㉕沈下・移動・傾斜

損傷種類㉕:沈下・移動・傾斜とは?!-人にものを教えることはできない。 みずから気づく手助けができるだけだ。byガリレオ・ガリレイ

ようこそ! Taurus🐂の橋梁点検ノートへ。
このブログが橋梁メンテナンスに携わる皆さまのお力になれたら嬉しいです。
ではさっそく、いってみましょう!

※ガリレオ・ガリレイ:イタリアの物理学者、近代科学の父 /アイキャッチ:ピサの斜塔(イタリア) 

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目次

【点検要領の解釈:㉕沈下・移動・傾斜】

「㉕沈下・移動・傾斜」って盛りだくさんですよね~(^-^;

沈下と移動と傾斜の3つが1つになっているんですよ?!
豪華ですよね。

この豪華な損傷種類ですが、
どんな状態のときに使用するかというと、橋の部材が沈んだり、ずれたり、傾いたりしていれば記録します。

『え?橋が傾くの?!( ゚Д゚)』

はい。
傾きます。
移動もするし、沈むこともあります。

たしかに・・・初めて聞いたら驚きますね。
傾くってちょっと怖いですし。

『昔の話でしょ?現代の技術ではないんでしょ(´ー`)』

では、ありません。
現代の技術をもってしても傾いたり、沈んだりしているのも事実としてあるわけで。

例えばニュースで
『マンションの基礎工事の不良で、マンションが傾き・・・』とか、
『〇〇市で地震が発生しました!電柱や家が大きく傾いています!』とか。
あとは、ピサの斜塔も有名ですよね。

これと同じ現象が橋でも起きるんです。

大きな橋が傾いたり、移動すれば気付くのは簡単!
というわけにはいかないところが、この㉕沈下・移動・傾斜の難しいところ・・・

今回の点検ノートでは、点検要領の解釈と併せて、事例を交えながら点検で見逃さないための気づく手助けができたらと思います!
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<点検要領の付録-1>

㉕沈下・移動・傾斜については、点検要領の付録-1では下図のように解説されています。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


◆㉕沈下・移動・傾斜の特徴

【一般的性状・損傷の特徴】
下部構造又は支承が沈下,移動又は傾斜している状態をいう。

下部構造とは橋台や橋脚、袖擁壁のことで、支承とは支承本体のことを指しています。
対象なる部材は「基礎」、「袖擁壁」、「支承」の3つになります。

それ以外でも㉕沈下・移動・傾斜に該当しそうな部材があると思いますが、点検要領では記録できない仕様になっています(下図)。

そのため、これ以外については⑰その他で対応しましょう。


では改めて。

どんな状態が㉕沈下・移動・傾斜なのか?

これはあまり深読みしなくても大丈夫です。
沈んだり、ずれたり、傾いたりしている状態です。

よくある事例としては、
川のなかにある橋脚の地盤が大雨で洗堀されて傾斜する、沓座モルタルが凍害で損傷してその上の支承や橋体が沈下する、があります。

こんな状態があれば記録するのですが・・・

橋は大きい構造物ゆえに、少しくらい傾いてもわかりにくいという特徴があります。
しかし、点検で見つけるポイントがあるので、以下の損傷事例を参考にしてみてください!

◆事例その1:下部工の基礎形式編

最近、大雨多いですよね。
ものすごい濁流と増水で川が氾濫している報道を目にすることが増えました。

そして次に報道されるのが、“橋が流された”、“柱が傾いた”です。

川の中にある橋脚は、大雨の影響を受けやすいのです。
ほかにも大雨に限らず、川の流れ・速さ・深さ・土圧・基礎形式なども関係するんですが、まずは、簡単かつ基本の基礎形式を押さえておきましょう。

橋の基礎形式も色々ありますが、
代表的な基礎は「直接基礎」、「ケーソン基礎」、「杭基礎」の3つがあります。

そのなかでも、
㉕沈下・移動・傾斜の発生頻度が多い基礎形式は「直接基礎」と「ケーソン基礎」です。
この2つの基礎形式が悪いというわけではありませんのでご注意を。

さて、
この2つの基礎形式は、「杭基礎」と比べて比較的浅い位置にある支持地盤上に建造されています。

基礎とこの支持地盤との関係が重要なのですが、
例えば直接基礎の場合、この土台あたる基礎と構造物との間に隙間ができてしまうと傾いてしまいます
杭基礎なら全く問題ないってことではありませんが、多少隙間ができても常時であれば問題となる可能性は低いです。地震時は問題ありですが。

ということなので、
まず点検では基礎形式をよく確認しておくことが大切になります。

直接基礎ということが確認できたら、いよいよ傾きがないか?を調べていく必要がありますが、下部工そのものを見てもほとんどわかりません。

そこで、下部工が傾くことで影響が現れる支承や伸縮装置、桁端部の遊間量を確認します。
各部材の遊間量が極端に狭くなっていたり、広すぎていたりすれば、下部工に異常がある可能性が高いです。

点検でこのような状態を確認した場合、それぞれの遊間量や移動方向を丁寧に記録し、図に描いてみましょう。

この作業の意味は、遊間量を記録することではありません。
下部工の㉕沈下・移動・傾斜を確定することはもちろんですが、真の目的は橋の歴史を探ることにあります。

橋の歴史を探ることは、健全度評価をするためにとても重要なことです。
人間でも、いま見えている症状だけではなく、そのほかの病気の既往歴や患者の普段の生活が重要ですよね?

