⑤防食機能の劣化

損傷種類⑤:耐候性鋼材とは?!ー本の無い家は窓の無い部屋のようなもの byハインリヒ・マン

ようこそ、Taurus🐂の橋梁点検ノートへ!!

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ノートの回し読みのようなブログなので、気軽に読んでもらえると嬉しいです!

さぁ!さっそく行きましょ~~~っ!

※ハインリヒ・マン:ドイツの作家、評論家。

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目次

【耐候性鋼材の概要】

以前、奥さんとのドライブで🚗

奥さま:あの橋、全部茶色だね。さびているの?塗装とかしなくていいの?
Taurus:あれで完成。耐候性鋼材っていう特殊な材料で造られているから、塗装しないんだ。
奥さま:耐候性鋼材ってなに?
Taurus:えっと・・・保護性さびが形成されて・・・

よくわかりませんよね?こんなこと言われても 。


耐候性鋼材とは何か?を知るためにネットで検索すると、たくさんヒットします。
「耐候性鋼は、適量のCu、Cr、Niなどの合金元素を含有し、大気中での適度な乾湿の繰り返しにより表面に緻密なさびを形成する鋼材です。緻密なさびが鋼材表面を保護しさびの進展が時間の経過とともに次第に抑制されていきます。」
※一般社団法人日本鉄鋼連盟HPより

技術士の取得のために覚えるなら、上記のような回答がいいのですが、簡単に、わかりやすく、となるとなかなか難しい材料ですよね?

簡単な説明を試みてみます。

「鉄はさびてくると薄くなったり、穴があいたりする。
 耐候性鋼材という鉄は錆びても表面だけで、それ以上さびることがない。
 表面にできる錆は特別に硬くて、錆の層が塗装のような膜のような働きをする。」

どうでしょう?????
少しは伝わりやすい言葉に置き換えられたでしょうか?
難しいですね。やっぱり💧

土木業界にいる私たちでさえ、理解しにくい材料であり、
橋梁点検ではさらにその評価に苦労する材料である耐候性鋼材。
では、
今回もまずは点検要領に記載されている内容についてどう解釈するのか考えていきたいと思います。
赤線の部分が耐候性鋼材について記載された部分です。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


いろいろ記載されていますので、上から順番に。―――――――――――――――――――――――――――――――

<保護性さびが形成されていない状態>

「分類3においては,保護性錆が形成されていない状態をいう。」

保護性さびが形成されていないとはどのような状態かというと、それは点検要領の付録-2損傷程度の評価要領P17記載の下図をみるとわかります。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課

◆1つ目
b~eまでを「保護性さび」が形成されていない状態とする、です。
錆の大きさが1mm以上になったり、層状剥離がなったりしたら保護性さびが形成されていない状態として評価しければならないということですね。

◆2つ目
さきほどの説明で b~eまでを「保護性さび」が形成されていない状態とする とお伝えしたばかりですが、H31要領に新たに追加された、損傷程度bは注意が必要です。
bの場合は保護性さびは形成されていないものの、損傷でもありません。
<損傷なし>と記載があります。
注意してくださいね。

これは、図の注)にも記載されているように、錆の大きさが1mmにもいたっていないものの、表面処理剤(光沢がない塗装で塗料メーカーの材料多数)が塗布されていて、保護性さびがつくられているのか判断できない場合に適用します。

あとは、表面処理剤が塗装されていない場合でもあり得ます。
例えば、油脂等が製作・施工時、飛来塩分等が付着した場合が挙げられます。こういう場合、1mm以上の錆にはいたっていないものの、保護性さびが形成されず、時間が経過してもずっと赤さび色や工場出荷時状態等のままの鋼材表面をしています。
ほかにもありますが、とりあえず一例です。

