橋梁点検ブロガー【Taurus|トーラス】です🐂
”二ッチではあるけど面白い橋梁点検”
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橋梁点検、橋梁補修に携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。
ではさっそく、いってみましょう!
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目次
【いろいろな床版形式】
今回のブログでは、「床版(しょうばん)」の形式や点検診断時のポイント、劣化事例について書いていきます!
次回のブログも床版の関連記事を書く予定です。
書ききれないことが床版はたくさんありますから。
本題に戻ります。
床版の損傷は橋梁メンテナンス技術者として、理解すべき基本の損傷もあることは確かですが、その一方で基本とはかけ離れた損傷もあり、なかなか奥深い部材です。
橋梁の点検・診断技術者としては、この床版と言う部材にどれだけ理解を深められるか・・・
特に緊急性が求められる損傷に遭遇したときは、判断できるリーダーが必要です。
さて、
”床版(しょうばん)” と一口でいっても、いろいろな種類(床版形式)があります。
床版(しょうばん) 自動車や人の交通荷重を直接支える部材です。そして、その交通荷重を橋桁や下部工に伝える役割があります。
代表的な床版としては大きく下記の2つがありますが、今回は「コンクリート床版」にします。
・鋼材を組み合わせた鋼床版
・コンクリート製のコンクリート床版
このコンクリート床版を ”材料、構造、打設方法” でさらに類すると、以下のような床版形式があります。
・RC床版(場所打ち、プレキャスト、補強鋼板設置)
・PC床版(場所打ち、プレキャスト)
・鋼コンクリート合成床版(場所打ち)
・サンドイッチ型複合床版(場所打ち)
・I形鋼格子床版(グレーティング床版)(場所打ち)
このほかにもFRP製などの床版がありますが、まずは代表的な床版形式をおさえましょう!
いろいろある床版形式ですが、橋梁点検で見かけることが多いのは以下の床版形式です。
■RC床版(あーるしーしょうばん)
まずはもっとも一般的な床版形式であるRC床版。
鉄筋とコンクリートで構成されています。
床版に作用する引張力を鉄筋で、圧縮力をコンクリートで負担します。
■PC床版(ぴーしーしょうばん)
鉄筋とコンクリート、PC鋼線で構成された床版です。
RC床版と大きく違うのは、PC鋼線によってプレストレスを導入していること。
プレストレスを導入する方向は、橋軸方向や橋軸直角方向がありますが、一般的なものは橋軸直角方向への導入です。
■合成床版(ごうせいしょうばん)
鉄筋とコンクリート、鋼板で構成された床版です。
上記2つと大きく違うのは、鉄筋量が少なく、引張力を床版下面側にある鋼板が負担しているところ。
トレーラーで運ばれてきたパネル状の合成床版を桁上に並べていくとほぼ完成形になります。
従来のようにコンクリートを打設するための木製の型枠が不要なので、簡単かつ早期に床版を建造することが可能です。
最近はこの形式が増えてきました。
■I形鋼格子床版(あいがたこうこうししょうばん)
鉄筋とコンクリート、I形鋼、亜鉛めっき底鋼板で構成された床版です。
グレーティング床版とも言います。
特徴的なのは、I形鋼が主鉄筋、亜鉛めっき底鋼板が型枠の役割を果たすところ。
見た目は合成床版と似ていますが、合成床版の底鋼板は塗装や耐候性の色に対して、グレーチング床版は亜鉛めっきしかないので、底鋼板の材質で見分けることができます。
施工方法や目的は合成床版とほぼ同じで、簡単かつ早期に床版を建造することが可能です。
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【だまされやすい床版形式】
なんとなく、
『床版っていろいろな形式があるんだな~(´ー`)』
と感じてもらえたと思います。
では、
点検や診断とどんな関連性があるのでしょう?
理由は簡単、
”床版形式の特徴に応じた点検と評価”
が重要になるからです。
床版形式や構造によって、損傷の仕方や記録方法、健全性の評価、調査・補修方法などは、全く異なります!!
