健全性の診断事例

健全度case25:補修したのに健全度Ⅲっておかしくない?!

橋梁点検人材育成プロジェクト
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橋梁点検ブロガー【Taurus|トーラス】です🐂

”二ッチではあるけど面白い橋梁点検”

に役立つ情報をこのブログでは発信しています!

このブログの記事が ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちでご一読くださいませ。
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 ご質問・ご依頼につきましては、こちらからどうぞ(´-`)
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目次

【進化の圧力は、生みの苦しみ】

『急速に進むインフラの老朽化への対応は、まったなし!!』

と叫ばれてから何年がたったでしょう。

そうですね。
近々で言えば平成24年の笹子トンネル事故のときですから10年でしょうか?

2022.10.2UP 「橋梁点検17:笹子トンネル事故から10年。メンテナンス時代の光と影」
橋梁点検17:笹子トンネル事故から10年。メンテナンス時代の光と影 | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート

笹子トンネルの事故から10年たち、いまや ”インフラの老朽化” のキーワードを見聞きしない日はないくらいになりました。

各紙面で特集が組まれたり、学協会や国交省で様々な講習会が開催されたり、新技術の開発や新組織が設置されたりと、土木業界で熱い分野の1つであることは間違いありません。

ただ・・・

「これをやると、この問題。」

「これをやるには、これとこれが必要。」

「ここが解決していないのに、あっちの問題を先に。」

といったように、

既存の問題が解決しないうち新たな問題が次から次へと表面化し、老朽化の問題自体が明確である一方で、その内容は複雑化してきている印象です。


これが進化の圧力というものなのでしょうか。

これらの問題を解決するには、生みの苦しみというべき、メンテナンス技術者の気概が試されていると感じる毎日です。

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【え?去年補修しましたよ?!】

先ほど、新たな問題がでてきて・・・

と書きましたが、今回のブログではその問題の1つを紹介しましょう。


今回は2年に一度の車検を例にします。

愛車をディーラー車検に出したとします。


ディーラー:「●●と■■は交換が必要です。▲▲は次回点検時の時でも大丈夫そうですけど交換しますか?」

わたし:「じゃあ、●●と■■は交換してもらえますか?」

・・・


こんなやりとりがあった後、手元に愛車が戻ってくるときには、すっきりと安全・安心の状態になっています。

車検費用は決して安くはありませんが、長く乗ることを考えれば仕方ありません(´ー`)


その一方で、長く乗る予定がないのであれば、多少の不具合は修理しないでしょう。

メンテナンスしつつ、自身のカーライフに合わせて愛車とつき合うのは基本ですよね!

これまで何度も体験している愛車の車検ですが、私たちはインフラに限らず費用対効果を身近な問題として考えていることがわかります。


話は戻りますが、

”5年毎に行う橋梁点検” がこの車検だったとすると、当然のことながら、道路管理者は橋梁点検を行ったあとは安心・安全の状態を期待します。

車の持ち主 → 車検   → 修理完了(安心・安全)
道路管理者 → 定期点検 → 補修完了(安心・安全)

点検をやる意味がここにありますからね(゜-゜)


例えば、

定期点検で確認された数ある損傷から総合的に判断された橋単位の健全度が<健全度Ⅲ>だったとします。

5年間のメンテナンスサイクルの流れを例に挙げると

0年目:定期点検 <橋単位の健全度:Ⅲ>
1年目:調査・設計
2年目:調査・設計
3年目:積算
4年目:補修工事
5年目:定期点検 <橋単位の健全度:?> 

※各部材単位の健全度を総合的に評価して、橋単位の健全度を評価します。

このように、次回点検までに措置することが基本となるので、0年目の定期点検から5年目の定期点検までのあいだに設計〜補修工事を行わなければなりません。


さあ、ここで核心です。

5年の歳月をかけ計画された補修が完全に終わったはずなのに、

定期点検でなぜか<健全度Ⅰ>とならない

ことがあるのです。

不思議ですね...

では、

 健全度Ⅲ ?
 健全度Ⅱ ?

まさか
 健全度Ⅳ !?

