健全性の診断事例

健全度case22:ステルス床版劣化。補強鋼板の落とし穴

橋梁点検ブロガー【Taurus|トーラス】です🐂

”二ッチではあるけど面白い橋梁点検”

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このブログの記事が、
橋梁点検、橋梁補修に携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちでご一読くださいませ。
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目次

【警察24時。過積載車両の検挙】

最近のテレビはバラエティーやクイズ番組ばかりのせいか、まるっきり夕食時にテレビを見なくなりました。

アニメのほうがいいんだけど。

食事の時くらい、頭を休めたい(゜-゜)

ただ!
警察24時は別です。面白くて見てしまいます。

警察24時のテレビ番組って鉄板ネタですよね。


その警察24時を先日みていて少し驚いたのが、

過積載車両の検挙

を取り扱っていたところ。

クスリとか、密漁とか、スピード違反とかは見たことありましたけど、過積載車両は初めてでした。

過積載を判断するポイントは荷台だけではなく、タイヤの潰れ具合でも判断するそうです。

すごい観察眼ですね。

カッコいい。


『すみませ~ん。最近、過積載車両が増えているので、ちょっと確認させてもらってもいいですか~』

なんて優しい言葉でしたけど、黒でした。

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【過積載車両の何がいけないの?】


『重量を超えると何がいけないの?』
『たくさん荷物が積めるなら別にいいんじゃない?』

となりで一緒に警察24時を見ている妻から核心を突くコメントが。

そうか。

一般の人はこう考えるんですね。

メンテナンス技術者として勉強になります。


『そりゃ〜。ダメなものは、ダメだよ〜。』

じゃ、納得してもえるわけもなく。


改めまして...

過積載車両とはなんでしょうか?

読んで字のごとく、「積み過ぎ」の状態で走行している車両のことです。

車に積める重量はそれぞれの車で決まっています。


その重量を超えると橋梁にとってどんな悪影響があるのでしょうね?

それは、

劣化スピードがものすごく早くなる

のです。


重たい車がたくさん走れる丈夫な橋梁ですが、それは定められた範囲での話。

過積載の車両重量=重量オーバーは想定していません。

この重量オーバーが橋にとってかなりのダメージを与えてしまうのです。


特に、
今回のテーマでもある「床版」は深刻です。

いろいろな部材で構成されている橋梁ですが、なかでも早期劣化で問題になっている部材はこの床版なのです。

過去に早期劣化の対策として、様々な補強や基準書の改訂が行われてきました。

改訂の理由の1つとしては、「法定外の積荷」でしょうか。

その要因は良き時代であったとされる高度経済成長に関連する<お金とインフラの建造量>ですかね(゜-゜)


まずお金。

たくさん積んで運搬すれば、運搬する回数が減りますよね?

例えば、
法律を守って決められた重量分の荷物を積んで目的に輸送するために、10回の輸送がかかるとします。

1回の運搬費用は10万円としましょう。
10回×10万円=100万円かかる計算です。

それを、
荷物を2倍つんで半分の5回で輸送できたとしたら?

5回×10万円=50万円ですよね。半額で済みます。

これは違法に手を染めてしまいたくもなります。

最近の公共工事では減りましたが、限られた受注金額から利益を出そうと思えば、これが簡単な方法なのです。

山盛りに積んでいる木材や土なんか見たら、すぐ離れてくださいね。

たまに崩れて道路を塞いでしまうといったニュースをありますから。


次にインフラの建造量。

戦後復興を成し遂げるために、たくさんのインフラを整備する必要がありました。

人口の増加も伴って、国民の生活を支えるインフラは昭和30年からどんどん作られ続けました。

それと同時に車両交通量も激増しました。

そして過積載車両も増えてしまいました・・・


ところが、

交通量と重量が増えたのに、それに対応している頑丈な橋梁がなかったのです。

その影響で床版がどんどん劣化していきました。

出典 国土技術政策総合研究所


慌てた政府は、昭和40年ころから床版の基準改定や様々な補強を始めます。

それでも床版の劣化は収まらず平成に入っても、なお改訂は続きました( ゚Д゚)

出典 国土技術政策総合研究所

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【床版補強のいろいろ】

昭和40年代後半から、様々な補強が行われていきますが、代表的な補強工法は以下5つ。

1.増設縦桁工法
2.鋼板接着工法
3.連続繊維接着工法

4.上面増厚工法
5.下面増厚工法

なかでも、

上位3つがよく橋梁点検では頻出する補強事例ではないでしょうか?

