健全性の診断事例

健全度case14:謎多き遅れ破壊。脱落本数に騙されないで!

橋梁点検ブロガー【Taurus|トーラス】です🐂

”二ッチではあるけど面白い橋梁点検”

に役立つ情報をこのブログでは発信しています!

このブログの記事が、
橋梁点検、橋梁補修に携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちでご一読くださいませ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

目次

【遅れ破壊とは?】

この「遅れ破壊」。

橋梁点検では身近な存在です。


点検する橋で必ずあるわけではないんですけど、言葉のインパクトも強く、特殊な現象なので1度聞いたら忘れられません。

身近だけど、難しく聞こえるこの遅れ破壊。

点検技術者として基本を押さえておきたいところ。


遅れ破壊ってそもそもなんだったかな?

発生メカニズムについても理解しておきたいな。

どんなところを注意して点検したらいいの?


こんな疑問に対する答えについて書いていきますね!!( `ー´)ノ


まずはこれから。

「高力ボルトの遅れ破壊」とは?


簡単にいうと、

高力ボルトを締めたあと、数年経ってから突然ボルトが破断(破壊)してしまう現象

のことをいいます。


<締め付けているとき、締め付けた直後に破断してしまう> のではなく、

<数年経ってから(遅れたように)破断現象が発生する> ので、

「遅れ破壊」という名前がついているんですね。

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【謎が多い発生メカニズム】

つぎに、

遅れ破壊のメカニズムについて話を進めていきたいところですが、実はまだ解明されていないことが多い謎の現象なんです。


現段階でわかっているのは、

空気中の水素を高力ボルトが吸収することによって脆くなる水素脆化

が主な原因ではないかと言われています。

もう少し説明すると、

水素イオンは他の原子やイオンと比べて非常に小さいので、金属のなかに水素が侵入および拡散してしまい、金属の強度を低下させてしまう現象のこと。

その歴史は古く100年前から問題になっているそうで、

応力や環境、材料などの多く要素が絡んでいるので、謎が解明できないらしいのです。


聞きなれない ”水素脆化” という言葉ですが、

塩害をうけたプレストレストコンクリート橋に対する防食工法として、電気防食工法は注意が必要だって聞いたことありませんか?

これも電気作用によってPCケーブルの水素脆化を引き起こすことが理由なんですね。

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【特定のボルトに注意しよう】

ただし、

高力ボルトであれば何でも遅れ破壊が発生するのか?というと、そうではありません。

ある傾向があるのです。


それは、

高力ボルトのうち、引張強度が高いF11T以上の高力ボルトで発生する

ことがわかっています。


F11Tよりも引張強度が低いF10TやF8Tでは遅れ破壊はなく、F11TやF13Tにのみ遅れ破壊が発生するのです。


このように以下の特定のボルトのみ発生することが確認されたため、JISからそれぞれ削除されています。

F13T → 1967年のJISから削除
F11T → 1980年にJISから削除

上記2つのボルトは1964年の同年にJISで制定されているので、点検する橋の架設年度がわかれば使用されている高力ボルトの規格もある程度想定できます。

F13T → 1964~1967年
F11T → 1964~1980年


注意しなければならないのは、

JISから削除されても全国的に周知されるまでのタイムラグがあるということです。

遅れ破壊に対する危険性や使用禁止の認識がすべて橋梁技術者や道路管理者にまで浸透するまで時間がどうしてもかかります。

年代だけ、ボルトの形だけで判断するのは危険なので、ほぼ間違いないとは思いつつも一歩引いた気持ちで点検することが大切だと思います(´ー`)

ーーーーーーーーーーーーー

【目に見える結果への疑いを持つこと】

さいごに、

橋梁点検の現場で注意したい点を。


1.遅れ破壊は本当にそれだけ?

点検のたびに、遅れ破壊とされるボルトの本数が増えていませんか?


10年前の点検でボルトの脱落が5本ありました。
5年前の点検でさらに5本増えました。
今回の点検でも5本増えました。

以上より、5年後の点検では5本程度増えるでしょう。まだ応力上余裕があるので補修するのはまだ先でも問題ない。

・・・・


という論理は少し危険だと思います。

この点検で確認された脱落本数はあくまでも外観目視を基本とする点検結果の事実です。

何百、何千以上の本数がある高力ボルトに対して、通常の橋梁点検の範疇を超えているため、遅れ破壊が発生し続けている橋梁とわかっていても打音検査まですることはありません。


つまり、
破断しているボルトは外観目視では確認できていないボルトが存在していることを意味しています。

現に脱落が問題視され、いざ詳細に点検してみると芋づる式に脱落ボルトの全容が解明されていく・・・

こんな事実もあるのですから。

破断に至るまで、軸力が導入されているボルト軸部では少しずつ破断が進行しています。

かろうじて首の皮一枚で脱落していないボルトが必ずある、あるいは厚く塗った塗膜の影響で脱落することができない、という想定も必要だと思います。


2.遅れ破壊の検査方法

発生メカニズムはお伝えしたように材料や環境、応力によって様々でまだ謎とされています。

遅れ破壊によってボルトが破断する時期も推定できません。

そのため、
点検のたびにすこしずつ本数が増えていくのも不思議ではありません。


その遅れ破壊の本数を確実に確認するためには1本1本検査するしかありません。

昔は点検ハンマーで耳と手の感触で破断を確認していました。


これが一番確実といいたいところですが、

やはり人間の感覚に頼るのは検査する人間による誤差は生じてしまいます。


ある冬の現場で検査したことがあるのですが、手足がいうことを聞かない状況で検査しても検査品質の信頼性については保証できませんでした。

また、ボルトも空気とともに凍っているので打音する音も変わってしまいます。

そこで、
最近では、超音波での非破壊検査も普及してきているようですね。

従来は超音波の波形から破断位置を読み取っていました。これには相当の技術がいるのですが、画像から判断できる技術もあるそうです。


3.第三者被害予防の観点

もし、

遅れ破壊で脱落する高力ボルトの下に道路や線路がある場合は、一刻もはやくボルトの交換やネットの設置などによる落下防止対策を行う必要があります。

M22×80のボルトであれば、およそ1本あたり座金とボルトセットで600gあります。

500mlのペットボトルよりも重く、そして硬いボルトが落ちてきたら大惨事間違いなしですね( ゚Д゚)


健全性の診断ではどう考えるのか?

というと、

連結材としての機能の観点から問題なく、第三者被害予防の観点から措置を行うのであれば、健全度Ⅱを基本としつつ、線路上等のその緊急性や重要性に合わせ健全度Ⅳも検討してはいかがでしょう。

 定期点検要領の解説を中心にブログを2つ書いてます。点検で間違いやすい点やよくご質問をいただく点について書いています(´ー`) 
損傷種類③-1:ゆるみ・脱落とは?!ー事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである byニーチェ | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート 
損傷種類③-2:ゆるみ・脱落とは?!ー過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える byニーチェ | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート

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【さいごに】

点検を始めたころ、

師匠とこんなやり取りがありました。


わたし:
『F11Tなので遅れ破壊ですね。まだ2本しか脱落していないので問題ありません(´ー`)』

と多少の自信をもって話したら、

師匠:
『遅れ破壊だとは思うけど、F11Tだからといって遅れ破壊を決めつけてはいけないよ。
 環境条件や年代などについても関係するけど理解しているのかな?
 そして、本当に2本しかないのだろうか?という視点が大事。』


その通りですね。

ありがとうございます。師匠。

次回!!
「健全度case15:侮れない?!目地板の落下って危険なの?

また来週~

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