橋の劣化状態によりますが、どのパターンもあり得ます。

言われたとおりに補修したはずなのに…

5年後の定期点検でこの非常に残念な報告をされてしまった道路管理者は必ずと言ってもいいほど

『え?去年補修しましたよ?!( ゚Д゚)』

ちゃんと補修を踏まえた評価はしてくれましたか?

何かの間違いではないですか?

といった驚きは隠しません。


そりゃそうです。

5年前の定期点検でコンサルさんに健全度Ⅲと評価された損傷については、きちんと対応したよと。

きちんとコンサルさんが調査・設計してもらったし、それをもとに工事もしたよ。

たくさんの問題を1つ1つ関係者と解決しながらこの5年間かけてやってきたよ。

と・・・

この5年間はなんだったのか・・・


わかります。


しかし、

現実問題として、 

”健全度が一向に回復しない”

という事態が起こってしまっているのです。


この事実は私の経験に基づいていますが、道路メンテナンス年報や公開されているデータを見てもわかります。

秘密事項でもなんでもありません。

せっかく時間と労力をかけて長期的なシミュレーションをして、予防保全の重要性を確認できたとしても、実際にシミュレーション通りの成果にならない・・・

つまり、

メンテナンスコストが下がらない、あるいは増えていく傾向にある

という悔しい思いをしています。

実務者はこれで悩んでしまうのです。

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【健全度が一向に回復しない理由その1】

健全度Ⅱでも同じですが、今回は健全度Ⅲを例にします。

健全度が一向に回復しない理由はいくつかありますが、

例えば塩害によって剥離等が生じているコンクリート橋の場合だと、

0年目:定期点検  G1主桁の剥離:Ⅲ> ※定期点検で確認済み
1年目:調査・設計 G1主桁の剥離:Ⅲ> ※定期点検で確認済み
2年目:調査・設計 <G1主桁の剥離:Ⅲ> ※定期点検で確認済み
3年目:調査・設計 G1主桁の剥離:Ⅲ> ※定期点検で確認済み
4年目:補修工事  G1主桁の剥離:Ⅲ> →補修<G1主桁の剥離:Ⅰ>
5年目:定期点検  <G1主桁の剥離:Ⅲ> ※前回の定期点検で未確認の損傷を新たに確認
          <G2主桁のうき:Ⅲ> ※前回の定期点検で未確認の損傷を新たに確認

塩害を受けてしまっていると損傷が外観に出てこないことが多いですよね


結果、主桁の健全度Ⅲが新たに見つかったので橋単位の健全度は<健全度Ⅲ>のまま・・・


わかりますか?

前回の定期点検で確認されていたG1主桁の剥離:Ⅲ>の損傷は補修工事で補修しているので、その位置だけみるとG1主桁の腐食:Ⅰ>となります。

しかし、
次の定期点検で新たに同じような損傷が<G1やG2主桁:Ⅲ>といった別の位置で確認されてしまうのです。


なぜこんな事態になってしまうのか?

一度の定期点検で見つけられないものなの?!

