橋梁点検の出来事・話題・用語

橋梁点検13:診断AIは人材不足の救世主?!

橋梁点検ブロガー【Taurus|トーラス】です🐂

”二ッチではあるけど面白い橋梁点検”

に役立つ情報をこのブログでは発信しています!

このブログの記事が、
橋梁点検、橋梁補修に携わる ”あなたの力” になれたら嬉しいです。

ではさっそく、いってみましょう!

※様々なご意見があると思いますが、どうぞ温かい気持ちでご一読くださいませ。

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目次

【あ~ぁ、ぜんぶ健全度Ⅰにならないかな】

5年毎に行う橋梁の定期点検は、人間でいうところの定期健診です。

定期点検で得られた損傷情報などから「下図の区分Ⅰ~Ⅳ」の4段階で健康状態を評価しているわけです。

出典 橋梁定期点検要領平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課


この評価業務を橋梁メンテナンス業界では、

橋梁診断業務

といっています(ほかに橋梁診断、診断業務)。


点検と診断を同一のものとして認識されている場合がありますが、業務としては全くの別物なんです。

例えるなら、

「橋梁点検業務」は検査技師。
「橋梁診断業務」は看護師や医師のような判断をする業務として考えます。

それぞれ役割が違い、講習会や公表資料なんかも名称をわけて使用されているので少し注意が必要です。


話は戻りまして、

健全度Ⅰ~Ⅳの区分でどんな違いがあるかと簡単に言うと、

 →健全度Ⅰであれば、治療の必要なし。次回点検まで放置でOK。

 →健全度Ⅱであれば、予防治療。乾燥肌にクリーム塗るようなもの。

 →健全度Ⅲであれば、治療必須。手術確定です。どうしてここまで放っておいたの?!もあり。

 →健全度Ⅳであれば、救急搬送。集中治療室行きです。


このように、

健全度Ⅰ~Ⅳの区分によって、費用や労力、設定される期限などが大きく変わりますから道路管理者としては、健全度評価がどれになるかは死活問題です・・・


予算・人材・人数が潤沢にあるわけではないなかで、簡単・早い・安いの3つをクリアしなければならないのですからから、想像以上に大変です。


定期点検結果の公表場面では、

 ・少し損傷しているけど、このくらいなら健全度Ⅰにならないかな~
 ・これって健全度Ⅲじゃなくて、健全度Ⅱじゃないの?
 ・健全度Ⅲを健全度Ⅰにするためには、どんな補修が必要なんだろう
 ・これはまずいでしょ!応急補修しなきゃ~~~!!
 ・これは補修してもまた再劣化するだろうな。でも何もしないと健全度Ⅲのままだし・・・

など、

こんなやり取りが繰り広げられていて、点検後は色々と悩ましいことが多いのです。

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【かなり難しい橋梁診断業務】

さて、

この診断業務ですが、かなり高度な橋梁に関する専門知識が要求されるのです。

材料、新旧基準、構造形式、劣化機構、環境条件など幅広い知識に加え、点検で得られるさまざまな損傷情報を踏まえて総合的に行う必要がありますから。

さらに橋は声が出せないので、どこが痛いんですか?と聞くこともできません。

かなり専門的です・・・


総合医療職のようなものですからね。

病気を診る医者のようでもあり、人を診る看護師のようでもあり。

人それぞれに性格や病気などがいろいろあるように、橋にもいろんなありますからね。それぞれの患者に応じた技術力が必要です。

こんな高度で、専門的な仕事をだれが担っているのか?(゜-゜)

