーーーー