Topics/研究

029:「メンテナンスからマネジメントへ」国交省へのパブコメ投稿

こんにちは、神宮皐(かみや さつき)です。
日本のインフラと地方経済を救う、優しくて楽しい革命を一緒に進めている皆さん、いつもありがとうございます。

今日は「今後のインフラのマネジメントのあり方について(中間とりまとめ)」についてお話しします。

≪メンテナンスからマネジメントへ≫

 ~国交省の中間とりまとめに、3つの意見を提出しました~

はじめに

国土交通省が公表した『今後のインフラのマネジメントのあり方について 中間とりまとめ』に対して、個人としてパブリックコメントを提出しました。
意見募集はまだ続いています。締切は2026年9月16日15時、受付はe-Govです。

先に提出を済ませ、そのうえでこの記事を書いています。
パブコメなので文章量は短めに簡潔にしたので、このブログでは少し補足の意味を兼ねています。
提出した意見は、次の3点です。

・群マネ・包括的民間委託に、民間が投資判断できる「事業性」と「事業量の予見可能性」を
・市民の「自分事化」を、情報発信で終わらせず「参加」と「成果の実感」まで
・熟練技術者の「判断プロセス」を、組織の枠を越えて蓄積・継承する仕組みを

なぜこの3点なのか。
今回の中間とりまとめを読んで、何が大きく変わろうとしていると感じたのか。そして、現場の側から見ると何がもう一歩必要なのか。その考えを残しておきたいと思いました。

※本記事は、一土木技術者としての個人的な見解です。所属組織の見解を示すものではありません。

「メンテナンス」から「マネジメント」へ

今回の中間とりまとめで、最も重要だと感じたのはタイトルそのものです。

「今こそ『インフラマネジメント』への戦略的転換を」

この中間とりまとめは、社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会のインフラマネジメント戦略小委員会での議論をまとめたものです。
2013年を「社会資本メンテナンス元年」として、点検・診断・修繕を中心とするメンテナンスサイクルが進められてきました。
しかし、2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した、下水道管路の破損に起因する道路陥没事故を受け、国は、これまでのインフラメンテナンスの取組だけでは不十分だと明確に認識しています。
これについては今年の全国大会の議論の中でも指摘されていたので、中間とりまとめを行うなかでも委員会では議論にあがっていたのかもしれません。

さて、中間とりまとめでは、点検や修繕だけではなく、計画・調査・設計・整備・点検・診断・修繕・更新までのライフサイクルを一連で考え、限られた人員と予算の中で全体を最適化する「インフラマネジメントへの転換」を打ち出しています。

私は、この方向に強く賛成します。

人口が減り、自治体職員も減り、老朽化したインフラは増えていく。
しかも、これからも必要なインフラは増えていくし、更新しなければならないインフラも増えていく・・・
「全部を、これまでと同じ方法で守る」という前提そのものを見直さなければならない時期に来ています。

中間とりまとめによれば、全国の約4分の1の市区町村では技術系職員が皆無、約半数では5人以下です。また、市区町村の土木費は1993年度の約11.5兆円をピークに、近年は約6.5兆円、ピーク時の約6割となっています。

このような状況のなかで必要なのは、点検の回数を単純に増やしたり、とにかく点検結果を残すことだけではありません。

何を守るのか。
どこに重点を置くのか。
誰が担うのか。
どうやって次の世代まで続けるのか。

そこまで考えるのが「マネジメント」です。

中間とりまとめが示した5つの方向

今回示された基本的な方向性は、大きく5つあります。

・「メリハリ」の推進
・「見える化」の徹底
・インフラの「自分事化」と「モーメンタム」の醸成
・担い手に「もっと光を」当てたインフラマネジメント産業の構築
・統合的「マネジメント」の構築

どれも、現場の実感に沿った内容です。
特に印象に残ったのは、「メンテナンス産業」ではなく「インフラマネジメント産業」という考え方でした。

壊れたものを直すだけではない。点検する。診断する。修繕する。更新する。場合によっては集約する。新しい技術を導入する。地域の将来を考える。市民に説明する。そして、それらを担う人や企業を次の世代まで残していく。

そこまで含めて、一つの産業として捉える。この方向は正しいと考えています。

だからこそ、方向そのものに反対するのではなく、「この方向を本当に現場で動かすためには、もう一歩必要ではないか」という視点から、パブコメでは3つの意見を提出しました。

3つのパブリックコメント

1.群マネを「制度」から、持続可能な「事業」へ

一つ目は、今回もっとも重視した意見です。

群マネや包括的民間委託を、民間企業が継続的に参入できる事業として成立させる必要があります。
群マネとは「地域インフラ群再生戦略マネジメント」のことで、自治体や施設の境界を越えて複数のインフラを「群」として捉え、効率的・効果的に管理していこうという考え方です。
方向としては合理的です。すでに11件・40地方公共団体がモデル地域に選定され、「群マネの手引きVer.1」も2025年10月に公開されています。
しかし現状では、群マネを実施・検討している機関・部署は約1割にとどまっています。実施・検討していない理由には、「責任の所在が不明確」「相談者の不在」、町村では「予算がない」といった回答が挙げられています。包括的民間委託の活用も、同じく約1割です。

今回の中間とりまとめは、その対策として、責任分担、性能規定によるインセンティブ、長期契約、伴走支援、官民連携、包括的民間委託における受注体制の構築など、かなり具体的なところまで踏み込みました。
大きな前進です。

一方で、受注する民間側から見れば、もう一つ重要な問題があります。
その仕事に、継続的に投資できるのか?
新しい点検技術を導入する。
DXに投資する。
専門技術者を採用し、育成する。
中長期の事業に何年も技術者を配置させるほどの事業収益が見込めるのか?
機械や設備をどのくらい保有し、投資しなければならないのか?
事業期間は何年間なのか?
どこまでの業務を任せるのか?
どれくらいの事業規模になるのか?
資材価格や労務費が上昇した場合はどうするのか?
発注者と受注者がどのリスクを負うのか?
成果を上げた企業には、どのようなインセンティブがあるのか?

こうした投資は、来年仕事があるか分からない状態では踏み切れません。
不安材料がありすぎて、社会的責任以上に怖さが勝ってしまっているのです。

こうした条件が見えて初めて、企業は人や設備、新技術へ投資できます。

だからパブコメでは、「受注体制」だけではなく、「事業性」と「将来の事業量の予見可能性」まで検討してほしいと意見しました。すでに動いているモデル地域で、こうした条件を実際に検証し、標準的な考え方を示すことも提案しています。

群マネを単なる発注事務の効率化にしてはいけない。
そう考えています。

地域建設業、橋梁などの専門企業、建設コンサルタント、広域的な施工・マネジメント能力を持つ企業、新技術を持つ企業。それぞれが強みを持ち寄り、長期的に参画できる。そこまでできて初めて「インフラマネジメント産業」と呼べるはずです。

2.「自分事化」は、情報を見せて終わりではない

二つ目は、市民の「自分事化」です。

中間とりまとめには、とても重要な表現があります。
市民を「利用者であり納税者でありそしてオーナー」と位置付け、インフラの危機を専門家だけの課題ではなく、市民一人一人の生活に直結する自分事として認識してもらうことが重要だとしています。

この考え方にも強く賛成します。

道路も橋も下水道も、行政のために存在しているわけではありません。
そこで暮らす人の生活を支えるために存在しています。

にもかかわらず…
普段その存在を意識することはほとんどありません。使えなくなったとき、初めてその価値に気付く。ここに、インフラ特有の難しさがあります。

今回の中間とりまとめでは、そのための施策として、インフラの状態や費用のマッピング、SNSによる情報発信、地域インフラの歴史や必要性を学ぶ機会、市民による異常通報、住民参加型の取組などが示されています。

これも必要です。
ただ、もう一歩先まで進めてほしいと考えました。

「知った」あとに、「参加した」。
そして、その参加によって「何が変わったのか」が分かる。

例えば、市民が道路や橋の異常を通報したとします。

市民の声に対する反応が大事なのです。
通報を受けた管理者が、確認したのか?
問題なしと判断したのか?
経過観察にしたのか?
補修したのか?

