橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
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目次
【㉔土砂詰まりとは?】
土砂詰まり・・・と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?
読んで名の如し、
”土砂が詰まっている状態” であることは間違いないですよね。
「詰まっている」の意味を調べると、
=隙間がなく、いっぱいになっていること
ですから、
橋梁で土砂が詰まりそうな排水管や排水桝での損傷を示していそうです。
それだけであれば、特段難しいことはありません。
しかし、
橋梁点検でいうところの「㉔土砂詰まり」とは、排水管や排水桝に限った話ではないので注意が必要です。
後述していきますが簡単に言うと、
土砂の詰まりだけではなく、土砂の堆積でも「㉔土砂詰まり」の点検対象
となるのです。
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【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこでここからは、
(僭越ながら)わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
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<点検要領の付録-1>
【一般的性状・損傷の特徴】
㉔土砂詰まりについては、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
点検対象となる損傷状態が3つ示されています。
・排水桝や排水管の土砂詰まり
・支承周辺の土砂堆積
・舗装路肩の土砂堆積
前述した通り、
土砂の詰まりだけではなく、土砂の堆積も「㉔土砂詰まり」の点検対象
となっていることがわかります。
ちなみに、
この舗装路肩の土砂堆積については、以下の通り平成26年度の要領改訂から追加されました。
そのため、
改訂されたことを知らないと ”舗装の土砂堆積が記録に残っていない(残していない)” 等ということもありますので注意してくださいね。
■平成16年度点検要領(案) 【一般的性状・損傷の特徴】 排水桝や排水管に土砂が詰まっていたり,支承周辺に土砂が堆積している状態をいう。
■平成26年度点検要領 ※H31要領も同じ 【一般的性状・損傷の特徴】 排水桝や排水管に土砂が詰まっていたり,支承周辺に土砂が堆積している状態,また,舗装路肩に土砂が堆積している状態をいう。
【その他の留意点】
土砂詰まりを点検する際の留意点として、下図の赤枠が示されています。
橋梁点検で記録される「㉔土砂詰まり」のほとんどが、排水桝と支承部周辺での土砂詰まり(堆積)です。
中でも、
この「支承部周辺での土砂堆積」は、排水桝よりも留意する必要があるのです。
なぜなら、
土砂が堆積していると支承部の点検ができないから
です。
5年に1度しか実施しない橋梁点検で、点検ができないなんてもったいないことですよね。
排水桝については、
年間維持業者の方が詰まりを見つけては清掃をおこなってくれているので点検時にそれほど問題となることはありません。
しかも、
排水桝が点検時に多少つまっていたとしても、支承部の土砂堆積と比べると橋梁構造上の影響は少ないと言えます。
しかし…支承部についてはそうはいきません。
橋梁構造として支承部は、上部(桁)と下部(橋脚など)をつなぐとても重要な部材なので、支承部の損傷は橋全体の健全度評価にも影響します。
ここが点検できないのは、定期点検をする意味がないといっても過言ではありません。
そのため点検要領では、
可能な限り取り除いたうえで点検してほしいと要望
しているのでしょう。
気持ちはわかります。
ただ、
”定期点検で取り除くことが望ましい” と言いますが・・・
この支承部で堆積している土砂というのは、だいたい湿っていたり、量が多かったりして、定期点検の時間と費用のなかで取り除ける状態ではないことがほとんどです。
これにかかる時間と労力は相当なもので、ほかに重要な損傷を点検している時間よりも遥かに多い場合があるのです。
もし、
定期点検中に橋梁点検員が取り除くことが不適切と判断される場合は、橋梁診断員が対策区分をM判定やC1判定にしたりします。
堆積量が多い場合の「部材毎の健全度」の一例を挙げます。
M判定 → 健全度Ⅱ
C1判定 → 健全度Ⅱ
堆積量が少なく、それに起因するほか部材への影響がなければ仮に堆積していても、健全度Ⅰでも問題ありません。
土砂の清掃ですむ損傷が、定期点検で残ってしまっただけで、健全度Ⅱと評価されるのは不本意と感じる道路管理者の方が多いのではないでしょうか?