◆3つ目
上図も記載されていますが、裸仕様の耐候性鋼材において、保護性さびの状態を色では判断できません。基本的には錆の大きさと層状剥離で5段階評価しましょう。

<腐食と防食機能の劣化の境目>

耐候性鋼材においては,板厚減少を伴う異常錆が生じた場合に「腐食」として扱い,粗い錆やウロコ状の錆が生じた場合は「防食機能の劣化」として扱う。」
「耐候性鋼材で保護性錆が生じるまでの期間は,錆の状態が一様でなく異常腐食かどうかの判断が困難な場合があるものの,板厚減少等を伴うと見なせる場合には「腐食」としても扱う。板厚減少の有無の判断が難しい場合には,「腐食」として扱う。」

さきほども出てきましたが、あくまでも錆の大きさと層状剥離で5段階評価します。ただし、層状剥離=①腐食ではありません。あくまでも①腐食は断面減少があるかどうかが評価対象ですので注意してくださいってことが記載されています。

<表面処理剤>

「耐候性鋼材の表面に表面処理剤を塗布している場合,表面処理剤の塗膜の剥離は損傷として扱わない。」

これは上記◆2つ目と同じです。表面処理剤は風化OK(施工要因による劣化は除く)です。
表面処理剤の風化し、消失することには、その塗膜下で耐候性鋼材が育っていることが前提だからです。

<端部塗装>

「耐候性鋼材に塗装している部分は,塗装として扱う。」

ここの範囲は初めから耐候性鋼材としての保護性さびを利用した防食機能を期待しているわけではないので、端部には一般的な塗装がされています。表面処理剤のことではないのでご注意を。

よく、表面処理剤と一般的な塗装との区別が見た目でわからないという質問を受けます。
見分けるポイントとしては、光沢です。表面処理剤は光沢がありません。光沢=つやつやなので触ると少し滑りもすくなくザラザラしています。

あと余談ですが、たまに端部塗装が真っ白や赤茶色があるのでちょっと驚きます。大体は黒系ですので。どうして黒系にするかというと、保護性さびはやがて黒褐色になるので、それを見越した色で塗装するのです。ただ、稀に架設した当初が赤茶だから赤系にすることがあるそうですね。

以上が今回のTaurasによる点検要領の解釈です。

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【耐候性鋼材の思い出

ここからは少し気軽に。

ここで気になる所がありまして。
損傷程度aの2行目で「保護性さびの形成過程では、黄色、赤色、褐色を呈す。」記載されています。

さび色である黄色や赤色等をみて、自信をもって
“保護性さびがつくられている途中なので、損傷なしa“言えるでしょうか?
自身をもってと言われると、ほとんどの橋梁技術者が躊躇してしまうではないかと思います。

『だって、錆びてるんだもん。』

ここが耐候性鋼材を点検する時の難しいところです。
一般的な塗装された鋼材での腐食の評価は、さびの色や大きさ、深さ、範囲を基準(目安)にすると思います。
耐候性鋼材では、さび色で評価できないのが辛いところです。赤さびでも損傷なしと判断しなければならないのですから。

しかし、判断しなくてならないのが橋梁点検。

少し耐候性鋼材についておさらいですが、保護性さびの形成には、乾湿の繰り返しが重要です。
保護性さびの形成条件として
・通気性がよい。
・日当たりもよい。
・水はけもよい。
・雨等で濡れた後はすぐ乾く。
・飛来塩分(潮風、凍結防止剤)の影響のない地域。

このような環境、条件がそろって初めて、保護性さびが形成されます。
なかなか厳しい条件だとは思いませんか?良質物件のような条件ですよね。

一見、黒褐色になっていて、保護性さびが形成されているかのように見える橋梁でも、桁下や桁端部はまったく保護性さびが形成されていない、あるいは破断していたなんてことはよくあることです。
橋梁は大きく、長い構造物ですので、すべての条件が揃わないことも仕方のないことかもしれません。
そのため、点検する時のポイントですが、
よほど黒褐色し、さびの大きさも均一かつ1mmもない耐候性鋼材以外は、
“保護性さびは形成されていないもの”として点検に臨むことが大切だと思います。