橋梁を上や横から見ることがほとんどで、下から見ることは少ないですが、ダンプやトレーラーのような大型車がのっているのは、床版というコンクリートや鋼板でつくられた部材です。

出典 国土技術政策総合研究所

床版は板状なのですが、その厚さはかなり薄いんですよ。

コンクリート製でいうと、その厚さは約20cm前後。

鋼製でいうと、厚さ6~12mmの薄い鋼板を組み合わせ板状の部材です。

意外に薄くて驚きですよね?


そんな薄い部材ですから、目視ではよく分かりませんが、車が走行するたびにグネグネ、ユラユラ、ミシミシと動いているのです。

いくつかの要因はありますが、床版にひび割れが入っていきます。


さきほどの章でも書きましたが、

この薄い床版が昔は14cm等とさらに薄かったり、入っている鉄筋の量がとても少なかったり、細かったりと耐荷力が今と比べてかなり低かったのです。

そのため、大型車が増えるだけでも厳しかった部材が、過積載によって劣化の追い打ちをかけてしまうことになってしまい、床版の劣化は業界では大問題になりました。

ちなみに、

いまは床版そもそも耐荷力不足に加え、老朽化が重なり新たな劣化現象が生じていて、これもまた大問題になっています💦

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【ステルス床版劣化】

先ほど、例にあげた代表的な床版補強工法ですが、今回は2番の

「鋼板接着工法」での点検方法と点検時や補修時の留意点についてご紹介します。

昭和40年代後半から、様々な補強が行われていきますが、代表的な補強工法は以下5つ。

1.増設縦桁工法
2.鋼板接着工法
3.連続繊維接着工法
4.上面増厚工法
5.下面増厚工法


鋼板接着工法について簡単に説明します。

鋼板接着工法とは、RC床版の下面に厚さ4.5mm~6mmの薄い鋼板を接着させて耐荷力を向上させる工法です。

施工順序としては、
1.RC床版にアンカーボルトを打ち込む
2.鋼板を設置 ※RC床版には密着させない
3.エア抜き、樹脂注入用のパイプを設置
4.鋼板周りにシール充填
5.RC床版と鋼板の隙間にエポキシ樹脂注入
6.パイプ除去
7.鋼板の塗装

こんな感じです。


この工法によって、床版と鋼板が一体になり曲げ耐力およびせん断耐力が向上するため、床版下面にはよく採用されました。


鋼板接着工法の特徴としては、

塗装された鋼板と一体に打ち込まれた頭の丸いボルト

です。

これがあれば、この補強工法が採用されていると思っていいです。

合成床版やグレーチング床版と似ていますので注意が必要ですよ。


ただ、
これも例にもれず、老朽化していきます。

点検で一番問題となるのは、

RC床版が劣化しても鋼板で見えない

こと。

補強のために設置したのに、劣化しても確認できないとは、皮肉なものです。

そのため、

点検でも劣化した床版を確認できず、外見上では「劣化していない健全な床版」と評価してしまうことがよくあります。

そして、

外見上からでも劣化が疑われるくらいになると、補修の時期を逸してしまっていることも少なくありません。

外見で判断できないことが橋梁点検ではとても多いので、写真から得られる画像情報だけに頼れないということを意識しないといけません。


さらに最近多いのは、

前回点検の健全度Ⅰ・Ⅱを信用し過ぎる危険な判断

です。


前回点検とは、基本5年前です。

5年前の知見をもとに評価しているのですから、現在と評価の考え方が変わっていても不思議ではありませんよね?

本来であれば最新の知見と照らし合せ、評価の確認を行う必要があります。

量的にはそれほど多くはないと思いますが、5年前ですからね。

発展中のメンテナンス業界ですから。


『5年前の自分の仕事をみたときに、満足できていなければ成長しているってことだよ。』

そう、私の師によく言われています。

画像だけでは判断できない。

前回点検の健全度の再評価も必要。

と、なれば前回点検で健全とされていたからと言って、

『補強もされているし、しばらくは安全で健全な橋なんだ(´ー`)』

・・・

ということには “ならない”  ということがわかります。


では最後に、

ではどんなことに気を付ける必要があるのか?


