橋梁点検人材育成プロジェクト運営人の 神宮 皐(かみや さつき)です。
このプロジェクトでは、橋梁点検や橋梁診断に特化した ”あなた個人” がもつ疑問の解決や相談できるコミュニティの構築に取り組んでいます。
プロジェクトの一環として、わたしの橋梁点検スキルをブログで公開しています。
あなたのスキル向上に役立てられたら幸いです。
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目次
【⑧漏水・遊離石灰とは?】
橋梁にはたくさんのコンクリートが使われています。
橋台・橋脚・床版・防護柵・落橋防止装置等、様々な部材にコンクリートが使われており、コンクリート橋、鋼橋を問わずなくてはならない材料です。
コンクリートの寿命を延ばすことが、橋梁の寿命を延ばすと言ってもいいでしょう。
では、
コンクリートの寿命を延ばすにはどうしたらいいのか?
橋梁が完成する前であれば、凍害に強い材料を使ったり、ひびわれが生じにくいように鉄筋を増やしたりという設計等もできるでしょう。
しかし、
橋梁点検は橋梁が完成した後に行います。
コンクリートの寿命を延ばすために、私たちはどのように橋梁点検を行えばいいのでしょうか?
その1つに、
”漏水(遊離石灰)の状態確認”
を適切に行うことが挙げられます。
なぜなら、
コンクリートは優れた材料ですが、コンクリートに水が浸透すると耐久性が著しく低下してしまう・・・という特性があるからです。
・漏水だけなのか?
・遊離石灰は湿潤しているのか?
・ツララ状の遊離石灰は前回点検と変化しているか?
・雨天時においてツララの先端に水滴はないか?
上記のような漏水の規模や進行有無を点検時にしっかりと橋梁点検で確認し、コンクリートの長寿命化に役立てていくが重要になります。
しかし!
橋梁は屋外にあるため、雨が降れば濡れてしまいます。
雨で濡れたコンクリート部材は、損傷として記録しなければならないのでしょうか?
今回のブログでは、「⑧漏水・遊離石灰」で記録するときに注意しなければならないポイントを含めてご紹介します。
★わたしが参考にしている資料 国土技術政策総合研究所の「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」 この写真や備考欄に記載されているメモが点検で役に立ちます。
出典 国土技術政策総合研究所「道路橋の定期点検に関する参考資料(2013年版)」
(1) NILIM. https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748.htm 国総研資料 第 748 号 (nilim.go.jp) (2) 付録-1 損傷評価基準および損傷写真集 https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0748pdf/ks074809.pdf 国土技術政策総合研究所研究資料 (nilim.go.jp)
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【点検要領の解説(解釈)】
さて、
26種類もある損傷種類の解説については、点検要領の「付録-1」と「付録ー2」で解説されています。
ただ、
この解説はところどころ抽象的な解説でとどまっています。
それも理由があるのですが、
この抽象的な解説により読み手の解釈によって誤解が生じてしまうことがあるのです。
そこでここからは、
(僭越ながら)わたしの ”解釈” と ”その根拠” を公開します。
少しでもあなたの疑問の解決となれば幸いです。
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<点検要領の付録-1>
■【一般的性状・損傷の特徴】
「⑧漏水・遊離石灰」について、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。
「⑧漏水・遊離石灰」とは
コンクリートの打継目やひびわれ部等から、水や石灰分の滲出や漏出が生じている状態
を言います。
もっとも一般的な損傷状態と言えば、
下図のようなコンクリートに生じたひびわれに沿って、白い石灰分が析出している状態ですね。
白く析出した遊離石灰を記録するだけであれば、それほど難しいことはありません。
上図の写真はわかりやすいです。
しかし、
わかりやすいと思いきや、意外にややこしいところがあるのです。
改めて先ほどの記載文を確認してみましょう。
コンクリートの打継目やひびわれ部等から、水や石灰分の滲出や漏出が生じている状態
これを整理すると・・・
1.水や石灰分はコンクリート内部を通っていること
2.ひびわれだけではなく、打継目等も対象であること
3.水や石灰分は滲出(にじみ出ている)や漏出(漏れ出ている)であること
単純に白い石灰分が主桁や橋脚に確認できれば、「⑧漏水・遊離石灰」で記録するという訳にはいかないようです。
これらの関係性が次章に記載されていますので、さらに整理してみましょう。
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■【他の損傷との関係】
次に、この「⑧漏水・遊離石灰」の損傷種類で記録する際の注意点を2つ解説します。
1.★遊離石灰との区別
2.★漏水・遊離石灰の発生位置
★遊離石灰との区別
上図の赤枠部分には、以下の2つの情報が記載されています。
水に関係する損傷種類は以下の3つがあるのですが、区別の方法がわかりにくく、よく間違えて記録してしまうのです。
「⑧漏水・遊離石灰」
「⑰その他」
「⑳漏水・滞水」
これらの3つの区別方法について以下に記載します。
<区別その1:⑰その他>
”排水不良などでコンクリート部材の表面を伝う水によって発生している析出物は、遊離石灰とは区別して「⑰その他」として扱う。”
「⑧漏水・遊離石灰」の区別の仕方が上記に記載されています。
コンクリート表面に伝う水によって発生している析出物は「⑰その他」として記録するとあります。
遊離石灰のような白い析出物があったとしても、表面を伝う水によって溶けだした石灰分や漏水痕等であれば「⑧漏水・遊離石灰」ではなく、「⑰その他」として記録します。
水がコンクリートの内部を通っているのか?表面なのか?