と、いいますと

一般的には建設系のコンサルタントや財団が中心となって担当しています。

ただ…

点検する橋として集計されている数だけでも全国に73万橋もあるので、今の時点で既に橋梁技術者が足りているとは言えません。

管理者不明や小さい橋は集計されていませんしね。

そして、
評価基準が確立していなかったり、個人差が大きかったり、診断根拠に乏しかったりなどと、多くの問題を抱えているのが現状なのです。

改めて、

橋梁診断はかなり難しい・・・

ということをこの記事を書きながら実感してしまいます。

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【だれか~!なんとかして~~!!】

これまでの橋梁診断には、
高度な橋梁の専門知識を有する橋梁技術者(橋梁診断員)の存在が不可欠でした。

しかし、
老朽化を迎える橋梁がたくさんあるため、圧倒的に橋梁技術者の数が不足している事態が想定されているのです。

もうすでにその状態になっています・・・


この問題に対処するためには

『橋梁技術者の育成が不可欠かつ急務です!!』

そう、
言われ続けてきましたが橋の専門家を育成することは簡単ではありません。


そこで!

技術者不足を補うために考案されたのが、当時第3次ブームが到来しメディアでもよく取り上げられることが多かったAI(人工知能)の活用でした。

専門家でもかなり難しい橋梁診断ですが、土木研究所がこのAI(人工知能)の活用を模索し、民間企業や自治体等と共同研究を行っています。


これまで橋梁診断を行う専門家が行っていた業務を、AI(人工知能)が行えるようになる・・・

ついに医師のような難しい判断が必要な仕事も、デジタル技術の発展により対応できるようになるのか?!

と期待が集まります。

夢のデジタルツールです。


この共同研究ですが、R03年度に第1期が終わったばかりです。

平成30年から開始していますから、もう5年ですね。


ここまでの道のりをみてきた私にとっても一区切りの出来事でした。

開発関係者のみなさまお疲れ様でした。

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【AI(人工知能)活用への挑戦】

第1期の共同研究が終わったばかりですが、実は初めからAI活用に前のめりだったわけではないのです。

当時、開発者の頭を悩ませてたのは、

『橋梁診断という医師のような判断を果たしてAI(人工知能)ができるのかどうか・・・』

でした。※当時のインタビュー記事より回想


さらに、
現在流行しているディープラーニングにおいては、ブラックボックス化といって

「なんだかしらないけど、AIが膨大なデータからこう導き出した」

という結論に対する根拠が不明という問題がありました。


医師と同じく橋梁診断における健全性の診断も根拠が重要となります。

これでは橋梁診断には活用できません。

利用者である国民に「AIがそういっていたから」とは言えませんから。


デジタル化の波はきつつも、やはり橋梁診断には不向きなのか・・・



そんな空気が漂う中、ブラックボックス化を避けた上でAIを活用できないかと考え出された結論が、

AI(人工知能)※エキスパートシステム

の採用でした。



エキスパートシステムは、AI技術としては歴史が古く、昔から辞書やカーナビなどに採用されてきました。

最近では、ECサイトのレコメンドが有名です。

サイトからあなたにおススメな商品これ!と紹介されることがあると思いますが、これもエキスパートシステムです。


このエキスパートシステムとは、

エキスパート(専門家)の知識を人間がシステムに入力することにより学習させ、専門家と同じような推論・根拠の出力が可能です。

ブラックボックスとは真逆の根拠の積み重ねで成り立っています。

根拠となる専門家の判断ポイントや結果をAIに学習させるため、【適切に】専門家が行なう情報を膨大かつ継続的に入力することができればAIも専門家と同等の結果が得られるとされています。


このような経緯がありましたが、

さきほど、開発者が悩んでいたブラックボックス化と言う問題が解決できるということが決め手となり、共同研究が始まったそうです。

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【見えてきた…診断AI(人工知能)】


つい先日開催された「第15回CAESAR講演会 令和4年8月23日」にて、

橋梁診断支援AIシステムver1.0

の紹介がありました。

名称が長いので、診断AIとしますね。

※講演会の具体的な内容については、申込必要の講演会でしたのでここでは書けませんのでご了承くださいませ。前回の講演会資料は以下が公開されています。
「第14回CAESAR講演会 令和3年10月7日」PowerPoint プレゼンテーション (pwri.go.jp)