1.鋼板の腐食に注意しよう

一番わかりやすいのは腐食です。
鋼板ですから、床版の劣化問わず、塗装の経年劣化でさびてきます。

多少の錆であれば問題ありません。

問題は、床版防水の劣化に伴う橋面水の浸入による腐食です。

コンクリート床版の防水がない場合もありますし、あったとしても防水を施工してもそれほど長くはもちません。

橋面から雨水等の水分がコンクリートに浸入すると、コンクリートの劣化スピードが早くなるのは常識とも言えます。

ただ、鋼板がなければ水や遊離石灰が見えるのでわかりやすいのですが、鋼板接着工法を行っている場合、この浸入している状況がほとんどわかりません。

接着した鋼板がその水を滞めてしまうからです。

そこで鋼板のまわり、角や添接板をよく観察します。

滞水していれば、前述の鋼板の範囲が錆びてくるので滞水しているかどうかを判断できるポイントになります。


2.鋼板でも⑫うきを確認しよう

鋼板を接着させたあと、樹脂が充填されているか必ず鋼板を打音して空隙がないか確認しています。

RC床版と鋼板との密着がこの工法の肝ですからね。

そのため、鋼板とボルトを入念に打音で確認して一体性が確保されているか確認する必要があるのです。

ここで重要な点を2つ。

1つ目は、
「鋼板でも打音は必要」ということです。

コンクリートを点検するときには、点検ハンマーで打音確認をよくするのですが、それが鋼板では打音で確認しなくてもいい、と誤解されている点検員の方がいます。

特に前回点検で、⑫うきがなかったから今回も・・・なんて判断をしてしまうと、損傷の見落としになってしまうので注意してくださいね!


2つ目は、
「アンカーボルトが健全でも床版劣化はしている場合がある」ということです。

アンカーボルトがゆるんでいないことは、床版の補強効果が確保されている理由の1つにはなります。

ただ、本当に確保されているかどうかは別です。


なぜなら、
さきほど滞水についても触れましたが、滞水や凍結によっても一体性が低下するからです。

RC床版と鋼板との間に滞水した水分が凍結して、膨張したらどうなると思います?

そうです。

鋼板が剥がれようとしますよね?
ボルトが抜けてしまいますよね?
樹脂や床版も凍害で劣化しますよね?


さらに!

特に積雪寒冷地では、鋼板とアンカーボルトが設置されている床版下面ではなく、凍害によって床版上面が著しく劣化します。

アンカーボルトがゆるんでいない 
→鋼板から濁音はするが問題ないだろう
 →床版と鋼板の一体性は保たれているはず
  →補強効果は失われていないはず...

というような論理になってしまうコンサルさんもいるようです。


ちなみに、
この調査では床版は層状にひびわれが無数に入り、コアが採れないほどボロボロでした。

そして、
アスファルト舗装からは白色滲出物が噴出していたり、舗装の補修を繰り返しているという、まさに床版劣化を現す典型的な兆候がありました。

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【気づかないうちに】

今回のような、ステルス(気づかない)事例はよくあります。

当時は水や飛来塩分等からの外的要因から橋を守るために、良かれと思って鋼板をはったり、繊維で被覆したりしたのでしょう。

しかし、数十年たっていろいろ問題が起き始め、いまもそれに気づかずたくさんの費用をかけて、また同じような補修を行っている事例が後を絶ちません。

それに予防保全といって補修しているのですから、それはお金足りないよね。って思ってしまいます。

さらに、これまでこのブログでも指摘している点検や健全度の問題点がありながらも、その結果を信頼し、BMS(Bridge Management System)によるシミュレーションを行っているのですから、そもそものシミュレーション結果の信頼性が低いのです。

元データの品質に大きく影響しているのですから、BMSもAIも同様の問題があります。


「予防保全の転換により、●●億円の削減が可能」
「BMSによる試算結果で、■年後には●●億円の保全費用が必要と推定」

その報道を見聞きするたびに、『それ本当かな?』、『本気かな?』と実情を知っている身としては、心配になってしまいます。

もし・・・

本当に予防保全の転換を目指すのであれば、いまの情報を真剣に疑ったうえで問題の解決に向き合っていく必要があります。

次回!!
「健全度case23:ステルス床版劣化。連続繊維シート補強の落とし穴」

また来週~

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■お問い合わせについて■

この活動で日々思うのは、

インターネットがこれだけ発達しても自分が本当に必要な情報というのは、なかなか探せないものなんだということ。

専門性の高い分野ともなると、難しい言葉で書かれた論文が多くなり、それが自分の知りたい情報だったのかすらわからなくなるときが多々あります。

私は検索するのが下手なので、知りたい情報まで辿り着くことがなかなかできません💧


知りたい情報はなんなのか?

検索下手なわたしが検索される方の立場で考えてブログを書き続けています。

「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」

などの疑問の解決や知りたい情報を提供したい。

そう考えています。

どうぞ気軽な気持ちでお声がけくださいね!

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