がポイントです。
<区別その2:⑳漏水・滞水>
”外部から供給されそのままコンクリート部材の表面が流れている水については、「⑳漏水・滞水」として扱う”
外部から供給され・・・とありますが、どんな水の状態を指しているのでしょうか?
具体的には、
・近接した上下線の張り出し床版の境界部
・盛土側面からの橋座面に流入した雨水による湿潤や滞水
・上記の滞水痕
が挙げられます。
降雨は対象外です。
外部からの供給であれば降雨も外部では?となりそうですが、そもそも橋梁は屋外での使用が前提です。
雨がかかりやすい部位については橋梁点検において有益な情報ではありますが、設計時に想定されている範囲であれば問題ありません。
水が橋梁にかかっても自然に流れたり、乾燥する水分であれば点検時に記録する必要はありません。
ただし、
屋外利用を想定した劣化の進行性と比べ早い場合や、特徴的な水がかりの状態である場合は、橋梁点検の対象となる場合もあります。
とはいえ、
損傷種類として記録が難しい場合がほとんどですので、その場合は記録様式の”メモ欄”を活用しましょう。
いままでの説明を整理すると下図のような状態となります。
いかがでしょうか?
ポイントは、
水が『どこを通っているか』、『どこから供給されているか』
これを踏まえて3種類(⑧、⑰、⑳)に区別する必要があります。
★漏水・遊離石灰の発生位置
次に、
漏水や遊離石灰の発生位置で、どの部材で記録しようか迷ったことはありませんか?
中空ホロー桁によくある主桁と地覆の境界から析出している遊離石灰、プレテンI桁橋のような間詰床版から析出している遊離石灰・・・
近接している場合、どっちで記録していいのか迷ってしまいますよね?
この件については、迷われる方が多くよくお問合せいただきます。
さて対応方法ですが、
これについては決まりがありませんので、わたしが管轄していた業務での対応事例を根拠と併せて記載します。
<事例その1:主桁と地覆の境界 →地覆>
・中空ホロー桁の主桁と地覆の境界から析出している遊離石灰 → 地覆⑧漏水・遊離石灰
なぜ地覆で記録するのかというと、理由は2つ。
1.析出している石灰分は地覆の可能性が高い。
プレキャスト製品である主桁より、現場打ちの地覆から溶け出している可能性が高い。なお、調整コンクリートも十分考えられるが石灰分が付着していない部材に対しては記録しにくい。
2.健全性への影響を考慮
健全性の評価方法は、主要な部材の判定で代表することになっています。つまり、主桁と地覆では同じ損傷でも、主要な部材である主桁の判定がそのまま橋の健全度に影響します。石灰分が溶け出している部材を見極めて適切に健全度を評価できるようにする必要があります。
<事例その2:プレテンI桁橋の間詰床版 →床版>
・ プレテンI桁橋の間詰床版 → 床版⑧漏水・遊離石灰
主桁で記録しても床版で記録しても同じ主要部材ですから、健全度に与える影響はありません。
また、間詰床版には主桁を横締めするPC鋼材が挿入されていますので、主桁で記録するという考えもあるでしょう。
これは管轄地域のローカルルールで運用してもいいと思います。
ただ、
私の管轄業務でなぜ床版で記録するのかというと、理由は2つ。
1.析出している石灰分は床版の可能性が高い。
これについてもプレキャスト製品である主桁より、現場打ちの床版から溶け出している可能性が高いと考えられます。なお、調整コンクリートも十分考えられるが石灰分が付着していない部材に対しては記録しにくいですよね。
2.措置が床版防水だから
漏水に対する措置としては、一般的には床版防水層の施工です。主桁と床版では、床版に対する防水の意味合い強いため床版のほうがしっくりするのではないでしょうか。
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<点検要領の付録-2>
■【損傷程度の評価と記録】
下図は付録-2に掲載されている損傷区分です。
漏水有無や規模によって ”c~e” の3つに区分します。
・主に漏水のみ → 「c」
・漏水量は少なく、つらら状になる前の状遊離石灰 → 「d」
・d以上の状態(漏水量多い、遊離石灰はつらら状、錆汁等含む) →「e」
漏水量や規模を3つで評価するのですから、少し難しいかもしれません。
上図の内容を確認し、点検現場で迷わないようにきちんと整理しておくことが大切ですね。
漏水だけなのか?
遊離石灰はつらら状か?
錆汁はあるのか?
など。
例えば、
現時点では著しい漏水はないと推定されるつらら状の遊離石灰が確認された場合、”著しい漏水”がないので、「e」ではなく「d」でもいいのかな?
と評価に迷うことがあるかもしれません。
この場合、進行性の有無は関係ないので「e」と記録して問題ありません。
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【正解は1つではない、というものの】
正解は1つではありません。
と言うと、明言を避けているようで私はあまり好きではありません。
答えを知りたいときには、ハッキリとした見解が知りたいものです。
ただ、
今回の「⑧漏水・遊離石灰」を含め点検要領の解釈をする際は、明言を行えない場合が多くあります。
なぜなら、
私が点検要領を作成したわけではないからです。
そして、
このブログの根拠資料として活用している国総研の資料についても見解が違うことがあり、その場合はブログにも注記しています。
答えは1つではありませんが、その根拠を示しここに訪れる皆さまの力になれれば幸せです。
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わたしはこの解決策が、
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