Topics/研究

031:1兆円を超える「予防保全」は、建設業に何をもたらすのか

こんにちは、神宮皐(かみや さつき)です。
日本のインフラと地方経済を救う、優しくて楽しい革命を一緒に進めている皆さん、いつもありがとうございます。

今日は「2027年度予算概算要求から見える、建設市場の変化」についてお話しします。

≪1兆円を超える「予防保全」は、建設業に何をもたらすのか

 ~概算要求と中間答申から見えてきた、「メンテナンス」から「マネジメント」への転換~

はじめに

前回は、災害、インフラの老朽化、担い手不足が重なる中で、建設業の役割が「つくる・直す」から「マネジメントする」方向へ広がっていくのではないか、と書きました。

その後、議論は一歩進みました。

前回、パブリックコメントの段階だとお伝えした国の議論が、10月20日、社会資本整備審議会・交通政策審議会の中間答申「今後のインフラのマネジメントのあり方について」として、国土交通大臣に手交されました。副題は「今こそ『インフラマネジメント』への戦略的転換を」です。

では、その転換を、国はどのような予算で支えようとしているのでしょうか。

今回は、8月に公表された2027年度予算の概算要求を読みながら、「公共事業費が増える」というニュースの裏側で、建設市場がどこへ向かおうとしているのかを考えます。

45%増を「工事量45%増」と見てはいけない

2027年度の国土交通省予算の概算要求は、一般会計で8兆7,694億円。2026年度当初予算に比べ44.4%増です。このうち公共事業関係費は7兆6,761億円で、45.0%増となっています。

数字だけを見れば、2027年度は公共事業が大幅に増えるように見えます。しかし、これをそのまま「工事量45%増」と読むことはできません。

背景には、予算編成の考え方の変化があります。政府は大規模な補正予算への依存から脱却し、恒常的な施策は当初予算で措置する方針です。国土交通省も、これまで補正予算で実施してきた施策を当初予算で要求しており、2025年度補正予算と2026年度当初予算の合計と比べると、伸びは1.35倍にとどまります。資材価格や労務単価の上昇も反映されています。

予算の付け方が変われば、発注のタイミングも変わります。

10月1日、国土交通省と総務省は地方公共団体に対し、2027年度を見据えた公共工事の早期発注と施工時期の平準化を要請しました。平準化の要請自体は例年行われているものです。ただ今年は、補正予算依存からの脱却と重なり、閑散期となる4〜6月の工事量を確保するため、2026年度内の契約締結など早期発注まで求めています。

さらに、概算要求の数字はここから選別を受けます。政府は、租税特別措置・補助金・基金の見直し、いわゆる「日本版DOGE」を進めており、10月9日の関係閣僚会議では、伸ばすべき歳出と見直すべき歳出を峻別する方針が改めて示されました。

最終的な予算は、年末の予算編成を待つ必要があります。

1兆1,591億円の「予防保全」

その中で、私が特に注目しているのがインフラの老朽化対策です。

2027年度概算要求では、上下水道、道路、鉄道などの予防保全を含む老朽化対策として1兆1,591億円が盛り込まれました。前年度比34%増です。

予防保全とは、壊れてから直すのではなく、点検で状態を把握し、重大な損傷になる前に補修や更新を行う考え方です。

しかし、本当に予防保全を進めようとすれば、補修工事だけでは成り立ちません。

例えば橋梁なら、点検して状態を把握し、損傷を診断する。劣化の進行を予測し、補修か更新かを判断する。限られた予算の中で優先順位を決め、設計・施工し、その結果を次の判断へ戻す。

点検 → 診断 → 評価 → 計画 → 設計 → 施工 → モニタリング

この一連のサイクルが予防保全です。

前回書いたように、ここで問われるのは「どこが一番傷んでいるか」だけではなく、「どこを守れば地域全体の機能を維持できるか」です。同じ程度に傷んだ橋でも、緊急輸送道路上にあり代替路がない橋と、十分な迂回路がある橋では、優先順位は同じとは限りません。

補修を先送りすれば将来の費用は膨らみますが、すべてを早期に直せばよいわけでもありません。中間答申も、初期費用が高くても長寿命化に貢献する技術は積極的に活用するとしています。予防保全が本格化するほど、ライフサイクル全体で考える判断力が問われるようになります。

