橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
※橋梁点検人材育成プロジェクト【Linxxx(リンクス)】を運営(非営利)しています。 ご質問・ご依頼につきましては、こちらからどうぞ(´-`) Linxxx – 橋梁メンテナンス人材育成プロジェクト│Linxxx(リンクス)
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目次
【⑥ひびわれとは?】
コンクリートによく知られる特徴として、
圧縮には強いが、引っ張りには弱い
があります。
あんな丈夫そうに見えるコンクリートですが、引っ張り方向の力が加わると、簡単に ”ひびわれ” が入ってしまいます。
ほんとささいなミスや環境の変化等の影響を受けやすい材料なのです。
施工中の温度変化、支保工不備、施工後の車両等の荷重、地震、材料、飛来塩分などの外的要因など、損傷は多種多様な影響で発生します。
ひびわれの性状も多種多様です。
規則性のあるひびわれもあれば、規則性のないひびわれ。
幅についても、遠望からでもわかるようなハッキリとした大きなひびわれもあれば、目を凝らしてもわからないような小さいひびわれもあります。
さらに、
ひびわれが発生する位置や幅、方向、深さ、長さといった性状も多種多様
橋梁点検では、これらのひびわれを漏れなく記録する必要があるわけです。
この多種多様に応じた記録がけっこう面倒なんです。
今回のブログはこの多種多様なひびわれについての要領解釈と記録時の注意点について書いていきます!
★わたしが参考にしている資料 国土技術政策総合研究所の「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」 この写真や備考欄に記載されているメモが点検で役に立ちます。
出典 国土技術政策総合研究所「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」
(1) NILIM. https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748.htm
国総研資料 第 748 号 (nilim.go.jp)
(2) 付録-1 損傷評価基準および損傷写真集 https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748pdf/ks074809.pdf
国土技術政策総合研究所研究資料 (nilim.go.jp)
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【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領で「付録-1」と「付録ー2」の2つの付録で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこで以下からは、
わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
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<点検要領の付録-1>
■【一般的性状・損傷の特徴】
⑥ひびわれについて、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
改めまして、
”ひびわれ” とはなんでしょうか?
私たちは
コンクリート表面にひび(き裂)が入って割れた状態のことを
<ひびわれ>と呼んでいますよね。
ほかにも<クラック>なんて呼び方もありますが、国の橋梁点検を行うときは<ひびわれ>で統一しましょう。
さらに、すべてひらがな表記です。
漢字は含みませんので、”ひび割れ” と書かないようにしましょうね。
■【他の損傷との関係】
「⑥ひびわれ」で注意しなければならないことの1つに、<他の損傷との区別>があります。
その注意点について、この【他の損傷との関係】で3つ取り上げています。
★中点1つ目(ひびわれと同じ位置にある損傷)
ひびわれが発生している位置には、コンクリートの剥離や鉄筋の露出なども同じ位置に発生していることがあるのでそれらについても記録してください、ということですね。
★中点2つ目(⑥と⑪の使い分け)
床版下面に生じたひびわれは、同じひびわれという現象でも「⑥ひびわれ」ではなく、「⑪床版ひびわれ」で記録します。
発生する部材によって、使い分けをしなくてはなりません。
ただ、
1つ間違えやすい事象があります。下図です。
赤線部のひびわれを、あなたならどう記録しますか?
赤線部は同じ床版に見える部材ですが、<主桁>と<床版>に部材が分かれていますよね?
この場合、
・主桁 → ⑥ひびわれ
・床版 → ⑪床版ひびわれ
こんなふうに記録したくなるのが心情です。
しかし・・・
点検要領では
・主桁 → ⑪床版ひびわれ
・床版 → ⑪床版ひびわれ
<主桁>なのに、⑪床版ひびわれ??
部材が<主桁>でも、
ひびわれの特性が床版と同等であれば”⑪床版ひびわれ”で記録しなければならない
のです。
上図の赤線部にひびわれが発生している場合、点検要領では「⑪床版ひびわれ」で記録すると記載されています。
部材が主桁だからという理由で、「⑥ひびわれ」ではないのです。
ちなみに、
この根拠を示す内容が「⑪床版ひびわれ」の章に記載されています。
【一般的性状・損傷の特徴】 (中略)・・・コンクリート橋のT桁橋のウェブ間(間詰め部を含む。),箱桁橋の箱桁内上面,中空床版橋及び箱桁橋の張り出し部のひびわれも対象である。
★中点3つ目(PC定着部でのひびわれ)
中点の最後ですが、これもややこしい部分です。
PC定着部の箱抜きモルタルとその周囲の損傷との関連性について記載されています。
・PC定着部のひびわれは、PC定着部のひびわれとして記録。
・その周りの主桁のひびわれは、主桁のひびわれとして記録。
PC定着部でも主桁等の「⑥ひびわれ」として記録していることがよくあります。
これでは、PC定着部に発生したひびわれと、主桁等に発生したひびわれの区別がつきません。
点検要領では発生した部位に着目して、ひびわれを整理することになっています。
下図を見るとわかりやすいと思います。
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<点検要領の付録-2>
■【損傷程度の評価と記録】
★幅と間隔の組合せ
上図の示す通り損傷程度の区分は
幅と間隔を組み合わせて評価
します。
例えば、
1.最大ひびわれがRC構造物で0.5mmあったので幅は「大」と評価とします。
↓
2.最小ひびわれの間隔が概ね0.5m以上あったので、「小」と評価します。
↓
3.これを上図に当てはめると、「大・小」→ 損傷の区分は「d」となります。
評価するときの注意点としては、以下2つです。
・同じ幅のひびわれが入っていても、最小ひびわれの間隔によって、区分が変わる
・RC構造物とPC構造物では、PC構造物のほうが閾値が上がる
補足ですが、
RC構造とカルテに記載されていても、たまにPC構造だった・・・なんてこともあるので点検前に事前にカルテや図面を確認することも大切です。
★損傷パターンの区分
上図のように、損傷パターンの区分を行う必要があります。
上部構造、下部構造にそれぞれにパターン番号が示されているので、表に照らし合せて記録する必要があります。
複数選択可なので、該当するパターンは全て記録します。
似たようなパターンがありますし、点検をしているとこれはどっちだ?なんて迷うこともあると思います。
そのときは、迷わず ”どちらも” 記録しておきましょう。
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【点検目的の逸脱に注意】
いままでは何本も何本も、手書きでスケッチしてきました。
橋梁点検の苦渋作業の1つだったのではないでしょうか?
しかし、
これからは画像処理による自動記録が進んでくると思います。
カメラの解像度や画像処理技術が進み、いままで記録できなかった小さなひびわれも簡単に記録できてしまうでしょう。
人手不足、技術不足を補う技術として私もかなり期待しています。
ただ、
この手のニュースをみていつも懸念していることがあります。
それは、
点検の目的が大量かつ正確なひびわれを記録することになってしまう・・・
とことです。
本来の目的は、構造物の健全に管理するための記録だからです。
きれいな報告書はいくらでつくれますが、内容がなかったら橋がかわいそうですよね?
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橋梁メンテナンス業界は現在、危機的な人材不足、育成不足の問題に直面しています。
これらの問題に業界も力を入れてはいるものの、大局的な施策が多く、個人を育成するような施策には至っておりません。
「こんな損傷があったらどうすれば?」
「ほかではどう対応しているの?」
「この意味をもう少し知りたい」