点検は客観的に損傷を記録することが目的ですが、点検対象の床版形式を理解したうえでの点検ができれば、損傷の見落としがなくなることや、点検を効率的に早く正確に行うことが可能です。
とても大事なことなんですね。
そのため、
1.床版形式や構造を理解すること。
2.床版形式に応じた健全性の診断を行うこと。
この2点を常に念頭に置いて点検・診断~補修までを一貫して行っていく必要があります。
『床版形式や構造を理解して点検って…当たりまえじゃない?(゜-゜)』
・・・
たしかにその通り。
ただ、言うは易し。
土木技術者と言えど間違ってしまうことが少なくありません。
というか実際に多い。
見分け方が難しいのです。
『そんな大げさな。素人じゃないんだから(゜-゜) 』
そうでもないんです。
”土木技術者ならわかる” というレベルではないんですから。
「あなた」も、「わたし」も、意外に間違ってしまうものなのです。ほんとに。
間違えやすい床版形式としては、特に床版下面を鋼板で覆われている下記の4タイプです。
・RC床版(場所打ち)※補強鋼板設置
・鋼コンクリート合成床版(場所打ち)
・サンドイッチ型複合床版(場所打ち)
・I形鋼格子床版(グレーティング床版)(場所打ち)
下から見上げると、すべて同じような鋼板で床版下面が覆われています。
遠望で、この床版形式の違いを見分けるのは至難の業です。
ただ、
見分けるポイントはいくつかあるんです。
・ボルトの数や形
・防錆方法(塗装、メッキ、耐候性)
・鋼板の形状 など
これらの特徴があるので、相当の経験や知識をもつ技術者であれば、パッと見でも床版形式の区別が可能でしょう。
このように非常にわかりにくい床版形式ですが、
一番採用されている床版形式は「場所打ちRC床版(以下、RC床版)」です。
省力化・低コスト・高耐久性の理由から、近年ではプレキャストPC床版や合成床版の採用が多くなってきました。
しかし、これまでの主役はRC床版であることから、劣化といったらRC床版が多いのは当然です。
まずはRC床版をしっかりと点検できることが大切です。
基本の床版形式ですからね。
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【損傷程度の評価は、健全性の評価にあらず】
下図は直轄(国道)で使用している道路橋定期点検要領(以下、要領)です。
ひび割れ幅や間隔、方向、角落ち、水や遊離石灰の滲出状況を踏まえ、上図(左側列)のように損傷程度を<a~e>の5段階で状態を評価します。
※床版ひびわれに対する点検要領の解釈については以下のブログに書いていますので、そちらをご覧ください。
点検要領の内容は難しいので、すでに記載されている内容の説明の説明(解釈)という位置付けです。
2021.9.20UP 損傷種類⑪:床版ひびわれとは?!-もうこれで満足だという時は、すなわち衰える時である。by渋沢栄一 | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート
この章でお伝えしたいのは
損傷程度の評価は、健全性の評価ではない
ということです。
どの損傷にも言えることですが、損傷程度の評価区分は「損傷の状態を現している」にすぎません。
構造物の健全性を現しているわけではないのです。
ネットに公開されている評価方法を調べてみると、
例えば、
上図で一番評価が悪い損傷程度<e>を機械的に健全度Ⅲと評価している事例を見かけます。
損傷程度<c、d> → 健全度Ⅱ
損傷程度<e> → 健全度Ⅲ(Ⅳ)
これは危険です。
確かに、損傷程度<e>であれば健全度Ⅲの可能性はあります。
ただ、本当に健全度Ⅲでいいのでしょうか?
人間でいえば、
鼻血がたくさんでました → 損傷程度<e> → 健全度Ⅱ ※ティッシュで止血
鼻血がたくさんでました → 損傷程度<e> → 健全度Ⅲ(Ⅳ) ※手術、入院
どうでしょう?
違和感ありませんか?
ティッシュで止血程度すれば、問題ないですよね?
血の量で決めることってないですよね。
こんな評価や補修事例が実はたくさんあるのです・・・
あなたは、どう思いますか?
これまでどう評価していましたか?(゜-゜)
健全度ⅡやⅢに評価された場合、一般的な補修方法はひび割れ注入を行います。
そして橋梁ですから、高所である場合がほとんどであるため吊り足場を設置します。
これが高い・・・
吊り足場を設置するためには、アンカーが必要です。
アンカーの削孔によって、万が一にでも主構造の鉄筋を切断しないように事前に点検車にリースし非破壊検査を行わなければなりません。
そして、ひび割れ注入が終わるまで吊り足場を設置し続ける必要があります。
機械的に行った結果、本当は補修しなくてもいい損傷まで多額の費用と時間をかけて補修してしまう・・・
こんなことがあったとしたら、もったいないですよね?
