橋梁点検の始め方

橋梁点検21:事前準備も大切な橋梁点検の1つ

橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。

このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した  ”あなた個人”  がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。


プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。

あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。

※橋梁点検人材育成プロジェクト【Linxxx(リンクス)】を運営(非営利)しています。
 ご質問・ご依頼につきましては、こちらからどうぞ(´-`)
 Linxxx – 橋梁メンテナンス人材育成プロジェクト│Linxxx(リンクス)

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橋梁点検を行うためには、色々な準備が必要です。

まず点検するための「道具」が必要ですよね?

そして点検する橋梁の「基礎情報」も必要です。

ほかにもたくさんありますが、初めて点検に取り組むとなると、どのようなもの準備したらよいのかわかりませんよね?

今回のブログでは、大きく道具と基礎資料の2点について書いていきますので、ご自身の点検計画に加えてみてはいかがでしょうか?

目次

【事前準備01:橋梁点検員に必要な装備品】

橋梁点検を行うためには、点検するための「道具」が必要です。

ここでは、橋梁点検で揃えておきたい8つの道具についてご紹介します!

さて、

その道具もいろいろありますが、そのほとんどがホームセンターで入手できます。

なかでもよく使う道具は、「点検ハンマー」でしょうか。

点検ハンマーはかなり汎用性が高く、これさえあれば床版の土砂化状態からコンクリート部材の凍害状態まで検査できる優れものです。

どんな現場でも、点検ハンマーだけは忘れずにもっていくようにしています。

ほかに、クラックスケールも点検の代名詞ともいえるような道具がありますが、実はベテランともなればクラックスケールは使いません。

ベテランの橋梁点検員が、1本1本のひびわれをクラックスケールで計測しているところは、いままで見たことがありません。


とはいえ、

クラックスケールは基本となる道具の1つ。

名刺入れや財布にでも入れておくのがよいでしょう。


長くなりましたが、

『ヘルメット・安全ベスト・安全帯・長靴はわかるけど、あと何を用意していいのかサッパリ(゜-゜) 』


という方向けに!

ここから、橋梁点検員が標準的に装備している道具についてご紹介します。


<橋梁点検員の装備品8選!!>


1.デジタルカメラ

ブレずに、明瞭に、劣化状態を記録するために大活躍するカメラ。

そして、この写真の精度によって健全度評価が大きく変わることも忘れてはなりません。

そのためには、カメラの機能に気を付けたいところ。

以下はカメラを選定する際に押さえておきたい必要機能を3つご紹介します。

1.<望遠機能>
ちょっと遠くでも望遠機能が高ければ、わざわざ飛行ドローンがなくても十分に損傷状態を把握し、かつ健全度評価も行えることが意外に多いので。

2.<防水機能(防塵機能)>
現場は屋外ですから、降雨や埃が舞うなかでの作業となります。
望遠レンズは埃や土がすぐに詰まってしまうので、日々のお手入れは必要です。

3.<対衝撃性(耐久性)>
狭くて暗い環境でカメラを使用しますので、うっかりぶつけたり、こすったりすることがよくあります。なるべく丈夫なカメラのほうがいいですね。



市販品で上記3のすべて満足させようと思うと、かなり高額なカメラになってしまいます。

ご自身の使用頻度等の条件によっては、1番と2番のみでも問題ないことがあるので、検討してみてくださいね。

・・・・・・・・・・
余談ですが、

損傷写真の撮り方はとても重要です。

基本的な撮影方法は、劣化の進行程度が比較できるように、今回点検の写真は前回点検の写真と同じ方向及び大きさ(遠近)で撮影します。

ただ、
上級者となると、この基本は一旦無視します。

なぜなら、
前回点検の写真の精度が低いことがあるからです。

これは ”点検写真あるある” なのですが、
写真と記録媒体を残すことが目的となり、本来の点検目的(健全性の診断)を見失っていることが多いのです。

前回点検の写真と同じように撮影するのは確かに大切ですが、悪い見本となっている場合もあります。

さらに劣化が進行すれば、5年前や10年前に撮影した写真との比較だけでは適切な ”健全性の診断” を行うことができないのですから。

写真の役割はかなり重要性が高いと言えます。


2.点検ハンマー

カメラも大事ですが、この点検ハンマーもとても大事な道具です。

この点検ハンマーで対象物を叩いて、その反響音や手に伝わる振動で劣化や施工不良等の状態を確認します。

叩くこと自体は単純な使い方なのですが、これを使いこなすには相当の熟練(研ぎ澄まされた手と耳の感覚)が必要です。

ちなみに私が愛用しているハンマーは少し重いのですが「TRUSCOテストハンマー」です。
軽量のハンマーもあり、橋梁点検員の方のなかには様々なハンマーを使用しているのですが、点検要領では推奨するハンマーの重さが一応記載されているので参考まで。

