⑤防食機能の劣化

【新解説】損傷種類⑤:防食機能の劣化(ぼうしょくきのうのれっか)

橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。

このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した  ”あなた個人”  がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。


プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。

あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。

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目次

【⑤防食機能の劣化とは?】

橋梁で使われる代表的な材料として ”鋼材” があります。

コンクリートに比べ鋼材には以下のような長所があります。

・軽い
・加工が容易
・取換が容易 

など


その一方で、

コンクリートに比べ、鋼材を使用する上での最大の短所は

腐食に弱い

ことです。


逆に言えば、腐食させなければとても優れた材料とも言えるわけです。

そのため、腐食させないように防食機能を兼ね備えた塗装で被覆します。

塗装には腐食要因である水分や塩分、紫外線等を遮断してくれる機能を持っています。


しかし、

どんなに耐久性の高い塗装を施したとしても、長年使用すれば劣化は必ず訪れます。

私たちの身近にある車を想像してください。

はじめはキレイな塗装でも → 塗装が劣化し → 少しずつ点錆が見えはじめ → 次第に腐食範囲が広がっていき → やがて孔が明きはじめ → 部品が剥がれ落ちる

こんな劣化過程を辿るはずです。


さて、

今回のブログのテーマである損傷種類「⑤防食機能の劣化」ですが、前述した劣化過程の初期段階と深く関係しています。

橋梁点検では、

塗装が劣化し少しずつ点錆が見えてきた状態を「⑤防食機能の劣化」として記録

します。

★わたしが参考にしている資料
国土技術政策総合研究所の「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」
この写真や備考欄に記載されているメモが点検で役に立ちます。

出典 国土技術政策総合研究所「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」

(1) NILIM. https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748.htm
国総研資料 第 748 号 (nilim.go.jp)

(2) 付録-1 損傷評価基準および損傷写真集 https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748pdf/ks074809.pdf
国土技術政策総合研究所研究資料 (nilim.go.jp)

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【点検要領の解説(解釈)】

さて、

26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。

ただ、

この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。

それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。


そこで以下からは、

わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<点検要領の付録-1>

■【一般的性状・損傷の特徴】

⑤防食機能の劣化について、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


はじめに、

「⑤防食機能の劣化」の点検するうえでの特徴ですが、上図の赤枠のように

防食機能の種類によって3つに分類

します。


分類1 → 塗装
分類2 → めっき、金属溶射
分類3 → 耐候性鋼材

この分類された3つの防食機能に応じて、損傷程度a~eを記録するわけです。


つぎに、

「⑤防食機能の劣化」の損傷状態ですが

塗膜の劣化や点錆が発生している状態

のことを言います。


つまり、

「①腐食」に至る前の状態

とも言えます。


橋梁点検での鋼材に対する損傷過程は、「⑤防食機能の劣化」→「①腐食」の順番を辿るといってもいいでしょう。

防食機能が低下あるいは損失し、腐食が発生する、といった過程です。


具体的な「⑤防食機能の劣化」の例として国総研の資料で下図が示されています。

出典 国土技術政策総合研究所「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」

上の写真は下塗りが見えていますよね。








下の写真は点錆ではないものの、板厚減少には至っていないと推定される錆が発生しています。




後述する付録ー2の章でも「⑤防食機能の劣化」の損傷状態として下塗りの露出や点錆のことが具体的に記載されています。


■【他の損傷との関係】

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


ここで示す、”他の損傷” とは、「①腐食」を指しています。

一見同じように見える錆の状態でも、損傷状態のレベルによって、「①腐食」であったり、「⑤防食機能の劣化」であったりするので、記録する上での見分け方について解説してくれています。


上図にも記載されているように「①腐食」と「⑤防食機能の劣化」の大きな違いは

板厚減少の有無

です。


この<板厚減少があるか、ないか>が、「①腐食」と「⑤防食機能の劣化」の閾値となります。

▼「①腐食」のほうが板厚減少について掘り下げて書いています。「⑤防食機能の劣化」と併せて読んでいただくと理解が深まります。
2023.05.4【新解説】損傷種類①:腐食(ふしょく)
【新解説】損傷種類①:腐食(ふしょく) | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート


これは<分類1:塗装>に限らず、<分類2:めっき、金属溶射>や<分類3:耐候性鋼材>についても同様です。

言葉だけではわかりにくいので、参考写真をよく見て確認しておくといいでしょう。



腐食状態を点検するうえでの最大のポイントは、

視る、聴く、触る

で点検することです。


板厚減少の有無を判断するためには、本当の損傷状態を把握するためにしっかり近接し、触ったり、叩いたり、こすったりする必要があります。

なぜなら、

遠目からの塗装状態と真の損傷状態がまったく異なっている場合があるからです。


外観はまったくキレイに見えても、近寄ってみると塗膜の下では腐食が進行して膨れていたり、ハンマーで打撃してみるとウエハースやクッキーのように脆く破断してしまうことが結構あります。


近年、

目覚ましいドローンによる飛行技術やAIによる画像技術が発展しています。

しかし、

先ほど述べた危険な状態になっていることも忘れてはなりません。

新しい技術や製品に頼り過ぎるのはとても危険であり限界があるのは橋梁点検に限った話ではありませんよね。


■【その他の留意点】

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


上図の赤下線2行は大切です。


実務者同士の間では、

『「①腐食」を記録するときは「⑤防食機能の劣化」もセットで記録する』

と教えてもらうことが多いと思います。

その理由を知っている人はあまりいないのですが、この2行が答えです。


上図の2行を簡単に言うと、

腐食の周りには、防食機能も劣化しているので記録しましょう

ということなのです。


防食機能の劣化(塗膜の劣化)をせずに、局部的に腐食だけしていることはまずないとは思いますが、ここでは一応、”防食機能の劣化が認められる場合は” と注意書きされています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<点検要領の付録-2>

■【損傷程度の評価と記録】

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


耐候性鋼材は別の記事で説明しますので、まずは上図の分類1と分類2だけ説明します。


<分類1:塗装>の場合は、この図にあるように下記の状態があれば「⑤防食機能の劣化」として記録することになります。

・変色
・塗膜のうき
・塗膜の剥がれ
・下塗りの露出
・点錆


次に、

<分類2:めっき、金属溶射>の場合ですが、同様に下記の状態があれば「⑤防食機能の劣化」として記録することになります。

・点錆


以上からわかるように、点錆までが「⑤防食機能の劣化」の範囲と判断できます。

厳密に言えば、ミクロ的には点錆も板厚の減少をしているとも言えそうですが、点検要領では点錆程度であれば、「①腐食」として記録しなくてよいと解釈できます。

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【腐食の基準は十人十色】

点検講習をやったり、診断をしていて一番思うのは、点検する会社あるいは点検員さんによって、この①腐食と⑤防食機能の劣化の記録の仕方がかなり統一性がないということです。

腐食は普段、わたしの生活でもなじみのある損傷であるため、人によって腐食の捉え方が違うからでしょうね。

正しい記録の仕方を追求するのも個人的な見解があるので、終わりがないようにも思えますが、点検要領上は本ブログのような解釈ができると思っています。

ただ、やはり大事なことは書類として残る写真や損傷ランクのような記録ではありません。

目的は橋梁の健全性をしっかりと判断することです。


そのためには、

新しい技術を併用しながら、真の損傷状態を見極めたうえで要求される橋梁の機能を満足できるような点検を行う必要があります。

メンテナンスはまだまだ発展できる分野ですね。

これからも楽しみです!

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■お問い合わせについて■

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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。

これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。

「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」

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