たしかにそれはありますが、別の理由としては

損傷の進行が早い

内部で進行する損傷なので外観に現れない

ことが言えます。


例えば、

塩害を受けているコンクリート橋というのは、ひとたび損傷が進行してしまうと完全に補修できない状態に陥ってしまうのです。

コンクリート内部に浸入した塩分を完全にぬくのは至難の業。

塩分が侵入した部分のコンクリートを除去しようと、斫りとることはします。

ただし、
あまり斫り過ぎると橋の機能を損失してしまうほど斫りとらなければならないことにもなりかねません。

そのため現実的な補修方法として、妥協できる深さで斫って補修してしまうことも少なくありません。

そして、前述したように塩害を完全に食い止めることが不可能な橋梁については、延命措置としてだましだまし外観に現れた位置だけを補修し続ける・・・


以上のことから、

沿岸部で塩害を受けたコンクリート橋というのは、定期点検のたびに健全度Ⅲを繰り返すことがよくあります。

また、塩害のほかにも漏水があります。

前回の定期点検では問題にならなかった床版からの漏水が、次回点検までの間に範囲や規模が増大し、5年後の定期点検では緊急補修を行う事例もあるくらいです。

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【健全度が一向に回復しない理由その2】

2つ目は簡単に行きましょう。

これは

健全度の評価がその年で変わる

ことです。


これはこのブログでも再三ご紹介してきた内容ですが、健全度の評価は毎年変わっているかもしれないのです。

なぜなら、
点検毎に評価者が替わっているからです。

橋梁点検は基本的にその業務毎に入札を行います。

そのため、その入札毎に評価点が高い点検会社に落札されます。

点検会社の技術力が高ければ同じ点検会社が受注することもありますが、5年毎に点検会社が替わってしまうのが基本です。

道路管理者側で点検会社の評価のミスを指摘できたり、統一的な見解をもっていたりすれば、評価は安定するのですが、実際のところは点検会社等が示した評価で補修が進んでいきます。


したがって、以下のように前回点検では健全度Ⅰだった主桁のうきが、評価者がかわれば健全度Ⅲとなることも不思議ではありません。

0年目:定期点検 <G1主桁の剥離:Ⅲ> ※定期点検で確認済み
         <G2主桁のうき:Ⅰ> ※定期点検で確認済み
1~3年目:設計 <G1主桁の剥離:Ⅲ> ※定期点検で確認済み
         <G2主桁のうき:Ⅰ> ※定期点検で確認済み
4年目:補修工事 <G1主桁の剥離:Ⅲ> →補修完了<G1主桁の剥離:Ⅰ>
5年目:定期点検 <G1主桁の剥離:Ⅰ> ※補修完了
         <G2主桁のうき:Ⅲ> ※別の点検会社の評価では<健全度Ⅰ→Ⅲ>

評価が違うのが悪いのではなく、間違った評価が悪い


結果、主桁の健全度Ⅲが新たに見つかったので橋単位の健全度は<健全度Ⅲ>のまま・・・


注意が必要なのは、評価者が替わること自体が悪いのでないということです。

技術に基づいた評価であれば健全度がかわることはやむなしです。


定期点検のたびに評価に怯えることがないように、

統一的な評価基準を策定すること

が解決策ではないでしょうか?

これもこのブログでは頻出していますよね。

損傷程度区分a~eと健全度区分は必ずしも一致しません。

eだからⅢとして失敗している事例はかなりあります。

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【複雑な問題ではあるが、やるべきことは単純】

健全度が回復しない理由もほかにありますが、今回は2つだけご紹介しました。

なかなか簡単な問題ではないですよね?

しかし、
やるべきことはすでに決まっています。

・損傷が現れる兆候を見逃さないこと。
・損傷の進行性を見極められること。
・統一的な評価基準を策定すること。

上記は難しそうに見えますか?

たしかに完璧を目指せば難しいでしょう。

しかし、橋梁点検で活かせる即効性のある知見はすでにあります。

体制の構築や技術者の育成など取り組み方には色々あると思いますが、「当社の橋梁点検員を育成したい」、「ニーズを押さえて受注につなげたい」と考えているのであれば、きっとこのブログが参考になるはずです。


このブログは毎週更新しています。

すこしでもメンテナンスに悩む技術者のヒントになればと思い、日々楽しみながら考え書いています。


次回!!
「橋梁点検18:道路支援技術性能カタログってなんですか?

また来週~

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■お問い合わせについて■

この活動で日々思うのは、

インターネットがこれだけ発達しても自分が本当に必要な情報というのは、なかなか探せないものなんだということ。

専門性の高い分野ともなると、難しい言葉で書かれた論文が多くなり、それが自分の知りたい情報だったのかすらわからなくなるときが多々あります。

私は検索するのが下手なので、知りたい情報まで辿り着くことがなかなかできません💧


知りたい情報はなんなのか?

検索下手なわたしが検索される方の立場で考えてブログを書き続けています。

「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」

などの疑問の解決や知りたい情報を提供したい。

そう考えています。

どうぞ気軽な気持ちでお声がけくださいね!

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