橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
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目次
【⑦剥離・鉄筋露出とは?】
橋梁に使われている材料の代表格といえば「コンクリート」ですね。
橋脚や床版等、いろいろなところにコンクリートが使われています。
橋梁点検では、このコンクリートがなんらかの影響で剥離していれば「⑦剥離・鉄筋露出」として記録します。
「⑦剝離・鉄筋露出」は、その名の通り”剥離”だけではなく、剥離が進行し内部の”鉄筋が露出”した損傷状態も対象となります。
この1つの損傷種類で、
軽微なコンクリート表面の剥離から、内部鉄筋の著しい腐食に至るまで
幅広い損傷を網羅しています。
★わたしが参考にしている資料 国土技術政策総合研究所の「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」 この写真や備考欄に記載されているメモが点検で役に立ちます。
出典 国土技術政策総合研究所「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」
(1) NILIM. https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748.htm 国総研資料 第 748 号 (nilim.go.jp) (2) 付録-1 損傷評価基準および損傷写真集 https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748pdf/ks074809.pdf 国土技術政策総合研究所研究資料 (nilim.go.jp)
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【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこでここからは、
(僭越ながら)わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
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<点検要領の付録-1>
■【一般的性状・損傷の特徴】
⑦剥離・鉄筋露出について、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
「⑦剝離・鉄筋露出」は、コンクリート部材に以下の損傷が発生している状態を言います。
・表面が剥離している状態
・内部の鉄筋が露出している状態
・鉄筋が腐食や破断等している状態
このように「⑦剝離・鉄筋露出」はコンクリート部材の ”表面” から ”内部(鉄筋)” の損傷状態を網羅する損傷種類です。
表面や内部の損傷状態に合わせて、a~eの損傷区分に分類するわけです。
■【他の損傷との関係】
次に、この「⑦剝離・鉄筋露出」の損傷種類で記録する際の注意点を解説します。
★中点1つ目(同時に扱う㉓変形・欠損)
”剥離・鉄筋露出とともに変形・欠損(衝突痕)が生じているものは、別途、それらの損傷としても扱う。”
剝離や鉄筋露出している位置には、衝突による欠損が生じていることがよくあります。
例えば、
地覆部に車両が衝突するとどんな状態になっているでしょうか?
衝突した部位は局部的に欠けますが、その周囲はコンクリート表面が剥離していると思います。
この場合、
「⑦剝離・鉄筋露出」と「㉓変形・欠損」の2つで記録しましょう ということなんですね。
★中点2つ目(同時に扱えない損傷①腐食、④破断)
”「剥離・鉄筋露出」には露出した鉄筋の腐食,破断などを含むものとし,「腐食」,「破断」などの損傷としては扱わない。”
コンクリート表面が剥離し、露出した鉄筋がボロボロに錆びて、破断しているとします。
この場合、
「①腐食」や「④破断」で記録せずに、「⑦剝離・鉄筋露出」で記録しましょう、という意味です。
後述しますが、
露出した鉄筋が腐食している場合は、⑦剝離・鉄筋露出dやeで区分できます。
<補足>
舗装下の床版が土砂化等をしており、床版が剥離したり鉄筋が腐食したりしている場合は、「⑮舗装の異常」のほかに、「⑦剝離・鉄筋露出」も記録します。
★中点3つ目(同時に扱う損傷⑦剥離・鉄筋露出)
”床版に生じた剥離・鉄筋露出は,「床版ひびわれ」以外に本項目でも扱う。”
ひびわれ幅が大きくなると、その周辺のコンクリート表面が剥離する場合があります。
この場合、
「⑪床版ひびわれ」のほかに、「⑦剝離・鉄筋露出」も記録しましょう、という意味です。
下図は、同要領の損傷種類⑪番:床版ひびわれのページです。
上図の赤線に記載されているように、
“床版ひびわれの性状にかかわらず、コンクリートの剥離、鉄筋露出が生じている場合には、それらの損傷としても扱う”と記載されています。
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<点検要領の付録-2>
■【損傷程度の評価と記録】
下図は付録-2に掲載されている損傷区分です。剥離と鉄筋の腐食状態から区分を決定します。
損傷程度は、以下の2つから ”a~e” に区分します。
・剥離の有無
剥離がなければ → 「a」
剥離だけであれば → 「c」
・鉄筋の腐食程度
剥離が進行し鉄筋が露出していれば → 「d」
露出した鉄筋が著しく腐食していれば → 「e」
剥離があるか?ないか?
露出した鉄筋の腐食は軽微か?著しいか?
この2つの基準で決まります。
「⑦剥離・鉄筋露出」の評価はそれほど難しいことはありません。
ただ、注意しなければならないのは、
内部の鉄筋が腐食や破断しても、「①腐食」や「④破断」で記録しない
ことです。
つい、
著しい鉄筋の腐食をみると、「①腐食e」と記録してしまいたくなるのですが、あくまでも剥離部で生じている鉄筋の損傷状態は、区分dと区分eで評価することになっています。
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【健全度評価ではココを見ている】
健全度評価するときは、その「⑦剝離・鉄筋露出」のまわりにあるはずの「⑥ひびわれ」や「⑫うき」の状態を重要視しています。
コンクリート部材が凍害を受けて剥離していたり、施工不良で豆板があったりした場合、「⑦剝離・鉄筋露出」で記録するだけでしょうか?
剥離している範囲と一緒に「うき」や「ひびわれ」はありませんか?
凍害を受けたコンクリートであれば、剥離部やその周辺の範囲には、ひびわれやうきが著しく発生していることがよくあります。
しかし、
剥離範囲を「⑦剝離・鉄筋露出」だけで記録していることよくあります。
健全度評価を行っている時にわたしが気を付けていたのは、記録されている⑦剝離・鉄筋露出だけではありません。
健全度評価するときは現時点の健全度も大切ですが、次回点検まで進行性を踏まえた未来の健全度を予想することが大切です。
この場合に注意しなければならない点検の記録方法は2つあります。
1.客観性の確保
2.脆弱部の除去
★注意その1:客観性の確保
コンクリートの凍害が進むと、表面だけにとどまらず内部にまでひびわれが入っていきます。
すると、打音すれば「⑫うき」が記録できるはずですよね?
また、「⑥ひびわれ」も同様です。
表面上から見えない内部の水平ひびわれ等については、目視が基本の定期点検では見つけることはできないかもしれません。
しかし、
表面に見えている「⑥ひびわれ」や打音すれば確認できる「⑫うき」については、「⑦剝離・鉄筋露出」と同様に記録しなければなりません。
★注意その2:脆弱部の除去
剥離した範囲を打音し、濁音が確認できれば「⑫うき」を記録します。
そして、
その濁音範囲はコンクリートの除去が可能であればそれを除去し、どの程度の深さまで損傷が生じているのか点検で確認することが必要です。
あるいは、
濁音があり除去を試みたものの、点検時に除去できないほどのうきであれば、その情報を点検調書に記録し、評価者(診断員)に伝達することが重要です。
特に、第三者被害予防措置を講ずる必要がある範囲での損傷は、「⑫うきe」と記録されただけでは、健全度を評価するうえで情報不足となってしまいます。
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。
わたしはこの解決策が、
信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。