可能な範囲で結果が返ってくる。
これができて市民参加の輪が広がっていくのではないでしょうか?

補修したのであれば、「工事をしました」だけではなく、何が改善したのか。
どんなリスクが減ったのか。
どのくらい長く使えるようになったのか。
そこまで分かる。

そうすると、自分の行動とインフラの維持管理がつながります。

これを、「見える化 → 理解 → 参加 → 成果の実感」という循環にできないかと考えています。
「自分事化」は、情報発信の回数を増やすことではありません。自分もインフラを支える側にいる、と実感できる仕組みをつくること。そこまで進めて初めて、本当の意味での「自分事化」になります。

3.残すべきなのは、技術者の「答え」ではなく「なぜそう判断したか」

三つ目は、技術の継承です。

インフラ分野でも、AI、ロボット、ドローン、センサーなどの新技術が急速に入ってきています。これは当然進めるべきです。
これまで人が時間をかけて見ていた場所を、機械が効率よく確認できる。大量のデータをAIが整理する。
技術者不足が進む中で、新技術を使わないという選択肢はありません。
ただし、それですべてが解決するわけではありません。

例えば、橋にひび割れがあったとします。
写真を撮ることはできます。幅を測ることもできます。過去と比較することもできます。
しかし、この損傷をどう評価するのか。今すぐ対策するのか。経過を見るのか。追加調査が必要なのか。
その判断には、まだ多くの経験と技術的知見が必要です。

中間とりまとめも、この点を課題として挙げています。
時間軸に沿った構造物の性能評価については、依然として専門技術者の知見に依拠する部分が大きい。だから、定量的に評価できるよう検討する、と。

定量化そのものには賛成です。
判断のばらつきが減り、経験の浅い技術者でも一定の水準で対応できるようになります。

ただ、すべてが数値に置き換わるわけではありません。同じひび割れでも、その構造物の使われ方や周辺条件によって、取るべき対応は変わります。定量化を進めるほど、そこからこぼれ落ちる部分が見えなくなっていく懸念もあります。

そこで、定量化の検討と並行して、熟練技術者の「判断プロセス」も残してほしいと意見しました。
最終的な判定結果だけではありません。
どのような損傷だったのか?
周辺条件はどうだったのか?
どんな選択肢があったのか?
何を根拠にその対応を選んだのか?
そして数年後、その判断はどうだったのか?

それらを一体として残す。
以外とここまでのプロセスが日本全国的には体系化されていないのが現実です。
すばらしい思想はある。ただこれが統一見解にはなってはいません。

損傷 → 条件 → 選択肢 → 判断根拠 → 対応 → その後

この形で事例を蓄積していけば、単なる点検記録とは違う「技術者の判断のデータベース」になります。

実は、中間とりまとめにも近い記述があります。
優先度の設定にあたって、劣化メカニズムの研究や実務知の蓄積が必要であり、劣化・損傷した構造物の事例収集を推進する、という部分です。

今回、私はまったく新しい提案をしたつもりはありません。
その事例収集を、損傷状況の記録にとどめず、判断根拠とその後の推移まで含めた形にしてほしい。
そうすれば、性能評価を定量化していくための基礎データにもなります。

あわせて、若手技術者や自治体職員が、熟練技術者と一緒に現場を見て考えるOJTも欠かせません。
技術者不足というと、「人数をどう確保するか」という話になりがちです。もちろん人数も必要です。
しかし、本当に失ってはいけないのは、判断の根拠となる知見です。
熟練者が退職したあとに「この人はいつも正しい判断をしていた」だけが残っても、その技術は継承されません。
なぜ、その判断をしたのか。
そこまで残して初めて、次の世代が使える知識になります。