ひびわれを補修すること自体は悪いことではありませんが、補修費用がないこのご時世に、なるべく補修費用はかけたくないもの。
それよりも大事なことは、ひびわれの変状から推定するコンクリート床版の状態です。
床版の状態の未来予想をしてみましょう。
劣化が進行し続けた場合、どのようなことが起き、どのような補修が必要となるか?
・床版の抜け落ちによる交通障害や事故
・補修工事費の著しい増大(連続繊維シート→部分打替え等)
・健全性の回復が困難になる(飛来塩分の浸入)
補修費用をかけるかどうかは、
いつまで放置した場合に致命的な損傷となりえるのか?
で決めることも必要です。
本当にひびわれ注入は必要ですか?
そのひびわれ注入を行う効果はどのくらいありますか?
機械的な評価は簡単です。
技術力はあまり必要ではありません。
しかし、
とても ”もったいないことをしている” ことでもあるのです。
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【ひび割れもない、水もない】
もう1つ、損傷程度の評価と健全性の評価が一致しない事例を紹介します。
この事例は、損傷程度<e>の根拠となる、ひび割れ幅や水の有無では、致命的な床版の劣化を判断できませんでした。
◆ある地方都市に架けられた橋の話です。
ある日、床版が抜けたとの緊急連絡が。
急いで現地に向かうと、交通規制がしかれ、たくさんの大人達が道路上でワーワー話し合っているわけではありませんか・・・
『どうする!、どうする?!』
『どこまで補修すればいいんだ??』
『交通規制は今日、開放できるのか?????』
抜け落ち現場はこんな感じです。
わたしはさっそく、現場検証を始めました。
舗装は点検前年に打ち替えられ、抜け落ちた箇所以外はとてもキレイな状態でした。
そして・・・
床版下面を見ると、点検要領に記載されているような目立った2方向のひびわれも見えず、つらら化した遊離石灰や水の滲出もありません。
点検要領にならえば、⑪床版ひびわれの損傷程度の評価は<c>か<d>です。
<e>ではありません。
床版が抜けたのですから、健全性の診断結果はⅣです。
であれば、<e>だとしてもおかしくありません。
ただ、そうではなかった。
どうでしょう?(゜-゜)
<e>だから健全度Ⅲ、健全度Ⅳと評価するのはかなり危険と思いませんか?
点検要領で記載されている床版の<a~e>の評価は、あくまでも外観から得られる状態を現したものです。
健全性の診断に使用できる情報ではあっても、そのまま評価値にしてはいけないのですね。
後日、この床版を本格的に補修するため調査を行ったところ、よくこの程度で済んでいたと思うほどのボロボロの状態でした。
土砂化を通り越して砂化していました。
幸運にも大事故にならなかった要因として3つ考えました。
・大型車の交通量が少なかったこと
・幅員が狭くスピードを出す車両がいなかったこと
・防水の再施工で水の浸入が抑えられていたこと
この3つの要因が大きかったのではないかと。
同じような劣化状態に外観上見えても、部材が置かれている環境や条件で健全性の評価を大きく変える必要があると感じた出来事でした。
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【橋梁だって手術には体力が必要】
建造された橋梁のなかには、粗悪品がたまにあります。
現場監督とメンテナンスの両方の世界で生きてきた私にとっては複雑な気持ちです。
特に高度経済成長期にどんどん架けられた橋のなかには、
『うぁ。これはひどい・・・』
『なんで、こんなものがここに・・・』
というものも。
いろいろな時代背景もあるので批判しても仕方のないこともありますが、メンテナンスの仕事をしていると、こんなこともしばしば。
しかも昔の床版は、厚さもうすいし、鉄筋の数も太さも足りないし、度重なる舗装の打ち替えで床版厚さはさらに薄くなっているという、満身創痍で使われている場合がけっこうあります。
そんな満身創痍の状態で、さきほどの致命傷となる損傷まで進展してしまうと、もはや補修に耐える体力はありません。
架け替えを急ぐ必要があります。
補修と違い、架け替えには調査や設計にかなり時間を要します。
事故が起きても仕方がない状況のなかで監視を強化し、最低限の安全を確保することが緊急措置として求められます。
それも健全度Ⅳの活用方法。
わたしのまだ見ぬ、このような危険な橋が日本全国にあると思うとゾっとします。
次回!!
「健全度case22:ステルス床版劣化。補強鋼板の落とし穴」
また来週~
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■お問い合わせについて■
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問の解決や知りたい情報を提供したい。
そう考えています。
どうぞ気軽な気持ちでお声がけくださいね!
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