それと同じで橋の損傷もそこだけを見ていると適切な評価ができず、結果的に補修効果が得られないことになってしまいます。

本題に戻りましょう。
傾斜等の疑いのある橋脚が複数ある場合、各橋脚の倒れる方向も一様ではありませんし、倒れた時期も違います。
そして、補修時期や方法にも影響されます。
伸縮装置や支承が新品に交換されている場合は、さらに複雑になります。

1つ1つの状況証拠から、その橋が体験した事実に近づいていくのが、これについてはまた次の機会に詳しくご紹介したいと思います。

1つ補足ですが、
“点検調書にのっている図面をあまり信用してはいけない“ということです。
昔の橋はとりあえず管理するために貼ってあるくらいの一般図しかありません。あればいい方。

そのため、仮に図で直接基礎のようなものが示されていても、実は基礎形式や大きさが違うなんてこともよくあります。

特に水深が深くなると川の中は見えないので、洗堀されているのかわからない時は、今後の安全のためにもしっかり調べてみることをお勧めします。

図面があるか調べたり、専門家に推定してもらうだけなら、費用はそれほどかかりませんし、効果ありますよ!

◆事例その2:路面の凹凸編

橋台側面や背面にある擁壁についても傾いたり、ズレたり、沈下したりします。
これについても擁壁だけみてもわかりません。
大きな構造物は離れたところから大局的に見てみるといいですよ。

例えば、
擁壁の傾斜が大きくなってくると、その近傍の路面にひびわれが生じます。
擁壁が傾斜・移動すると、橋台と擁壁の間に隙間ができ、そこから土砂が流出します。すると、その近傍の舗装が凹み、ひび割れ幅が大きくなります。
擁壁が沈下すると、それに比べて沈下しにくい橋台との差が広がってくるので、高欄の高さが変わってきます。(まれに、構造上の特徴でその逆もありますが)

上記のような状態があれば、擁壁を㉕沈下・移動・傾斜で記録します。
このような損傷は ”だいたい” 進行性が遅いことがほとんどです。
いきなり倒れることはありません。

慌てずに補修をするのではなく、追跡調査を行って進行性を見極めることをお勧めします。

◆事例その3:沓座モルタルの凍害編

支承の㉕沈下・移動・傾斜については頻出ですね。

なぜなら、
支承には支承を固定(支持)している沓座モルタルという部材があるんですが、よく壊れるからなんです。
そして、なにより近接しやすいこと。
やはり近くでみると、少しの損傷でも見逃すことが減ってきます。

では、なぜ壊れやすいのか?

昔の支承は今の支承と比べてとても簡単な構造でした。固定するアンカーがなかったり、材料が脆かったり、沓座モルタルの強度が圧倒的になかったり・・・と、壊れるべくして壊れているといってもいいくらいです。

また、伸縮装置の近くということもあり、伸縮装置の劣化に伴う漏水や凍結の影響を受けやすいのです。

近接できるので点検ではよく観察することが基本となりますが、ぜひ真横や真正面から観察してみください。
前回点検との比較のために、前回点検の写真と同じ角度から撮影することが推奨されてはいますが、㉕沈下・移動・傾斜がわかる写真(記録)であることが大前提です。

例えば、
支承本体の場合、少しでも傾きがあれば実は “㉕沈下・移動・傾斜【e】” です。
なぜなら、
支承は水平器やレベル・トランシット等の測量道具をつかって、かなり高精度に設置されるものだからです。

相当、気を遣います。
支承の高さを間違うとその上に架設する主桁、床版、舗装、伸縮措置のすべてに影響を与えてしまいますので。
許容値は一応ありますが、ほぼ0(ゼロ)精度です。※昔はいろいろありますが(´ー`)

そう考えると、ちょっとでも傾いていたりすれば㉕沈下・移動・傾斜で記録できるのですから、簡単と言えば簡単かもしれませんね。

すこし論点がズレてしまったかもしれませんが、そのくらい丁寧に設置しているということがわかれば、点検現場で「傾いているのかな?」と少しでも感じたら、それは㉕沈下・移動・傾斜がかもしれませんよ?

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<点検要領の付録-2>

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


㉕沈下・移動・傾斜がない →“a”
㉕沈下・移動・傾斜がある →“e”

簡単ですね。

ちょっと注意が必要なのは、下記の支点(支承)でしょうか。

支点(支承)又は下部構造が、沈下・移動・傾斜している。

橋の支点というと、一般的には「橋台」や「橋脚」にある“支承”が思い浮かびますが、「ゲルバー構造」にも“支承”がありますので、この【支点(支承)】も対象であることを忘れずに。
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【今回のまとめ】

・㉕沈下・移動・傾斜は、下部工ではなく周囲の状況証拠から見つける。
・状況証拠から、橋の歴史を探ることで適切な健全度評価ができる。
・支点は、すべての支承が対象。

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【次回のノート】

㉕沈下・移動・傾斜もいろいろあり、どこから書いていいのか、どこまで書いていいのか苦労しました。

1つの記事で書ききれないことがたくさんあり・・・
今回は不足している内容があると思いますがご容赦を。
この記事のなかにも参考にしてもらえることがあると信じて。

次回の点検ノートは㉖洗堀です。川の中にある洗堀を点検するのは難しいですよね。

『怪しいな、怪しいな』と懸念され様子見を続けている橋ありませんか?
満を持して調査してみたら・・・なんてことがないようにしたいですね。

異常気象が頻繁するこのご時世では、これまでのような様子見では対応できなくなってきています。心配ですね。

ではまた来週~~~!

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