「全部守る」から、「どう守るかを考える」時代へ

これから、すべてのインフラを同じ方法、同じ密度で維持し続けることは難しくなります。
だから中間とりまとめでは、「メリハリ」という言葉が使われています。
重点化する。
軽量化する。
場合によっては集約・再編する。

避けて通れない議論です。
ただし、劣化度や維持費の数字だけを並べて「この橋は残す」「こちらは優先順位を下げる」と決めればよいわけでもありません。
その道路や橋が、地域でどんな役割を果たしているのか。通学なのか。通院なのか。物流なのか。災害時の避難なのか。地域の将来像と合わせて考える必要があります。
だからこそ、「見える化」と「自分事化」が必要になる。そして、決めたものを実際に維持していく企業が必要になり、判断できる技術者が必要になる。

この3つは、別々の話ではない

今回提出した3つの意見も、一見すると別々のテーマに見えます。しかし、私の中ではすべてつながっています。

企業が継続して参加できる仕組みをつくる
↓
市民もインフラマネジメントに参加できる仕組みをつくる
↓
技術者の知識が次の世代へ引き継がれる仕組みをつくる

これらがそろって初めて、持続的なインフラマネジメントになります。
行政だけでは守れない。企業だけでも守れない。技術者だけでも守れない。市民だけでも守れない。
だからこそ、行政、企業、技術者、市民が、それぞれ無理なく関わり続けられる仕組みをつくる。
それが「メンテナンスからマネジメントへ」という転換の本質だと、今回の中間とりまとめを読んで感じました。

パブコメを出して終わりにしないために

パブリックコメントを出したからといって、すぐに政策が変わるわけではありません。提出した意見が、そのまま採用されるとも限りません。それでも出しました。

国が「メンテナンスからマネジメントへ」と大きく方向を変えようとしている今だからこそ、構造物の新設から維持管理までの現場を間近でみてきた1人として、「この方向には賛成です。ただ、ここまで考えてほしい」という意見を残しておく意味があると思ったからです。そして、提出して終わりにするのではなく、なぜその意見を出したのかも公開しておきたいと考えました。

今回の中間とりまとめでは、「自分事化」という言葉が繰り返し使われています。
インフラを自分事にするとは、行政から情報を受け取ることだけではないはずです。
気になることについて調べる。考える。意見を出す。他の人と話す。
一人の技術者がパブコメを出し、その理由を公開することも、「自分事化」の小さな実装なのかもしれません。

意見募集は9月16日15時まで
国土交通省は現在、『今後のインフラのマネジメントのあり方について 中間とりまとめ』に対する意見を募集しています。
募集期間:2026年9月3日〜9月16日 15:00
出方法:e-Gov パブリック・コメント

団体だけではなく、個人でも提出できます。なお今回は、行政手続法に基づく手続ではなく、任意の意見募集としてe-Govで実施されています。
書くのであれば、難しい文章にする必要はありません。

「どの部分について」
「どう思ったのか」
「なぜそう思うのか」

それが伝われば十分です。
自治体でインフラ管理に携わっている方。建設業や建設コンサルタントの方。点検や修繕の現場にいる方。そして、道路や橋を日々使っている方。
立場によって、見えているものは違います。だからこそ、いろいろな立場から意見が出る意味があります。
「インフラは専門家が考えるもの」から、「地域に必要なインフラを、みんなでどう支えていくかを考えるもの」へ。

今回の中間とりまとめが、その転換のきっかけになることを期待しています。

参考資料
国土交通省「『今後のインフラのマネジメントのあり方について 中間とりまとめ』に対する意見の募集の開始について」
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo03_hh_000386.html
e-Gov パブリック・コメント(案件番号155260107)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=155260107
中間とりまとめ本体(PDF・全20ページ)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000320397
e-Gov パブリック・コメント トップページ
https://public-comment.e-gov.go.jp/

神宮皐
2026年9月
プロジェクト「日本のインフラと地方経済を救う、優しくて楽しい革命@Taurus_Linxxx」より
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