橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
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目次
【③ゆるみ・脱落とは?】
橋の組み立てには、量・種類ともにたくさんのボルトが使われています。
代表的なボルトの種類としては、
・高力トルシアボルト
・高力六角ボルト
・リベット
・普通ボルト
などがあります。
特に高力ボルトはたくさんの種類があり専門的な知識がなければどれも同じにしか見えません。
さらに、
見た目以外にも大事なことがあります。
例えば、
・締め付ける力の大きさ
・締め付ける方法
・締め付けに必要な専用工具
・締め付ける際の管理方法
・ナットや座金の使用個数
・防食仕様
などがあります。
ボルトにはこれらのたくさんの種類がありますが、
ゆるんだり脱落しないように、設計や施工では “適切なボルトの選定”と”確実な締め付け” が重要になります。
しかし・・・
“適切なボルトの選定”と”確実な締め付け”を行っているはずなのですが、橋梁点検では残念ながら、ゆるみや脱落に遭遇します。
ゆるまないメカニズムを有している特殊なボルトも一部ありますが、経年劣化や施工不良等の要因によって、ボルトがゆるんだり、落下したりすることがよくあるのです・・・
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【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこで以下からは、
わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
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<点検要領の付録-1>
■【一般的性状・損傷の特徴】
③ゆるみ・脱落について、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
上図には、
どんな状態の時に「③ゆるみ・脱落」で記録するのか?が記載されているわけですが、
そもそも
「ボルト」のどこがゆるんだり、脱落したりするのでしょうか?
「ボルト」と一口に言っても以下の3つの部品で構成されており、以下のの3つの部品の損傷が対象となります。
・ボルト(軸部)
・ナット
・座金(ワッシャー)
そして、
点検要領では以下の3つの損傷状態が対象となります。
・ゆるみ
・脱落
・折損(せっそん)
ついつい緩んで落ちるだけかと思われがちですが、F11Tなどの遅れ破壊や除雪車の接触によって、折れた(ように)状態になり、その時も「③ゆるみ・脱落」として記録する必要があるのです。
■【他の損傷との関係】
中点が2つありますので順番に解説します。
まず中点1点目
”支承ローラーの脱落は、「支承の機能障害」として扱う“
ローラーが脱落している場合は、「③ゆるみ・脱落」ではありません。
脱落なので対象かな?と迷っていまいそうですが、ローラーはボルトではないので対象外となります。
ローラーが脱落している場合は「16支承部の機能障害」で記録する必要があります。
次に中点2点目です
橋梁で使用されている部材としては主桁や高欄などがすぐ思いつくと思いますが、ここに記載されているように「支承」や「伸縮装置」にもボルトが使用されます。
ここには記載されていませんが、「排水装置」もあります。
これらの部材も「③ゆるみ・脱落」の対象です。
ここで注意しなければならないのは、
”前者の損傷が生じている場合は「16支承部の機能障害」としても扱う“
です。
前者とは ”支承アンカーボルト” を示しています。
それであれば支承アンカーボルトがゆるんだり、脱落していれば無条件に「16支承部の機能障害」と記録するのでしょうか?
違いますよね?
「16支承部の機能障害」とはどんな損傷状態だったでしょう?
判断基準は、
その支承アンカーボルトの損傷が「16支承部の機能障害」と言えるかどうか?
つまり、
支承部の機能の一部、あるいはすべての機能が損なわれている状態であるか?
なのです。
支承部の機能障害としての記録が適切と判断できれば、「③ゆるみ・脱落」に加え「16支承部の機能障害」でも記録しましょう
ということなのです。
1mmでもナットがゆるんでいれば、支承機能が損なわれていると言えますか?
ゆるんだナットの上から塗替え塗装を行い、塗膜でナットが固着していたらナットはそれ以上ゆるみますか?
どの程度で「16支承部の機能障害」として扱うかは技術者で見解が違います。
点検会社や発注者側の担当者が代わるたびに判断基準がぶれないように、管轄地域における判断基準を決めておく必要があります。
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<点検要領の付録-2>
■【損傷程度の評価と記録】
上図のように、損傷しているボルト本数の数で損傷程度の評価区分が変わります。
・区分c → 数が少ない(一群あたり本数の5%未満)
・区分e → 数が多い (一群あたり本数の5%以上)
一群当たりの損傷本数を5%を閾値として評価するのですから、わかりやすい評価基準です。
ただし、
これが結構間違えやすいところでもあります。
それは、
”一群“
です。
一群を右図のように考えていませんでしたか?
一群とは添接板全体ではないのです。
応力伝達の観点から ”2面摩擦” なのか ”1面摩擦” なのかを加味して一群とします。
主桁は2枚の添接板で挟んでいるので一群といえば添接板の半分で問題ありませんが、横構は一面摩擦がほとんどなので注意してくださいね。
さいごに、
要領の注記にもあるように、格点等のように一群のボルト本数が20本未満で少ない箇所については、1本でも該当すれば
・区分e → 1本でも該当すれば数が多いとする
として評価します。
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【点検や補修は意外と難しい】
ボルトのゆるみや脱落は、当時の設計基準や施工時には想定できなかった原因から発生することもあり、奥が深い損傷と言えます。
例えば、
F11Tの遅れ破壊や異種金属腐食があります。
遅れ破壊については未だにはっきりとした原因が解明されていません。
一方、異種金属腐食の現象自体は化学的には常識でありながらも業界では認知度が低く、構造物に疑いもなく使用されていた過去があります。
メンテナンスに限った話ではありませんが、失敗(損傷)から学ぶことがたくさんあります。
ゆるみ1つとってもたくさんの隠れた要因があります。
「③ゆるみ・脱落」で記録するだけではなく、さらにその先の原因を究明することが大切だと思います。
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」
などの疑問や悩み、これらの解決策に関する情報は業界の盛り上がりをよそに公開されていないのが実情です。