しかし、
湿っている土砂が支承部に堆積しつづける影響を踏まえると、土砂詰まりも立派な損傷です。
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<点検要領の付録-2>
【損傷程度の評価と記録】
㉔土砂詰まりが、<なければ> → “a” です。
㉔土砂詰まりが、<あれば> → “e” です。
㉓変形・欠損のように、“c”はなく、<ある or ない> なので明確ですね。
ただ、
注意点が2つあります。
◆注意その1:㉔土砂詰まりeの基準
土砂というのは日常的に溜まっては流れを繰り返すものです。
排水桝や路面に土砂はつきものですから、一体どこからが ”詰まっている” あるいは ”堆積している” と言えるのでしょうか?
考え出したら悩んでしまいそうですね。
そこで以下の2つの視点で点検してみてはいかがでしょうか?
・構造体や第三者に影響を及ぼす土砂詰まりであること。
・一時的な現象ではないこと。
◆注意その2:橋座面の土砂堆積
支承部の土砂堆積は、支承の近くだとわかります。
しかし、
支承の近くとは言い難い、すこし離れた場所に堆積している土砂の堆積は対象となるのでしょうか?
橋座面にある土砂の堆積って点検要領で記載されている支承周辺ではありませんよね?
点検要領にならえば、
支承周囲は「㉔土砂詰まり」で記録するべきなので、支承から離れた土砂についてはこれ以外ということになります。
では、
26個の損傷種類のうち、どれが適切なのか?と考えてみると・・・
⑰その他(土砂堆積)で記録
するのが適切だと思います。
損傷のすべてを26個の損傷種類で網羅しているわけではないので、こんなときに⑰その他が最適だと思います。
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【土砂詰まりの事例】
◆ 事例その1: 排水桝(排水管)
㉔土砂詰まりといったらこれが代表的ですよね。
すこしくらいの土砂流入では土砂詰まりはおきませんが、大雨になると一気に大量の雨水と土砂が排水桝に集まってくるので、一時的に土砂詰まりとなることはよくあります。
自然に詰まりが解消されたり、年間維持業者さんが清掃してくれたりするので、本来であればこの㉔土砂詰まりは一時的な損傷なんです。
しかし・・・
路面から見える土砂以上に実は、排水桝に接続された排水管の影響についてはどうでしょうか?
縦引き排水管であれば、土砂がたまりにくいのですが、横引き排水管が接続されているときは特に注意してください。
内部で土砂がたまりやすいんです。
設計基準通りだとしても、それはあくまで土砂の清掃や排水量を踏まえてのこと。
もし、土砂の清掃が桝の範囲だけだったら?
もし、排水管の中で、錆や落ち葉、小石がたまっていたら?
こんなことが影響していることもあるかもしれません。
例えば
・排水管の延長が長い
・曲がりがキツイ
・支持ブラケットが変形している
なんてことがあると、それはすでに土砂詰まりが管内で発生しているかもしれません。
こんな横引きの排水管があったら注意してみてくださいね。
排水管を点検ハンマーで叩いてみると、濁音が聞こえるかもしれません!
◆ 事例その2: 排水管
土砂が溜まりにくいはずの縦引き排水管でも、土砂がたまることがあります。
例えば、
・流末の高さが不足している
・急激な土砂の流入があった
・排水直下に溜まった土砂が流末で蓋のようになってしまっている
下図のように、
たまった土砂を除去せずに放置しておくと、湿潤状態の継続による内部の腐食進行や凍結膨張による排水管の破断を誘発してしまうので、縦引きだからといって安心できません。
積雪寒冷地域では、水が凍って同じような現象になることがあるので注意が必要です。
◆ 事例その3: 舗装路肩
舗装に土砂が堆積すると、どんな影響があるのか?