なお、
落下防止対策として、ハンマーの柄(持ち手部)にキリで孔をあけて、ケーブル等を通しておきましょう。


3.コンベックス(スケール)

壊れている範囲や大きさを確認して記録するときに使います。

ミリメートル表示であれば問題ありませんが、現場で持ち歩くので、あまり重すぎず、大きすぎない、ほうがよいでしょう。

1人で現場に行くことはお勧めしませんが、たまにそういう機会もあるのも事実。
そんなときに役立つのは、目盛りの先端に磁石がついているスケールです。

鋼橋であれば、『ちょっと、そっち押さえてて~』なんてときに重宝します(^-^;


4.チョーク

工事現場でも使用している、一般的なチョークで問題ありません。

ただ、アスファルト舗装にチョーキングする時には、太くて折れにくく、濡れても消えにくい「マーキングチョーク」なるものがあるのでお試しください。


5.クラックスケール

コンクリートのひび割れ幅を測定する道具です。

鋼製やプラスチック製がありますので、お好みで選んでもらって構いません。

わたしのおすすめは、「シンワ測定のクラックスケール(透明)」です。


6.手帳

メモ程度でいいのであれば、土木現場よく使用している “野帳” で構いません。

ただ、

橋梁点検では、あらかじめ前回点検の損傷図を “A3版” に印刷し、それに今回点検の結果を上書きして使っていることが多いようです。

最近ではタブレットをつかう方も増えてきましたし、私もタブレットを愛用していました。

タブレットであれば、その場で書いたメモやスケッチをクラウド保存できて書類整理に便利なんですよね。


7.ライト

橋の内部や夜間、せまい箇所に点検するときには、ライト(懐中電灯、ヘッドライト、投光器)が必要です。

大きいものから小さいものまで色々あり、明るくしたい範囲や大きさによって選定する必要がありますので、チーム全体で使用するライトと単独で使用するライトとわけて用意します。

例えば、

単独用のライトとしては、ヘッドライトと手持ちの小型ライト。

わたしが愛用していたのは、「GENTOS製の閃シリーズ」ですが、年々ライトは進化するので最新情報を確認してみるといいですよ。


8.梯子

橋梁点検は、高所で作業することがほとんどです。

少しくらい高い場所であれば、大型の梯子や伸縮できる梯子を利用します。

大小の2種類の梯子を用意しておきたいところです。

あまり高所になると梯子では対応できないため、特殊な高所作業車が必要ですが、ほとんどは伸縮できる2連梯子(最大長さ約5m)と脚立があれば問題ありません。


ただ、

幸いにもこれまで大きな事故は発生していないものの、高所での作業が多い橋梁点検はかなり危険な業務と言えます。

橋梁点検のために、枠組足場等の仮設設備を設置するということはほとんどありません。

新設工事と違って安全設備の設置は厳しくなく、新設工事しか経験のない方の多くが、おそらく驚かれることでしょう。

これまでの慣例がありますが、安全対策を講じることが必要と判断される場合には、関係各所との協議やドローンを使用する等の方法も検討しましょう。

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【事前準備02:現地点検時に必要な資料】

いきなり点検現場に行っても、満足のいく橋梁点検はできません。

初めての橋なら尚更です。

近くにある橋であれば多少の準備不足でも問題ありませんが、できれば1度で満足のいく点検をしたいものですよね。

それには、

点検する橋の予備知識

が必要となります。

事前準備しておく予備知識とは橋梁諸元や補修履歴等です。

人間で例えるなら、身長や体重、性別、家族構成、持病等です。


以下は一例です。

ほかにもありますが、これを基本としておくといいですよ。

たくさん情報があっても、現地作業で大忙しであまり資料を見ている時間もありませんから。

タブレットにデータ保存したり、一覧に整理したりして、現地の点検作業が円滑に進められるようにしましょう!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・橋梁諸元等(橋名、橋長、幅員、架設年度、架橋位置、径間数、構造形式、適用示方書)
・点検補完情報(塩害影響区分、凍害危険度、大型車交通量、凍結防止剤散布量)
・過去点検結果(損傷図、損傷写真、健全性の診断結果)
・カルテ(点検、調査、補修等の履歴)
・事前踏査資料(踏査資料、駐車場所、駐車場所から現地までの通路、危険な動物や植物情報、梯子やマンホールの施錠状況※鍵の貸与)

<その他>
橋梁点検実施計画書
道路使用許可等の有無など

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

このほかに1つだけ注意点が。

事前情報は大切ではあるのですが、先入観の持ちすぎには注意してください。


一番の理由は、

これまでの点検結果に踏襲し過ぎてしまうから

です。


つい、

これまでの点検結果(架設年度、適用示方書、損傷状態や健全性の診断等)が正しいと思い込んでしまうもの。


例えば、

・1橋の登録しかないのに、現地に行ってみたら上下線の2橋だった・・・
・RC床版で登録されているが、PC床版だった・・・
・一般図が床版更新前の古い図面だった・・・