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耐候性鋼材にまつわる思い出

新入社員で配属された現場で架けていた橋が耐候性鋼材の橋梁でした。
そこでは主桁接手部のみ表面処理剤を塗装するという現場で、裸仕様と表面処理剤の両方を経験しました。山間部であり、桁下空間も広く、さきほど挙げた良質物件の条件を満足しているような現場です。
それから15年以上が経過した頃、ふと懐かしくなって新入社員に配属された現場に立ち寄ってみました。

架設当時は全体が赤さび色だった橋も、遠くに見えてきた橋はすこし色が黒っぽくなって、時間の経過をしみじみと感じていました。
『あの当時、上司から10年以上経つと、耐候性鋼材の保護性さびがつくられて、黒色になると教えてもらったけど、本当に黒色になるんだな~』なんて思い出しながら、橋に近づいていきました。

ところが、外側は少し黒っぽくなっていましたが、主桁の内側や日陰部分は赤さびのまま。
部分的には赤色ではないものの、錆びの大きさが1mm以上あり、表面を触るとザラザラ。
爪でひっかくと錆がボロボロと落ちて服に粉が降り注ぐ・・・

衝撃的でした。
そのときから、耐候性鋼材の保護性さびについて私は人一倍関心を持つようになりました。

本やカタログで書かれていることは一般論であって、現場との乖離は自分で体験して理解することが大事なんだと。
あの当時、上司から『10年以上経つと、耐候性鋼材の保護性さびがつくられて、黒色になる』と教えてもらった内容は、あくまでも設計思想と理想的な姿についてでした。
耐候性鋼材は塗装にはないカッコよさがあり、塗膜の剥がれも、塗装技量による劣化もなく、すばらしい材料だと思います。
ただ、架橋条件に左右されやすいので、耐候性鋼材が適用できる環境がどうかをより丁寧に検討する必要があります。

良好な保護性さびの形成を外観だけで見分けることはとても難しいと思います。
それを見分けられる技術者は少ないのではないでしょうか?

時間が経過しないとその良さがでないということは、ほとんどの技術者がその良さや性能を体感する前に業界から去っていく、のではないでしょうか?

これまで、耐候性鋼材を見てきた数や状態を経験として身につけ、それを判断材料としているのであれば、それは並大抵の経験ではありません。

保護性さびの形成には長い長い時間が必要ですが、先ほどのわたしの体験談にもあるように、時間と保護性さびの形成は比例しません。
部分的には黒褐色でも10年以上、20年以上かけても理想の姿にならない耐候性鋼材の橋梁がたくさんあります。
というよりも私は立派に保護性さびが橋梁全体に形成された橋梁をみた経験がありません。

いまは外観に頼らないで保護性さびを評価できる装置が開発されてきていますが、技術者であるなら外観でも評価できるべき(その努力を)だと考えます。
それには、とにかく目を養うしかないと思います。
AIや装置はあくまで道具ですからね。目を養った結果は自分の財産です。

目を養う理想・・・

耐候性鋼材が製鋼所で造られたとき(出荷時)。
製作工場に運ばれたとき(納品時、現地発送前)。
そして現地で架設されたとき(供用開始前)。

架設後、どのように保護性さびが形成され、黒褐色への変化していくその様を・・・
あるいは劣化の経過を追跡調査する・・・

たくさんの本から得られる知識とこれらの実体験を相互にきれば理想的だし、素敵なことだと思います。

【ノートのまとめ】

・保護性さびは色で判断できない。
・層状剝離≠腐食 ①腐食の判断はあくまでも断面減少。
・保護性さびの形成は時間と比例しない。

【次回のノート】

次回の損傷種類に関するノートは「⑥ひびわれ」です!
ひびわれも、RC、PC、床版、下部工、色々ありますので、専門的なコンクリートの知識ではなく、現場で点検する時のポイントをかくようにしますね。
では次の週末更新で🐂


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