なお、1兆1,591億円は、上下水道から鉄道まで幅広いインフラを対象とした合計です。「橋梁補修の市場が1兆円になる」と読むのも適切ではありません。

「壊れてから」ではなく「壊れる前に」

予防保全の考え方は、すでに具体的な管理のルールにも表れ始めています。

8月の千葉豪雨では、千葉市の国道16号村田町アンダーパスが冠水し、車両が水没して1人が亡くなりました。停電時に非常用電源設備が作動せず、排水ポンプが機能しなかったことが原因とみられています。

これを受けて国土交通省は10月6日、道路排水設備の年点検で、管理運転を原則として実負荷で行うことをマニュアルに明記しました。個々の機器が点検で動くことと、災害時に設備全体が機能することは同じではない。重い教訓です。

さらに10月29日には、河川の排水機場のポンプ設備を対象に、AIで異常検知や寿命予測を行うモニタリングシステムの研究開発グループが採択されました。

対象施設は異なりますが、排水設備という点では共通する課題です。「異常が起きたから直す」から、「異常が起きそうだから事前に判断する」へ。予防保全は、状態を予測する段階へ進もうとしています。

もちろん、AIがすぐに技術者の判断を置き換えるわけではありません。データの品質や予測精度など、検証すべき課題は多くあります。

中間答申が示した、次の課題

10月20日の中間答申は、建設業にとって重要な論点を含んでいます。

中間答申は、群マネの推進に向けて、責任分担の明確化、性能規定によるインセンティブの付与、長期契約における履行保証といった課題を検討するとしています。いずれも、「誰が、どのくらいの期間、どのような責任で管理するのか」という、前回からの問いに直結する論点です。

一方で、現実はまだこれからです。自治体へのアンケートでは、群マネに取り組んでいるのは約1割。包括的民間委託の活用も約1割にとどまり、理由として「予算が確保できない」「検討する人員不足」が挙がっています。

中間答申は、地域の建設業にも目を向けています。維持作業や点検、維持工事では受託する事業者が固定化しつつあり、競争原理を維持し続けることが、発注者・受注者双方の負担になっていると指摘しています。そのうえで、地域の実情に応じて柔軟に担い手を確保できる入札・契約制度の整備を求めています。

方向性は示されました。しかし、事業として動き出すのはこれからです。

重要なのは「1兆円」より発注の形

では、1兆円を超える老朽化対策は、建設業に何をもたらすのでしょうか。

点検、設計、補修工事が従来どおり単年度・個別発注のままであれば、予算が増えても、既存の維持修繕市場が大きくなるだけです。

一方で、複数年契約になるのか。複数の施設や自治体をまとめるのか。点検から補修・更新工事まで一体化するのか。性能を基準とした契約が現れるのか。ここが変われば、仕事の意味が変わります。

ただし、「建設会社」と一括りにはできません。

地域建設会社には、日常維持や災害対応など、地域を熟知した強みがあります。建設コンサルタントには、調査、診断、計画、設計の蓄積があります。専門会社には、施設や工種に特化した技術があります。大手・準大手ゼネコンにとっては、単年度の点検や小規模修繕だけでは企業規模に見合う事業にならない場合があり、一定規模の補修・更新工事や、複数年の事業量の見通しが参入判断の条件になるでしょう。

社会的に必要な仕事であることと、民間企業にとって持続可能な事業であることは、同じではありません。

おわりに

複数年契約が増えるのか。
包括発注が増えるのか。
補修・更新工事まで一体化するのか。
性能を基準とした発注が現れるのか。
複数自治体をまたぐ案件が、実際に公募されるのか。

こうした兆候が入札公告や公募として現れ始めたとき、「メンテナンスからマネジメントへ」という変化は、政策から事業へ移り始めたと判断できると考えています。

前回の最後に、私は「誰が、どの範囲を、どのくらいの期間を、どのような責任で管理するのか」という問いを書きました。

この2か月で、中間答申が手交され、予防保全に1兆円を超える予算が要求され、点検のルールやAIによる寿命予測の研究も動き始めました。方向は、かなりはっきりしてきました。

