橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
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目次
【橋梁点検員と橋梁診断員】
橋梁の定期点検を行うためには、どのような技術者が必要なのでしょうか?
土木技術者ならいいのでしょうか?
橋梁を専門とする技術者でなければ点検できないのでしょうか?
点検するための資格要件は厳しく定められているでしょうか?
・・・
その答えの手がかりが【定期点検要領 4.2定期点検体制】に記載されています。
まず(1)と(2)を見てみましょう。
(1)には、
定期点検のうち,対策区分の判定及び健全性の診断や関連する所見の提示,及び,このために必要な状態の把握は,これらの一連を適正に行うために必要な,橋梁に関する知識及び技能を有する者(以下,本要領では,橋梁診断員という)が行わなければならない。
(2)には、
この他にこの定期点検要領が求める損傷程度の評価等の変状の記録,この他定期点検を適正に行うために必要とされる作業や安全管理などについても,それぞれの記録,作業,安全管理等に適正な能力を有するものが行わねばならない。定期点検は,これを適正に行うために必要な橋梁に関する知識及び技能を有する者が行わなければならない。
(1)と(2)には主に”赤文字”と”青文字”のそれぞれ異なる業務内容が示されています。
つまり、
定期点検を行うためには、このそれぞれ異なる業務を行える技術者が必要
ということを示しています。
そして、
それぞれ異なる業務内容ではあるもののどちらにも共通して
”橋梁に関する知識及び技能を有する者”
である必要があるということです。
橋梁の点検を行うのですから、それ相応の橋梁に関する専門的な知識を持ち合わせている技術者が求められるのは当然のことでしょう。
しかし(1)の文末にだけカッコ書きが追加されていますね。
それは、
”(以下,本要領では,橋梁診断員という)”
という部分です。
(2)については特段の明記はありませんが、以上を整理すると
(1)の業務には「橋梁診断員」
(2)の業務には「橋梁点検員」
という2種類の技術員が必要である、ということになります。
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【点検業務と診断業務】
先ほど、
「橋梁点検員」と「橋梁診断員」について触れました。
では、
具体的にどのような内容の業務を行うのかについて説明します。
国土交通省が管理する橋梁の定期点検では、以下の2つの業務が発注されています。
・橋梁点検業務
・橋梁診断業務
国土交通省の業務では定期点検の目的や意味、調達性の観点から2つに分けているのですが、地方自治体が管轄する橋梁点検に対しては踏襲するようには求めていません。
地方自治体では点検と診断の2つの業務にわけずに、1つの業務で点検から診断まで行う仕様で発注されています。
この2つの業務内容を簡単にいうと、
・橋梁点検業務は → 損傷を見つける業務
・橋梁診断業務は → 損傷を踏まえて健全性を決める業務
です。
そして、
それぞれの業務における技術員(赤線部:橋梁診断員、青線部:橋梁点検員)の具体的な役割については以下の通りに記載されています。
上記の2つの業務のそれぞれに求める技術員の資質を定期点検要領や発注時の仕様書ではきちんと求めているのですね。
つぎに、
定期点検要領に示されている【2.定期点検の目的】のフローについて解説します。
ここで大事なところは、下図の(2)の赤線部と(3)の青線部です。
赤線部は先程と同じく、「橋梁診断員」が行う部分を示しています。
青線部は「橋梁点検員」です。
■点検業務
青線部の点検業務にですが以下の業務を行うことになっています。
・損傷程度の評価
・外観性状の記録
①から㉖まで損傷種類に対する損傷の程度をa~eの5段階で評価したり、ひびわれの長さや剥離の範囲を損傷図にスケッチしたりする業務です。
■診断業務
赤線部の診断業務ですが以下の業務を行うことになっています。
・状態の把握
・対策区分の判定
・道路橋毎の健全性の診断、部材単位の健全性の診断
さきほどの点検業務によって作成される点検報告書(点検調書)を診断業務で確認し、状態の把握を行ったうえで、対策区分と健全性の診断を行います。
ちなみに、
ここでいう対策区分は全部で9区分あります。
健全性の診断は全部で4区分あります。
冒頭のフローを色分けすると以下のようになります。
左の赤枠が橋梁診断員が行う橋梁診断業務。
右の青枠が橋梁点検員が行う橋梁点検業務です。
下部の記録については、点検業務も診断業務もそれぞれ記録するので重なっています。
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【理想の国と疲弊の地方】
今回のブログでご紹介した内容は、あくまでも国土交通省での発注仕様です。
国土交通省の業務では定期点検の目的や意味、調達性の観点から2つに分けているのですが、地方自治体が管轄する橋梁点検に対しては踏襲するようには求めていません。
地方自治体では点検と診断の2つの業務にわけずに、1つの業務で点検から診断まで行う仕様で発注されています。
そのため、
『点検と診断で何が違うの?』
『診断ってなに?』
など、点検と診断の意味を同一として認識してしまっていることが業界内でも多く見られます。
点検と診断を1つの業務にするほうがいいのか?
国土交通省のように2つの業務にわけて発注する方法がよいのか?
それぞれにメリットはありますが、わたしは2つにわけて業務を行うほうのメリットが大きいと思っています。
これについては、
様々な要因が絡むのでひと言では表せません。
ただ1つだけ言えることは、
”健全性を決める診断技術は、医療のように確立されていない” ということです。
風邪、擦り傷、打撲に対する処置で、100人の医師でそれほどの違いはないでしょう。
しかし、
インフラの診断技術では同じ損傷でも、それを評価する技術者によって相当のバラつきがあるのです。
それは、
診断技術が確立していないという問題を示しています。
これらの問題に対処するために、国土交通省は地方自治体の指標となることが求められている以上、メンテナンスの理想を追い求めなければなりません。
旗振り役として全速力です。
しかし、
地方自治体はというと旗振り役は遥か遠くの存在として、声がかすかに聞こえるくらい・・・
これらの現実と戦い、相談できる相手もおらず、疲弊だけか残るというのが地方自治体の現状ではないでしょうか。
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。
わたしはこの解決策が、
信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。