このような事例は過去にたくさんあるので、橋梁点検は過去の点検結果に誤りがないか確認することも大切な目的の1つです。

-------------------

【事前準備03:現地踏査時に必要な確認事項】

本格的な橋梁点検(以下、本点検)を開始する前に、その事前準備として予め現地を確認する「現地踏査」なる準備工程があります。

事前踏査を行うのは必須ではないので、実施の要否は各点検内容で決める必要があります。

橋梁点検では、規制を行うこともありますし、季節によっては危険な動物との遭遇もあります。

いきなり本点検を始めるよりも、事前に現場の注意点を洗い出しておくことも大切な業務の1つです。


現地踏査のやり方も各社で色々あります。

本点検並みに点検を行い、損傷状態を表に整理したうえで本点検に望む点検会社もありますが、ここでは損傷状態以外の踏査項目を列記します。


1.駐車場所

橋梁点検は、市街地や山間部、沿岸部など様々な場所で点検します。

交通量の少ない場所や多い場所、さまざまです。

特に交通量の多い場所での点検は色々と制約が多く点検作業も苦労するのですが、点検以外の「駐車場」の確保も頭が痛い問題です。


山間部であり、空き地がたくさんあるのであれば、それほど駐車スペースに気を遣わなくてもいいでしょう。

しかし市街地であればそうはいきません。

有料駐車場や公共交通を利用し、一般の方々の交通を阻害しないように細心の注意を払う必要があります。


2.蜂や熊、蛇などの動物

現場は山間部にもあるため、当然、虫や動物が住んでいます。

時季によって活動的になっていることがあるので、特に蜂や蛾、熊に蛇については注意が必要です。

特に怖いのは、熊です。

最近では、熊が人間を怖がらずに近寄ってくることが多くなってきているようです。

スズがあるから大丈夫ではありません。

あと、

こうもり、蜘蛛、鹿や狐などにも注意しましょう。

くれぐれも単独行動はしないように。


3.草や樹木

よくあるのが、橋梁点検車のアームやバケットが樹木と干渉して当日の作業が遅れてしまうことです。

現地踏査ではこれらの樹木が干渉することを道路管理者に伝え、場合によっては伐採を依頼しましょう。

それと安全対策として見落としがちなのが、皮膚炎予防です。

ツタウルシやトゲのある草木も結構あります。

特にツタウルシは長袖を着ていても、薄手であったり、袖が短かったりすると皮膚がかぶれてしまうので服装には十分注意してくださいね。


4.橋の下(桁下)に行く通路

点検では、橋の上や横のほかに、下からも確認する必要があります。

そのため、桁下に歩いていくことが多いのですが、基本的に5年毎に点検するので、橋の廻りは草木がたくさん生い茂っています。

ほかにも、盛土が崩れていたり、波がすぐ近くまで打ち寄せられていたり、急斜面であったりと、とにかく危険がいっぱいです。

これらの状況を踏まえながら、安全に桁下まで移動しなくてはなりません。

現場は大自然のなかにあることが多いので、安全に点検するためには、草木があれば鎌等で切り開き、斜面が急であればロープをたらす等の安全対策が重要です。


5.梯子やマンホールの施錠

橋梁に設置されている梯子、内部に入るためのマンホールや柵には、立入禁止措置として施錠されている場合があります。

鍵は道路管理者が保管しているので、事前に確認し貸与してもらいましょう。

ちょっと怖いのが住民の存在です・・・

たまに施錠が壊され、橋の内部で居住している方がいるので、その形跡がある場合は危険ですので、あまり無理せず居住状況を速やかに道路管理者に伝達しましょう。


6.障害物

先ほどの樹木が点検作業の支障を及ぼすことがあるのですが、このほかに多いのが「土砂の堆積」です。

伸縮装置の止水材が脱落していたり、盛土からの土砂が流入していたりすると、支承まわりに大量の土砂が堆積していることがあります。

多少の土砂であれば点検時に除去できますが、あまりに大量だと点検作業の範疇を越えているため、点検できません。

この場合、「㉔土砂詰まり」で記録します。

ただし、土砂によって支承機能の損失に懸念がある場合は「⑯支承部の機能障害+㉔土砂詰まり」の複合で記録することになります。

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【次回は「橋梁点検員の上級者への道」】

次回は、

わたしが師から再三言われている極意ともいうべき注意事項3つについて書いていきます。

以前にも書きましたが、それの補強という感じでしょうか。

お楽しみに~

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■お問い合わせについて■

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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。

これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。

「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」

などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。

わたしはこの解決策が、

信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。

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