それでも、まだ「事業」になったわけではありません。2027年は「群マネ元年」というより、制度が実際の事業へ移れるかを見極める年になると考えています。

次回は、その鍵を握る「地域インフラ群再生戦略マネジメント」、いわゆる群マネそのものを取り上げます。

次回
第3回|群マネは、建設会社の「事業」になるのか?
事業規模、契約期間、補修・更新工事の組み込み、役割分担、リスク分担、将来事業量の予見可能性から、群マネが「制度」から「事業」へ進む条件を考えます。

参考
・国土交通省「令和9年度予算概算要求概要」(2026年8月28日)
・社会資本整備審議会・交通政策審議会「今後のインフラのマネジメントのあり方について(中間答申)」(2026年10月)
・国土交通省「施工時期の平準化について」
・内閣官房「租税特別措置・補助金・基金の徹底見直しに関する関係閣僚等及び副大臣会議(第3回)」(2026年10月9日)
・国土交通省「道路関係設備(機械設備)点検・整備・更新マニュアル(案)の(一部)改定について」(2026年10月6日)
・国土交通省「AIモニタリングシステムの研究開発を実施する研究開発グループを採択しました」(2026年10月29日)

神宮皐
2026年11月
プロジェクト「日本のインフラと地方経済を救う、優しくて楽しい革命@Taurus_Linxxx」より
-------------------

■無料相談へのお申し込みについて■

【日本のインフラと地方経済を救う、優しくて楽しい革命】をモットーに日々、メンテナンス関連の発信・研究、無料相談を行っています。

インフラメンテナンスにたずさわる ”あなた個人”  がもつ疑問や悩みをともに解決できるコミュニティの構築に取り組んでいます。無料で行っている個人活動ですので、ぜひあなたの声を聞かせてください。

無料相談へのお申し込みは、X(@Taurus_Linxxx)のDM、ブログの問い合わせフォーム(https://linxxx.jp/blog/contact/)からお願いいたします。

030:2027年、建設業は「つくる・直す」から「マネジメントする」産業へ前のページ

ピックアップ記事

  1. 20%が落ちる技術士口頭試験・・・

  2. プライベート・就職・転職を充実させる土木資格5選!!

  3. 申込みだけでも狭き門!道路橋点検士を取得しよう!!

  4. case05:同じ健全度なら、どっちを優先?!

  5. 損傷種類⑤-1:防食機能の劣化(ぼうしょくきのうのれっか)

関連記事

  1. Topics/研究

    012:道路インフラのDX。全国道路施設点検DB有料版公開!!

    BIM/CIM、AI、ドローンなど最近ではこのようなデジタル関連のキー…

  2. Topics/研究

    027:下水道の要対策区間は136kmなのか、748kmなのか?

    すこし前の記事になりますが、国土交通省が公表した全国特別重点調査(令和…

  3. Topics/研究

    028:インフラの所有と利用のギャップを超える — インフラを「みんなのこと」にするために

    道路や橋は、私たちの日常に欠かせない存在です。通勤や買い物、子どもの送…

  4. Topics/研究

    023:定期点検で重要な橋梁点検員と橋梁診断員

    橋梁点検には「点検」以外に「診断」もあることをご存じですか?点検と診断…

  5. Topics/研究

    015:<後編>知ってますよ。道路メンテナンス年報ですよね?

    1年で最も暑くなる8月に【道路メンテナンス年報】という熱い資料が国交省…

  6. Topics/研究

    026:インフラを「つくる」と「守る」は、もともと一つの話だった

    「維持管理の強化」ではなく、インフラ行政の設計思想を変える動きです。今…

最近の記事
おすすめ記事
  1. ⑧漏水・遊離石灰

    損傷種類⑧:漏水・遊離石灰(ろうすい・ゆうりせっかい)
  2. OTHER

    Linxxx座談会06:女性技術者たちが自ら切り開く“働きやすい職場”への道
  3. 定期点検

    case01:橋梁の健全度評価とは?
  4. 再+劣化事例

    再劣化case10:積雪寒冷地域で起こる支承アンカーボルトの抜け出し
  5. 定期点検

    case06:その他部材が橋の安定に大きな影響?!
PAGE TOP