橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
※橋梁点検人材育成プロジェクト【Linxxx(リンクス)】を運営(非営利)しています。 ご質問・ご依頼につきましては、こちらからどうぞ(´-`) Linxxx – 橋梁メンテナンス人材育成プロジェクト│Linxxx(リンクス)
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目次
【師との出会い】
橋梁点検の右も左もわからないなかで、橋梁点検を担当する部署に配属された私。
それまで新しい橋ばかり架けてきた私にとって、橋梁点検は未知の世界。
そもそも、
傷ひとつ、ヘアクラックすらも許されない新設工事を担当してきた私にとって、橋が劣化するなど考えたことがありませんでした。
そんな私でしたが、
橋梁点検の業界に入るのと同時に幸運にも師と仰ぐことのできる橋梁点検のプロフェッショナルと出会うことができました。
今回のブログは、
その「師からの言葉」を3つご紹介したいと思います。
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【師からの言葉01:全体を診なさい】
橋梁点検員に期待される1番の目的・・・
それは、
損傷をもれなく見つけること
ではないでしょうか?
なぜなら、
橋の健全性(健康状態)を正しく判断するためには、その基礎情報となる「損傷」のすべてを把握する必要があるからです。
あの巨大な構造物である橋梁に発生した損傷のすべてを、限られた時間と費用、大勢いるチームを束ねながら橋梁点検を遂行することはかなり高度な仕事と言えます。
そして、
橋梁の損傷(劣化)は時間の経過とともに基本的に進んでいくため、点検毎に増えていく損傷を見逃さないようにかなり意識を集中しなければなりなません。
そのため、
橋梁点検では ついつい ”損傷のある場所” に集中してしまいます。
集中すること自体は大切なことなのですが…
問題は ”損傷のある場所” にあります。
これは、
”損傷のある場所”
→ ”損傷のある場所がわかっている”
と言い換えることができます。
が、
これだけではわからないと思うので、前述の言葉を示す事例を3つ挙げてみます。
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■事例1:近視眼的な点検(腐食)
例えば、
伸縮装置からの漏水の影響を受け、支承が著しく腐食(損傷のある場所)していたとします。
よくある点検結果事例として、
支承の腐食の写真はたくさんあるのですが、その原因となっているはずの伸縮装置からの漏水や止水材の劣化等の情報が全くない
なんてことがあります・・・
支承に近づくと腐食で変色していたり、塗装がはげていたりします。
損傷している場所が、わかりやすいので①腐食を記録して安心してしまいがちです。
どうでしょう?
支承の腐食はもちろん重要ですが、主となる損傷とその原因を1つとして捉え、関連するすべての損傷を見つけることが重要です。
■事例2:近視眼的な点検(変形)
鈑桁の主桁WEBや下フランジがところどころ、変形していたとします。
この時点ではなぜ変形しているのか不明です。
車両等の衝突でもない限り、この種の変形は様々な要因が考えられます。
桁の変形量(損傷している場所)よりもそれを誘発した側の損傷のほうが貴重な情報となります。
原因としては例えば、
・近傍の支承が沈下していて、偏荷重で座屈
・合成桁に対する床版取り換え時の施工不良
・工場製作時の溶接変形
・下部工の沈下、移動や傾斜
・想定外の荷重
・地震動による衝撃
などが考えられますよね?
これらを推定するには、支承の沈下量や移動量とその位置、橋脚の傾斜具合、板厚等の情報が必要です。
局部的な主桁の変形量に惑わされずに、橋全体を踏まえ関連するすべての損傷をどれだけ見つけられるかが鍵となります。
■事例3:前回点検の踏襲
橋梁点検で不本意にもよく見られるのが、
過去に見つかっている損傷(損傷のある場所)だけを点検している
事例です。
本来あってはならない点検ですが、現実問題として起こり得てしまうのがこの問題です。
巨大な構造物をくまなく短時間で点検することのプレッシャー等があり、橋梁点検員の心中は察することができますが、これでは点検品質を満足しているとは残念ながら言えません。
『前回点検で見つかった損傷だけは、記録しないと!( ゚Д゚)』
”損傷をもれなく見つける” ことが ”損傷がわかっている場所” をもれなく見つけることにすりかわってしまっている残念な事例なのです。
点検全体として捉えれば、損傷は過去だけではなく、現在もあるのですから。
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さて、
これまでの話を整理すると、”損傷のある場所” を点検で漏れなく見つけるには
広い視野をもち、全体を診ることが大切
と言えます。
損傷と原因、損傷と損傷、原因と原因が互いに関連しています。
お互い全く関係のない存在であるように見えて、すべての事象はどこかで繋がっています。
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【師からの言葉02:変状とは、変な状態】
橋梁点検では損傷している所を見つけ記録しなければなりません。
それには、以下のような変状を「損傷」として記録する必要があります。
・腐食 :鋼部材が錆びている状態
・ひび割れ :コンクリート部材に糸状の割れがある状態
・漏水・遊離石灰:コンクリート部材から水や遊離石灰が滲出している状態
etc・・・
では、
そもそも変状(損傷)とは、どんな状態のことを指すのでしょうか?
それは、
変な状態(正常ではない状態)
です。
「変な状態」・・・つまり「正常ではない状態点検」とは、その橋梁の異常な状態を記録することなのです。
そして、
変な状態を点検時に発見するためには、正常な状態を理解している必要があります。
例えば、
くし型伸縮装置の⑬遊間の異常です。
どこまでが正常と言えるのか?
どこからかが異常と言えるのか?
当初設計値から外れていれば異常なのでしょうか?
・・・
橋梁点検では、”多少” であれば設計値と違う挙動や遊間量を示していても、それが異常として記録することはしていません。
では、”多少” とはどう判断すればよいのでしょうか?
それには多少と言えるだけの ”正常と言える状態” を理解している必要があります。
”正常と言える状態”を理解するためには、
異常を示す要因である設計値、現在の気温、設置された気温、桁の回転量、補修履歴、施工要因、下部工の移動等・・・様々な要因を瞬時に判断する必要があります。
とても難しいことですが、この習得には少し時間がかかります。
設計、施工、維持(供用後の変化)のどれもが関連しています。
焦らずに少しずつこれらの知識を蓄積していきましょう(´ー`)
アンテナが高くなれば、変な状態にきっと気づけるようになるでしょう。
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【師からの言葉03:点検数1000橋が目標】
最後に、
点検を始めた当初、つど師から言われていたことは
『1000橋を早く点検すること』
です。
1橋を点検すれば、その橋に発生した損傷に対する経験を蓄積できることになります。
1橋あたりの損傷の数は、数百、数千になることもあり、1000橋を点検すれば、知らない損傷はないくらいの経験が得られるという意味です。
建設DX、AIの時代に少し逆行していますが、やはり自分の自信になるのは経験です。
経験は財産です。
受注件数によって、1つの会社あるいは1人で1000橋を経験することは難しいかもしれません。
しかし、
情報が取得しやすくなったこの時代。今すぐできなくても、すでに経験した人を師事し、自分の自信に変換できるようになればいいなと思い、サイト運営しています。
師曰く、
鼻(嗅覚)を磨くこと
とのことでした。
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。
わたしはこの解決策が、
信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。