1つ目
植生による利用者の安全低下です。
土砂が堆積すると植物が育つための環境が整ってしまうため、生い茂った植物が歩行者や自転車の通行障害を誘発してしまいます。
2つ目
滞水による利用者の安全性低下です。
排水溝を設けている場合、路面の滞水を誘発してしまい、自動車のスリップや歩行者への水撥ね被害による安全性の低下を誘発してしまいます。
3つ目
構造物の耐久性低下です。
前述の水撥ねにより、壁高欄等には水がたくさんかかるようになります。凍結防止剤をまいている地域なら最悪です。
塩分が壁高欄にたくさん浸透してしまい、内部鉄筋が腐食したり、コンクリートがういてきたりします。
◆ 事例その4: 伸縮装置
伸縮装置には、伸縮装置上の水処理に応じて「排水型」と「非排水型」の2種類があります。
排水型伸縮装置の場合は、路面の水や土砂が伸縮装置を通過して下の方にむかって一緒に排水されます。
そして、
その水と土砂は樋で受けられたあと、排水管を通って流れていくようになっています。
その過程で土砂の量が多かったり、流れにくかったり、樋に腐食物や鳥の巣などがあったりすると、樋で排水できずにどんどん土砂が溜まっていくのです。
橋梁が大きくなれば、おのずと伸縮装置の大型化とともに伸縮量も大きくなります。
排水樋も大型なのですが、土砂を支えきれず変形してしまうこともあり。
また、
樋に溜まった土砂については、変形だけならまだいいのですが、破断したり、落下したりすることも。
排水不良による周辺部位の損傷を誘発する前にこまめな清掃が大切です。
◆ 事例その5: 支承ローラーカバー
ローラー沓の特徴は、上沓と下沓の間にあるローラーが移動や回転、支持を担っているところ。
このローラーが錆びたり、土砂がつまったりすると、支承の機能が低下してしまいます。
そのため、
ローラー沓には防塵防止としてのカバーが設置されています。
ただこのカバーは万能ではありません。
どうしても土砂や埃は溜まっていってしまうのです。
そのため、
橋梁点検ではカバー内部をライトで照らして錆や土砂が混入していないかどうか確認することが大切です。
そして、
きちんと移動しているか、異常な音等がないか、点検で確認することが重要です。
ちなみに、
補修後の現場にいくと、カバーだけは新品でピカピカだけど、内部のローラーはサビサビなんてことがります。
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【侮れない土砂詰まり】
前述したように大量に堆積した「㉔土砂詰まり」を定期点検中に取り除くことは不可能に近い場合がよくあります。
点検業務の契約範囲を超えていることが多々あるのですが、土砂の影響で支承部が点検できない・・・健全度Ⅱになってしまう・・・等の懸念から、点検業務発注時に特記仕様書等に土砂の撤去が記載されていることもあります。
ここで重要なことは、
点検業務での土砂の撤去には、限界がある
ということです。
その理由を2つ挙げます。
ひとつは、
”土砂は撤去できたとしても、その原因となっている流入経路は残っている”
ということです。
例えば、
「排水型伸縮装置」を「非排水型伸縮装置」に構造変更しない限り、いつまでも水や土砂は流入します。
もうひとつは、
”点検業務で土砂を撤去しても、診断業務で健全度Ⅱとする可能性がある”
ということです。
点検業務で行うのは、点検を行うための土砂の撤去であり、清掃ではありません。
そのため、
橋梁診断を行う場合、支承部に残った土砂が支承機能の低下および橋梁構造の安全性に影響を及ぼすと判断されれば健全度Ⅱとすることもあり得るのです。
こんなことを考えると、
「㉔土砂詰まり」も侮ってはいけない損傷であると再認識してしまいますね。
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。
わたしはこの解決策が、
信頼ある仲間とのコミュニティによる個人スキルの向上だと信じています。