さて、
この診断AIですが、ここ数年のあいだに何度もネットや専門誌、講演会でその目的や概要などが紹介されてきました。

今回の講演会の内容も、今回初めて公表された情報ばかりではなく、これまでの情報を補足するような内容でした。


では、

診断AIとはどんなものか改めてというと、

健全性の診断を行うためのアドバイザー機能をもつシステム

と言えます。


公開されている資料にもあるように診断AIの出力データは、

・措置方針案
・上記の根拠と説明

です。


令和6年度の全国的な展開を目指し、開発を進めていくようです。

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【どうなる?…診断AI(人工知能)】

先ほど、診断AIの出力データを以下の2点と書きました。

・措置方針案
・上記の根拠と説明


『あれ?健全度は?(゜-゜)』

そうなんです。

診断AIといっても健全度を具体的に示すシステムではないようです。

実務者からすると、具体的な健全度まで知りたいところですよね?


 損傷があります。
 損傷メカニズムはこうです。
 その根拠はこれで、こう説明できます。
 具体的な措置方針は防水層の施工です。

健全性の診断は?・・・


『そこまで出力してくれるなら健全性の診断結果も出力してよ~』

と欲張ってしまいますが、

維持管理の大前提として、

最終的な健全性の診断、つまり補修等の判断は道路管理者にあるということです。

高機能なシステムや業務を請け負ったコンサルタントにあるわけではありません。


それゆえのアドバイザーなのでしょう。

あくまでも道路管理者の知識を補完できるようなシステムを目指して構築されているようです。

ただ、
これができれば苦労はないよってことなんですけどね。

人手不足知識不足で悩む道路管理者や技術者からすれば、

判断する上でのよりどころが欲しい…

こう考えているのではないでしょうか。

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【R06リリースまで目が離せない】

第1期の共同研究が終わり、今後は更なるバージョンアップにむけて改良が進められていきます。

前回のブログにかいた全国道路施設点検DBとの連携も検討されているとのことですので、これからの研究成果が楽しみです。

前回のブログでは有料版の公開にあわせて無料版の紹介記事を書きました。
橋梁点検12:道路インフラのDX。全国道路施設点検DB有料版公開!! | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート

実務で利用しやすいシステムを目指しているとのことですので、今後の開発動向から目が離せませんね。

どんなシステムになっていくのでしょうかね(´ー`)

ただ、
橋梁診断へのAIの活用は簡単とは言えません。

なぜなら、
現在採用されているシステムの効果発揮は、適正な入力情報に頼っているからです。

時代や技術が発展し、これまで常識とされてきた診断方法や根拠が変われば入力情報も変えなければなりません。

難しい技術への挑戦ですが、
活用できる技術があるのであれば、挑戦することによる新たな進歩や波及効果は必ずあると思います!

今後のシステム検証やデジタル技術の発展、世の中の動向によっても変わっていくと思いますが、橋梁メンテナンス業界が明るくなるといいですよね!!

次回!!
「橋梁点検14:2022.08道路メンテナンス年報の気になるところ」

また来週~

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■お問い合わせについて■

この活動で日々思うのは、

インターネットがこれだけ発達しても自分が本当に必要な情報というのは、なかなか探せないものなんだということ。

専門性の高い分野ともなると、難しい言葉で書かれた論文が多くなり、それが自分の知りたい情報だったのかすらわからなくなるときが多々あります。

私は検索するのが下手なので、知りたい情報まで辿り着くことがなかなかできません💧


橋梁点検で
「こんな損傷があったらどうすれば?」「ほかではどう対応しているの?」「この記事の意味をもう少し知りたい」などがあれば、

どうぞ気軽な気持ちでお声がけくださいね!

ブログへのご意見・ご要望につきましては、下記専用フォーム・TwitterDMからお寄せください(´-`)
CONTACT | 【Linxxx公式】現場で役立つ橋梁点検ノート

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